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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-682話 アスク=マユリの戦い ⑨-

 帝国には兵種に楯兵シールダーというタイプがある。

 両腕に、楯付籠手を身に着けているのが特徴だ。

 その楯の先には、金属の杭のような武器が取り付けられ、腕を伸ばした瞬間、約80センチメートルほど前方に突き出す仕組みである。試作品は手動で引き戻して、少量の火薬で打ち出すを繰り返していた。

 試作と改良を積み重ねて、シールダーと呼ばれるようになる頃には、機械式衝角楯パイルバンカーという武器名になっていた。

 その武器を持つ兵が、“アスク=マユリ”市で初めて、目撃されのである。


 西欧戦線でも個体数としての戦線投入は珍しい。

 肉体強化からデザインされた所謂、()()()()とか呼ばれている機密性の高い兵器なので、投入も最上位の将軍から本国に掛け合い申請するものとなっている。

 そのせいで実際に、どれだけの兵数があるのか今でも軍全体で把握しているのは皇帝とシールダーの軍団長のみが知るのみであるという。



 巨楯の脇から、シールダーが数人現れる。

 6人の分隊規模だ。

 武器は両腕の“機械式衝角楯パイルバンカー”であり、防御も兼ねる。

 身体の大きさは、鬼人の武人と大差なくやや、デミジャイアント種にちかい雰囲気がある。

 身体が大きいのは筋肉の量で、瞬発力に富む。頭が小さく見えるのも、筋肉量そのせいだ。


 狙いすましたように銃弾が飛ぶ。

 当然、狙ってる場所が()なら、楯で避けても上体を反らして避けても同じだ。

 その反撃が、帝国側からの一発の銃声である。

 北天側の狙撃兵が確実に、ひとりずつ狙撃されていた。

「狙撃を誘うためにわざと出てきやがったか」

 教会の鐘楼から、スカーが遠巻きに観察している。

 上空の怪鳥ゴーレムは、広域警戒態勢に移行していた――敵情捜索から、甲蛾衆の強襲から部隊オズマを守るために、高度なエネミーサーチを敷いている状態にある。スカー自身も、隊長を二度も死なせたくない感情から動いた結果だ。


 マルや、メグミさん、第一皇子ミカエルも含め、わりと身近にごく自然な形で()()()があったせいだろうか、自己の過大評価が過ぎていたと思わざる得ない。

 “俺たちなら出来ない事は何もない”と――単なる人間相手ならと、高を括って侮っていたか或いは、コボルトのエリートと過信してたのかも知れない。次々と、マイナス思考が身体を埋めていくような感覚にとらわれる。

《これが...プレッシャーか?!》

 頭を擡げると、銃声が聞こえた。

 鐘楼の鐘に当り、銃弾が弾かれた――“()()()()()?!”と直感すると、その場を素早く離脱する。も、射手は鬼人の方だ。

 まあ、誤射のようなものだが、結果的に潜伏しているその射手も帝国兵により処理されている。

 戦場は、頭を出せば叩かれる一方的な、モグラたたきになっていた。



 “ハンタウ”市の上空にも、怪鳥ゴーレムがあった。

 帝国本土からの通達事項には、例えば戦場で確認された“魔王軍の新兵器”という項目もある。

 その中に“飛竜”の目撃談が含まれている。

 今後、帝国に対して敵対する新たな国や、勢力に“魔王軍”の関与を認めた場合は、()は帝国に味方しないと思って事に当たれと、忠告されてあった。

 当然、ハイエルフの領主らも、知っていなくてはならない情報だ。

 しかし、彼らは帝国本土からの回覧板には、まったく興味がない。

 上空から見られている事も知らなかったわけだ。


 六皇子の天幕に設けられた“遠見の鏡”の間。

 怪鳥ゴーレムの身体に積載された、高感度カメラによって撮影されたリアルタイム映像を今、皇子が目撃している。彼は、何度も鏡の裏と表を眺めている。

「先刻、申し上げましたように」


「分かっている。魔法の...であろう。だが、ほれ、このように斥候を送らなくても敵の動きをつぶさに観察できるという技術...技術だよな?」

 騎士は頷く。

「これは、これまでの戦いを変えるぞ?!」

 それでも戦争は醜いものだ。

 帰ると言っても、一方的に持っている側がより有利になるだけで、戦争で命を落とす数の差には変化がない。結局、傷つく人々が一方的に多くなるだけだ。

 双方で折半していた死者数を、片側に押し付けただけのようなものである。

 騎士は――“こいつも同じか”と、胸中で呟く。

「で、あればどうなさります?」


「なあ、あの街を見てお前は、どう見える?」

 砂に半ば埋もれた町だ。

 放置されて何年というものでなく、既に十数年もの間、放逐され忘却されていた雰囲気がある。

 都市としての復活は難しい。

 何よりも、人が生きていこうという活力が見えない。

「死んでますな、とうの昔に...」

 正直に呟いていた。

 見たままに正直にだ――鬼人の将ならば、苦労して得た領土なので都市っぽい砂丘でも、なにか言葉を飾り立てて必死に、()()()()と声高に訴えただろう。

 六皇子は苦笑しながら、

「なるほど、やはりお前はよそ者だ」


「恐縮です」

 罵られたと思った。

 諫言ばかり吐いていた口が災いとなって、故郷のエルザン国父からも疎まれた騎士だ。

 命までは狙われることは無かったが、愛娘の縁談話は白紙どころか、声さえ掛けられなくなった。20年ちかく仕えた仕打ちとしては、死よりも辛いものがある。

 その足で、獣王街のマルに身を寄せたのが転機だ。

 愛娘の縁談は未だないが、彼女が騎士として戦場に立つことはなくなった。

「ふん、満足そうな表情かおをしおって...」

 六皇子の視線が騎士に注がれている。

「お前だけをこの間に置いておるのは、お前が余所者であるからだ。忌憚なく言葉を聞ける...俺の将軍たちでは、この土地に繋がりがあり過ぎる。今まで散々苦しめられたからな。だが、お前らは違うだろ?! だいたい、こんな砂だらけの地を広く治めるような力は、今の北天にはない! 早晩に謀反でも起きて、空白地化するのが関の山だ。だから...俺には、どこが切り取られようが一向にかまわない」

 と、はにかんだ。

 黄天の皇子ではなく、ひとりの北天人としての本音である。

「ぶっちゃけるとだな、俺もあんな砂の城、取り戻したいと思わんのだ」

 それはぶっちゃけ過ぎる。

 領主としては最低の物言いで在ろう。

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