-38話 魔法少女マル ②-
開幕一番の全魔力解放といった少女は、天変地異を引き起こさせている。
先ず、天候支配による急激な気象変化。晴天からの曇天、更に気温の低下、雪さえも降り、地表部や浮遊島に降りる霜など僅かな時間で世界を凍り付かせている。レイド戦をしている冒険者には、予め抵抗魔法にて身体保護を施した後、ステータス異常を軽減する属性強化魔法を唱えておくよう指示してあった。
これで、浅葱色のローブを深々と着込んでいる、ちっこい魔法使いが繰り出す環境異常から守られる。
詠唱呪文をを唱えているわけではない、術式展開を極端に省略化している“魔術式紋様”をなぞりながら、口ずさんでいるのだ。
呟くようにボソボソと。
ベックやルーカスからはマルの姿は、米粒のように小さく見える。
それだけ離れた場所にいるのに、彼女の展開する魔法の触手めいたゾクゾクとした何かが背中や足に巻き付いてくる。違和感だ、ぞっとする悪寒でもある。この違和感にすべての物が反応している目の前のエネミーもだ。
その都度、前衛のタンク役のプレイヤーは“フラッシュ”を用いて天使の目を潰している。
まだ、20秒足らずの出来事だ。
◆
1分が過ぎた頃、豆粒の魔法使いの周囲に立方体の魔法陣が顕現する。
数は、4いや5はある。魔法詠唱者として、その道を歩んできた冒険者の反応は、様々だ。高密度に圧縮されている魔力のソレが明らかに異質、いや異常という状況にあるのだが、神々しいという言葉しか思いつかない。
マルの周りには、幾本もの氷の刃が生み出されている。
まだ、溜めの状態のようだ。
ぶつぶつ呟いている。
が、ローブ奥の瞳が瞬きでもしているのか、不規則にチカチカ光っている。
まだ、幾らも攻撃を受けていない状態で、彼女からは血の匂いがする。
「奥の2体、ボクを見ている! タゲをちゃんと取って!!」
マルの怒声で、すべての冒険者が我に返った。
5つの立方体魔法陣に心を奪われていた冒険者は、天使たちの視線がマルに向けられているのを知る。
いや、この視線は“フラッシュ”だけではもう、手遅れだと分かる。
「高位魔法城壁、属性魔法盾展開! 癒しの大聖堂発動! 神様、ボクに奇跡を...」
浮遊島に出現している天使たちの攻撃初手は、マルの脅威排除からはじまる。
開幕一番は彼らにもっていかれてしまった。
オープンフィールド故に、敵も味方も結局入り乱れて、タゲを取り合う事が出来る。
その為、出来得る限りタゲが重複しない様、天使をパーティごとで引き離しておくのがセオリーだったが、その原則よりも魔法少女マルは、眩く光ってみえたという事になる。
天使たちが全力で排除したいと思うほどに。
天使たちは、マルから距離が離れていたため光属性の雷撃弾を放っている。
抵抗属性がないと、その威力を100%受けることになる。
判定としては、抵抗属性を持った上で強化処置されていなければ、約10%減させた90%をその身に受けることになる。大概は、装備品の何かしらが数%刻みで幾らかの減少値を稼ぎ、物理的に最大50%まで軽減できる。
しかし、上位魔法詠唱者らは、保有するスキルで相殺さえ行える。
世界で数人しかいない連中のことだ。
海を渡ったとある国には、課金要素である光属性と闇属性を極めた化物もいる。その彼らは、同一属性ならば相殺し、四大元素は75%まで抵抗できる魔法城壁を展開できる。
マルが展開した高位魔法城壁は四大元素を防ぐそれの光属性用。
属性魔法盾は、ランパートの属性強化用。
最後の癒しの大聖堂は、それでも相殺できなかったダメージへの即時復活魔法といったものだ。
それらどれもが、詠唱中の術式とは別に唱えられ展開する。
そして、最上位魔法まで到達した魔法使いのみが知り得る、上位魔法群であること。
着弾後のマルは、平然と直立不動で詠唱中であった。
やや埃を払うような仕草も見せている。
絶対者のような雰囲気だ。
ただ、天使たちの視線は取り返そうにもないと、冒険者らは悟っている。
それは、余りにも彼女の姿が眩しすぎるのだ。
ここまでで僅か1分43秒までの話だ。
◆
5つの立方体魔法陣が重なりあう頃合、足元に大きな魔法円が展開され、彼女は両腕を大きく横に伸ばしている。立方体が多角球に変化した時、彼女は大きく叫ぶ――
『拡張・超位魔法術式展開! 飛翔氷剣誘導弾ッ』




