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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-670話 才知の攻防 ⑰-

「光よ、我が意に従え“雷光ライトニング”!!」

 スライムナイト、兜に三本みどりの指し色を持つグリーンに魔法の矢が迫っていた。

 これを彼が召喚した、雷光で撃ち落として見せている。

 しかも、ただの一撃も、グリーンにヒットすることは無かった。

「なるほど、魔法の矢を操る故に...“天弓”という冠位というわけか」

 傍らで、しゃがみ込んでいる戦士にも一瞥はした。

 ただし、その興味はもう殆どふたりに向けられていない。

 スライムナイトとしては、聊か拍子抜けという感じだ。


 対峙する“天弓”とて、禁断の魔法書の中にあった、超位魔法というインデックスから、引っ張り出せる最高の攻撃魔法を放ったという自負がある。冠位を得れば、無条件に閲覧可能な禁断の魔法書には、発動条件と、次弾装填クールタイムまでの他に、使用上限などが解説付きで書かれてある。

「大方、無属性という処だけしか読んでいないと見える...」

 唐突に、グリーンは左肩の埃を落とす。

 続いて、右肩だ――眼下には蹲っている“雷槍”と名乗った男の姿がある。

「最上位魔法までは、自分たちの素性とそれに影響する属性によって縛られている――それが、魔法の性質だ。誕生年や、月、日にも細かく設定された、四ないし五か六の属性に縛られる。通常は、それら要素から一番色の濃いものをパーソナルカラーと呼んでいるわけだが...魔法習得の上で一番、習熟度が高いもの、耐性の成否も個人色に影響する...だが、最上位を越えた先には、無限という世界ひろがりがあるものだ。...ただな、魔法書には、記載条件項目というのがあってな、それが“無属性”なのだよ」

 首を横に振りながら――『教科書グリムモワール通りのままだと、威力と効果が半分以下でしかないことを...もう少し考え及ばせるべきだったな...他人の褌で土俵に上がった気分はどうだね? その魔法の矢はな...ドラゴン数匹と対峙して地上に叩き落とす、紅玉姫さまのものだ!!』

 単に大声で叫んだだけだが、人相手であれば失神も誘えるものだった。

 賢者というだけあって、精神攻撃への耐性は万全だが耳は痛い。

 耳穴から血が流れだしているから、鼓膜が破れたようだ。

 禁断の魔法書には、確かに多くが()()()で書かれてあった。

 術式を組み上げると、自身の属性に縛られない魔法も行使できた。

 その成功例をもって、何故に無属性かを研究することはしなかったのも事実だ――あの術式に己の属性を加えるのか?!――と、悟。



「超の方は?」

 連絡員ヨネは、斥候の人狼に問う。

 彼らは今、休憩中である――暫し、待つよう促された。

「それよりもバルカシュ領の方が、きな臭くなってきましたよ?」

 帝国の国境演習が、限界を迎えているという話だ。

 焦れてきたのは、隣接している領国の人々ではなく、もっとずっと遠方になる領国の領主たちだというのだ。遠方の領主たちの関心事は、北天の西進についての問題である――バルカシュのような広大で堅牢な地があっさり落ちたことに不安を抱いたのだ。

 今まで大きな負けを経験していないから、領主ひとつひとつから見ると、局地の勝ち負けでもゆとりがなくなると見える。

 皇帝としては頭の痛い話だ――。

「で、やっぱり来るのかな?」


「恐らくは表向きにでも、小競り合いで勝ちを拾いに来ると思われます」

 その表向きでも、双方の損害は、少なくはないだろう。

 少なくとも数千は失うとみてしまう。

「鬼人の人たちと帝国軍ではやはり地力が違うよね?」


「ええ、帝国の構成兵種は亜種混合となりますが、ヒト種を中心とした職業軍人です。しかも、後方から長大な射程を誇る大砲による、火力を集中してからの騎兵突撃ですから...北天の地上軍との相性は最悪と言えるでしょう。初手から白兵戦を挑む戦法の封印が必要です」

 ヨネに話せば、長姉にも届く。

 彼女の判断を仰ぎたげれば――である。


 人狼らのひとグループが、肉の追加注文をとった。

 休憩の延長が続く。

「ねえ、そろそろ」


「あ、もうちょっといいですか?」



 バルカシュ城の改築は、ほぼ終了した。

 帝国から助力と称して数千人の工兵が、参加しての工事だった。

 もっとも彼らが携わったのは、城の外郭となる角堡の大規模改修の方である。

 今までは、城下町を盾にして、その内側に角堡がある多角形の星形要塞だったのだが、北天の新領主は城下町も城郭の一部として取り込み、町の外まで水堀と城壁を設けている。

 その工事に彼らを利用したのだ。

 工事に参加した工兵が国元に戻ると、早速、()()()させられたのかという、聴取が始まる。


 まあ当然だろう。

 人手を要求した時から軍師として、自分ならば()()()()()()()()()かについて、考えを巡らせた。

 ひとつ、帝国が“面倒な相手”と思うのはどこか。

 ふたつ、食指を伸ばしたくなるスキは?

 などと考えたのち、領主である六皇子に後事を託している。

 考えるのを止めたわけでなく、現地にある皇子のセンスに賭けてみた。

 結果、肥大化した巨大な城塞であった。


 そして、それと同時に“蜀”領側にも城塞を築城している。

 帝国式城の居心地の悪さがある。

 どうしても、他人の家という雰囲気が抜けない感じだろう。

 尻穴がムズムズする、そんな感覚。

「城主!」

 六皇子と呼ばれなくなったのはいいとして――。

「なにか?」


「国境が慌ただしく」

 来たか、と瞼を閉じる。

 ここまで半年も満たない、せいぜい3か月いや4か月に入る頃。

 軍師が予言したリミット。


 皇帝の方も粗方、準備が整った最後の戦いだ。

「よし、軍議をはじめよう」

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