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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-696話 大魔法大戦 ⑧-

 ドレッドヘアにピアスばかりを身に着けた、なんかあちこち見ている方が、痛みを感じ取ってしまう雰囲気の雌ゴリラである。見た目はまあ、毛むくじゃらの体格が大きく、怖い感じがする。しかし、どことなく憎めないと言うか、いや皇子の目から見ても“可愛らしさ”というのが感じられる。


 粗野なのだろう。

 そして、不器用なのだろう。

 もうひとつ付け加えるなら、奥手なのだろう――だから威勢よく吠えている。


 振り回す獲物は“鞭”だ。

 両腕に持つ、二刀流のような雰囲気のであり、これをひとたび拳に巻きつければ、巨大な手を守る防具と武具にもなる寸法だ。

 よくできた武器であると感心すらできる。


 振り上げた鞭が大地を抉る。

 すると、地面を削る際に火花が散っているようなので、これも魔法だと何となくだが気配で察することができた。

 まあ、ピアスと同じで抉られた大地をみると、妙に下っ腹がきゅっと絞られるような雰囲気になる。痛々しさに共感するというか、まあ、そんな奇妙な集団感染だ。


「ねえ、さっきからその、尻穴をすぼめてしゅっと跳ねるの...やめてくれない?」

 鞭を振り回すから、皇子のみならず、見ている鬼人たちが両手で股間を押さえながら、ぴょんと刎ねているのだ。

 こう、なんとも言い難い尻穴をきゅっとすぼめて、下っ腹の不快感から逃れる余り、ぴょんと飛ぶ。

 それを繰り返しているだけだ。

 繰り返しているだけだが、雌ゴリラから見るとまた、違った感じ方がある。

 威勢のよさで、自分の乙女心を装っている。

 強がってシモの話に付き合うようなものだろう――実際は言うほど経験は皆無だ。


 男に指図する時、指を差しながら“おいっ、てめえだよ!!”と叫ぶ。

 親しくなっても名前では呼ばずに、適当に呼ぶきらいがある。

 恥ずかしいので、目を合わさず腕を組んでそっぽを向く。

 まだ、他にも初心なところは多い。

「いやあ、そう何度も鞭うつものだからなあ...」


「ん?」


「女王様プレイが好きなのかと」

 口上による時間稼ぎはまだ続いている。

 6万の兵は、超の国へ戻るフリを見せた兵たちが戻ってきたものであり、彼らを城内へ送り込むのが皇子の務めである。皇太子よりも、六皇子に注目を集めていたのはもとよりその為だ。

 結局、黄天王が本当に警戒しなければならなかったのは、皇太子の方だということになる。

 皇太子は、自らの私兵と共に東宮で挙兵。

 御所内では“金左衛”の大半が皇太子側に寝返っていた。



 蘇王国の国境には、傭兵で固めた砦がある。

 一体どこにこんな兵力が? と、思えるほどの兵員が搔き集められている。すでに黄天との国境、斉王国との接点にも兵が張り付いている。一触即発の条件がそろっていた。

「衛士殿は?!」

 と、蘇王は“プロフェッサー”の彼女に問う。

「私も賢人と呼ばれたひとりですが」

 きつい物言いで返したわけではないが、王は鼻で笑いながら――『女子おなごの出る幕ではない。貴殿は、ご自身の興味が満足に満たせるものに集中成されれば良いのですよ』と、返された。彼女に多くを求めていないという雰囲気だ。

「これは、月の城であるあなた方の総長と交わしたものだが、申し訳ないが...魔法使いなら間に合っている。我らが欲しいのは白兵戦が出来る兵のことだ」


「それならば、用意できると思います!!」

 試作段階だが、ゴーレムがある。

 鬼人たちの盾役としてなら一撃、いやそのまま随行して戦い続けられるはずの製品だ。

 一抹の不安は、試作品だという点だ。

「ほう、その人形...何処まで使えるか。うむ、使ってみようではないか」

 王の一声で採択される。

 結局、衛士は彼女の為に昼餉の買い出しに出ていた。

 工房に戻ってみると、やや悲し気に彼女を迎えてくれた――「外出されるなら、置手紙のひとつはいただけないと」――と、やや怒られてしまった。


 その日から、航空輸送システムの宝船建造ではなく、巨兵つくりへと工房の生産ラインが変化する。

 試作品故に生産量のペースは上げられない。

 品質を保たないと、いざ戦場で盾役の任務を熟せなかったでは、今後の彼女らの身さえ安泰では居られなくなる。蘇王がその気になれば、黄天の乱も鎮めてくれるという期待も、水泡に帰すと思って彼女は動いている。

《総長の為に...成って見せます!》

 一途な思いが秘められていた。



 月の城と呼ばれた塔のさらに上、屋上に魔法によって燃え盛る“目”が可視化されてある。

 イメージ的には恐ろし気なものだが、これは単なるパフォーマンスだ。

 彼らにも出来ない事は、多々ある。

 が、出来ないという言葉を吐くのは簡単なことだ。

 出来ると言って別の何か特別なモノを見せてやれば、出来ない事も出来ることにされる。

 そうやって虚勢を張って生きてきた。

「随分と大掛かりなことを...」

 ここまでする必要はあったのかと――屋上で、肉まんを食している小柄な少女に尋ねている。

 道すがらで買ったのに今まで、鞄のなかにあったことが不憫でと、彼女は告げながらもぐもぐと食べている。

「なら、食べ終わるまで待つが、口の中にモノがあって喋るのは、下品だぞ」

 総長おとこは、今まで鬱陶しかったウイッグを取る。

 長髪で線が細く、色白で物の怪のような陰湿な雰囲気から一変する。

 そうした細々な演出道具から解放されていくと、何処にでも居る普通の青年に見えた。

 髪は短髪、ボサボサとした雰囲気でにきび面、白粉で浅黒い肌を誤魔化していたという訳だ。

「ふぅ~ん、短気っぽいなあ」


「ああ、気が長い方じゃない...でも、言うほど短くもないさ」

 自制は効く、ここまで自分を抑えてきたから、クランの仲間が彼についてきたという実績がある。ただ、長い事自分を偽っていると、どこまで自身であったかの境も、分からなくなってはいるのが実情だ。

「ごちそうさまでした!」

 柏手をうち、肉まんの紙を丁寧に畳んでいた。

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