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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-681話 アスク=マユリの戦い ⑧-

 遠巻きに配置している鬼人の襲撃班は、家屋の影にて息を潜めて待っていた。

 北区の街道から街へ、入城してくる兵団を挟撃するのが目的だと、彼らには解説してある。

 別にそこまで単純に、かみ砕く必要はないが、万が一にもというオズマの傍にある鬼人の配慮だ。

 彼が、2万の兵を率いる将である。

「何が起こるのでしょうか?」

 鬼人の問いにオズマは応えない。

 答えを持っていないからだ。


 先行するのは甲蛾衆。

 忍者スキルのエキスパートであり、更にその中から中忍を5人選抜し、約200人規模の下忍を率いらせて臨んだ戦場ということになる。恐らく、彼らだけでもパワーバランスは、不安定な状態になっている筈である。

 そこへ正規の5千兵が斥候の300人と合流したところだ。

「陣を引き払...」

 オズマは背筋の寒さに加えて、腰のショートソードを抜きながら振り返っていた。

 咄嗟に出た条件反射だろう。

 が、その行動が彼の命を繋ぎ止めている。


 鬼人の将帥と似た雰囲気の同族黒装束から、突き出された凶刃を跳ね除けていた。

「ちぃっ」

 と、声が漏れると――姿は瞬きと共にかき消えた。

 将帥の方は、首根を大きな手で押さえながら、力なく膝から崩れ落ちている。

「お、おい!」

 言葉を吐き出そうとすると、口中から真っ赤な泡が噴き出てくる。

 襲ってきたのは、中忍のひとり。

 索敵スキルだけで本陣のど真ん中を強襲したことになる。



 信頼してくれていた鬼人の将が暗殺された。

 市庁舎を離れていた、スカーも斥候から戻るなりオズマの下へ足を延ばしていた。

 彼の腕の中で、大きな男が瞼を半開きにして倒れている。

「もう、ダメなんだろ?」


「ああ」

 力ない言葉だ。

「ここまでひと跳躍で侵入された...んだよな?」


「ああ」

 そういう判断だ。

 振り返った瞬間に、金縛りのような瞳術を貰ったほどの手練れだった。

 僅かに掛かりが浅かったのは、振り返った所作が、気配だけの反射だったからだ。

 これが何の気もなく振り返っただけなら、胸元に“ドスンっ”と一撃貰っていたことだろう。

「なら、陣地を」

 恐らく、街中に置くならサーチも、トレースもされないバフを用意しないと、2度、3度と先刻以上の手練れが送り込まれる。

「――っ、これが甲蛾衆か」

 今更ながらに両手が震えている。

 何度もの握り直しているが握力が戻りそうもない。

 いや、そもそも鬼人を抱えているが、腰が抜けて立てそうにないのを偽装しているのだ。

「俺らも直接、やり合ったことはないが...知り合いがな、酷く根に持って追っていたんだが...忍者っていう職業クラスらしくてなあ、掴みどころが無いって」


「俺が動けたのは動物的勘シックスセンスだと思う。か、もしくは...こいつの警告だったと思うんだ」

 スカーが肩をオズマに貸して、屍から引き離す。

 その足で仙術支隊1000人が布陣し終えた陣地へ向かった。

 都市の真ん中にある市庁舎には、トラップだけが遺された。



「仕留め損ねた」

 弾かれた際にかすり傷を負った、手甲を眺めながら男は、他3人の中忍に零している。

 黒装束、黒頭巾、端の長い黒いマフラー姿という連中だ。

 装束の下はリングメイルと、部位鎧だけを着込んでいる。

「俺たちの動きに反応できる奴が、居るってことか?!」


「たまたまだろ」

 という意見もある。

 敵意感知だけで市庁舎までを捉えたが、城内の敵数までは把握していない。

 ひと跳躍で、現地に赴き、現場判断で鬼人を襲ったものの成果としては、やや少ない見返りかも知れない。

 将軍の死は後日、帝国の知るところとなる。


「化け物のインフレが起きている昨今では、俺たちのような暗殺術タイプは珍しくもないようだな? まあ、モブだし仕方ないが...障害物が多いせいか、隠れている連中が読みにくいな」

 短気っぽい台詞が零れだす。

 もう少しはっきりとした成果が欲しいと思うのは、常々にある。

 暗殺直後は、その衝撃を隠すため、反応はその時々で全く違ってきた。

「身なりは?」


「ああ、確か鎧の縁が“金”だったと思う。いや、少し銀が混じっていたか...」


「はっきりせん奴だな。まあ、この際はだ“銀”だとして、確か5千将以上の将軍か? ならあれだ、酒を奢るのはお前だからな!!」

 と、壮年の中忍が、かすり傷を訝しむ男の胸を指で突く。

 他の2名は、彼の肩を叩いている。

 甲蛾衆では、暗殺で得られるボーナスを、呑み代に使う習慣がある。


 殺した者と、殺された者へ献杯する為だ。


「索敵範囲外に奴らは出たし、こちらも中に入り過ぎた...陛下の性格からしても、敵兵に1000の貸しがあるままでは、清算しないとチャラなんて言わんだろうしなあ」


「ああ、其処が問題だ。大方の当たりはつけた...が、罠である可能性は高い」

 気乗りはしない。

 無理して返す、()()でもない。

 大通りに巨大な楯が横列を強いていたが、今は、適当なところで歩みが止まり陣地化している。

 何処からともなく、発砲音が轟き、銃弾を楯が明後日の方へ弾き返した。

 と、同時に帝国側からも一発の銃声が響き、暫くすると『ぎゃっ!』なんて悲鳴めいた声が、風の音しか聞こえない廃墟の中で響いたのだ。

 それは、明らかに人の声だった。



 トイレの扉一枚を挟んだ攻防は、未だ続いていた。

 家人からすると、愛娘がお友達を連れて帰ったことに大騒ぎで、トイレ前の攻防に何ら不可思議さを感じていないことだ。

 この娘にして、この親ありと、いったところだろうか。

 屋敷のメイドが『トイレは冷えるでしょうから』と、クッションと毛布を用意してくれた。

「あ、す...すみません」

 トイレ戦争を止める気は、全くないという事を理解した。

 アリスの目の前には6枚も連なる豪奢な扉である。

 このうち一つが使用中で、鍵をかけて閉じこもる人ありだ。

 洗面台は3つで、鏡の下に配置されてある。


 よく見れば、お湯も出るらしい事だ。

「ほう、なかなか」


「でしょ!」

 自慢げな声が扉の向こう側から聞こえた。

 マーガレットの発想から、屋敷の工夫が作ってくれたものだ。

「屋敷の中の自慢したいことがあるなら、その扉をだな」


「ヤダ! ダメ!」


「おいおい...私の腰を冷やさせる気か?!」


「なら、便座にどうぞ」

 温かいですよと、告げた。

 トイレは扉一枚、隔てた別の世界に誘ってくれると、マーガレットが誘う。

 そんな、バカなとアリスが根負けする形で便座に腰を下ろすと――火属性と風属性魔法の恩恵で、便座が生暖かく腰を包み込んでくれた。

 致すと、土属性が感知して脱臭してくれるというサービスもある。

「な、なんだ?! これは!!!!」

 

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