-41話 魔法学Ⅲ-
魔法使い達のフォーラムに彗星のごとく現れた少女。
皆は、彼女の事を魔法少女マルと呼んでいる。所謂、アイドル的存在というか視点で崇拝の対象に定めたのである。魔法少女マルの虚像は、その神秘性にあった――いや、意図的にそう仕向けられた節がある。これは、同クランの魔法詠唱者の数人が面白半分にだが、彼女の素性を意図的に伏せたことから端を発する。
何をどう、伏せたのかは意味をなさないが、彼女の容姿や雰囲気などを勝手に盛ったことは間違いない。
歳の頃は、18か19歳くらいの小柄で華奢な女の子。
出自を隠し切れない清楚さがあり、どことなく儚げで可愛らしい、西洋人形めいた品を感じられる。
短髪に2本のアホ毛あり、白っぽい肌と金床のような胸は、幼さを残して麗しい。かのハイエルフのような魔力量で我々を魅了する――とか、何とか。どことなくそれらしく書いてあって、マルではない女の子が其処にいるようだ。
流石にこのプロフィールを見た、本人は赤面しながらフードを被りっ放しになった。
「えーどこがイケなかったのー???」
クラン仲間の魔法使いは、人猫の遊び人である。
女性版チャラ男みたいな性格の軽い子で、リアルでもゲーム内でも、セフレという友達が両手の指が足りないほどいると昔、話してくれた。
まあ、そういうお調子者的な性格でマルを紹介すれば、こういう状況にもあるという事だ。
「いいじゃん! 背格好とかは盛っちゃったけどさ! ほら、特徴は掴んでると思うんだ」
「どこにボクがいるの? 短髪に2本のアホ毛くらいしか無いのに」
赤面も通り越すと、ただの涙目だ。
人猫のお姉さんが、マルのローブを一枚、一枚剥ぎ取ってシャツとパンツだけに剥けた子にする。ちょっとしたキャベツの葉剥きみたいな感覚だ。ちょうど芯なのがインナー姿のマルだとして、恥ずかしそうに両腕で胸元を隠すように畳んでいる。
「ボクだって、少しはあるんだよ! 金床じゃないもん!!」
「あ...そこ?!」
「そこ、重要じゃん!!」
「あ、ははは...」
両腕の隙間を縫って、指を這わせて小さな膨らみに辿り着く。
アンダーから脇、そこからトップへ指を滑らせて――。
「まあ、確かにBくらいかな?」
「ん?」
「ああ、カップの話」
◆
「魔法使いって、他のスキルを使用する職業と比較して、ちょっと敷居が高いと思っていませんか?」
小さなローブの指導官だ。
魔法使いフォーラムに動画を投稿してみた。
以前の魔法少女マルという架空の女の子ではない、マルの姿がそこにある。
とは、言ってもフードを深々と被り、浅葱色のローブを着た女の子らしいとしか判然としない情報開示だけの動画配信では、架空のプロフィールの方がまだ、信ぴょう性が高ったかもしれない。とりあえず、マル自身は、そのプロフィールのほぼ全部を否定している。
『ボクはどこにでもいる普通の女の子です!』
と、宣言していた――が、どこにでもいる普通の女の子は、20体以上も存在していた天使を討滅する魔法なんて、使わないものだということを理解していない。
そういう意味では、世間知らずなお嬢様風味が加わったことは彼女の知らぬことだ。
「敷居が高くなるのは、熟練度50あたりでしょうか。それまでの熟練度は、スキルの発動だけで所謂、使用という点で熟練度を獲得していたと思います。しかし、50を越えると途端に熟練度獲得値が減っていることに皆さん気が付いてますか?」
と、マルは問うた。
思い当たる魔法使いは、動画の中のマルが対策を持っていることに察知した。
そして食い入るように、また噛り付くように画面に寄る。
「熟練度50で中位魔法という階位で呼ばれる訳ですが、この先の高位魔法へ到達するには、使用された魔法で成果を得なければならないのです。基本的には、エネミーの撃破で熟練度が上がると考えられていますが、強化魔法と強化付与魔法等の併用や重ね掛けで熟練度を稼ぐ事が出来ます。勿論、エネミーを撃破すれば、重ねた分多く獲得できます」
配信されている動画を見た、この獲得方法を知っている上位魔法使いからは、情報の漏洩だとしてフォーラム運営側に即時、削除依頼が数件寄越された。フォーラムの運営者というよりも、魔法詠唱者協会という組織化させたい管理者たちにとっては、魔法使いのというか会員の獲得に有益として、これらの申し立てを退けてしまっている。
「高位魔法までで75といったところでしょうか。実は、この75がプロかアマかを分ける、ひとつの絶対的な敷居となります。75から100へ到達すると、殆どの場合で終着点となる最上位魔法という階位を得られます。覚えたての小さな火種或いは、氷結体、旋風、石塊...他だと、光と闇の時点では、頼りなかったと思います。最上位ともなれば最強のカードになっているでしょう!」
マルは、カメラの前で指先に集まる、氷の結晶体を作り出すデモを実践する。
その結晶体が生まれたての頃は、彼女の言葉通りに頼りない礫のような大きさだった。
次第にレンズが曇りだすと、氷の礫が氷柱のような大きさへと変化する。も、あっさりとその氷柱を棄てて、彼女は慌てて曇ったレンズをローブの袖で拭っていた。
「最上位魔法からは、それ以前に到達した多くの偉大な魔法使いたちが残した、知識を理解できるだろうという条件をクリアしたと見なされ、多くの魔法が解放されます。属性に関係なく使用できるこれらは、それらがすべて無属性だからです」
やはり、ここまで苦労して到達した上位魔法使いから抗議が殺到する。
プロかアマかで問われれば、上位魔法使いは間違いなくプロの域にある。その彼らは、偉大なる魔法使いたちが遺して記した貴重な魔法を隠匿することで合意していた。
このマルの開示は、非常に腹正しいものと映り嫌悪する。
『魔法少女、許すまじ』という認識で一致する。
これはちょっと別の話となるが、純潔の魔法使いと魔法少女マルの“魔法大戦”という変なイベントが後に勃発することになる。
が、それはもう少し先の話だ。
「さあ、皆さん諦めずに魔法詠唱者協会に入会しましょう!この協会には多くの先輩魔法使いがおられます。師弟関係を組むと、弟子には熟練度2倍獲得の恩恵が得られます...奮ってご参加ください――」
と、マルは締めくくった。
協会という組織化をしたい管理者たちの“してやったり”という顔が目に浮かぶ。
彼らは、敢えてマルを広告塔にして会員を募った。
まあ、これも“魔法大戦”の火種には成るのだが...それも未だ先の話だ。
◆
「お疲れさん、今日のマルちゃんはかわいかったよー」
カメラマンさんがマルに飴玉を手渡している。
それを嬉しそうに受け取った少女は、水着姿だった。
「この調子でちょっと脇乳をさー」
「えー??? それは...パパ、怒るしぃー」
「あー、やっぱダメかー」
困った吹き出しのカメラマンがそこにあった。




