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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-653話 帝国との交渉 ④-

 グラスノザルツ第三帝国にとっては、領土のひとつを盗られたに過ぎず、そのひとつをぐるりと囲むように、大小さまざまな衛星国おうこくがあった。バルカシュは北天にとって鍋の蓋であったが、吹き零して蓋を除いても、北天かれらは鍋の中の水でしかなかったという顛末だ。

 何も変わっていない。

 帝国からの交渉には北天側にメリットはあっても、帝国には何ら旨味が無い。

 メグミさんは、その旨味の無さについて違和感を直感的に感じていた。

「この世界の平均的な人口比率が分からない...けど、このバルカシュの動員率からみて、周辺を考える――」

 話し相手は、姫巫女の魂入りクロネコである。

 仰向けにして、白い毛が混じる柔らかな腹を撫でていた。

 クロネコの方は、メグミさんの機嫌だけを損なわないよう努めている。

「この規模でも10万もの兵が出せる。でも、領内経営に障りが出るから、普通は最大動員なんてしないから、ざっと2~3万ってとこでしょ...でも、コレが同じ規模で周辺にあってもとより囲まれてたとすると...」

 身震いだ。

 その試算はあくまでも、メグミさん個人が脳内の電卓で弾いたものに過ぎない。

 そしてこの数字は、状況によって上下するという事だ。

「だとすると、余裕で奪還も可能なのに何でしないのか...マルを警戒してる? それは考えられる...けど、魔法詠唱者マジックキャスターを放っておくはずはないし。――かつてイズーガルドの折も、あの子は真っ先に狙撃ねらわれた...今度も必ず...」

 戦争できるのに()()()という処が違和感の根源だ。

 メグミさんは、クロネコのお腹に顔を埋めている。

 考えるのを止めると、ネコの匂いを嗅ぐのだ。

 ネコも、そうなるだろうと思って、前もってぐったり伸びている。

《ネコ、やめたーい》



 連日ではないが、数度目の会談が始まろうとしている。

 会場とされた場所は応接間から、掃除も終わった中庭にセッティングされている。

 食堂から持ち出された、傷の無い卓上とガタガタしない椅子が用意され、白いテーブルクロスが敷かれてある。わざわざ陽の当たる場所にした理由が、“今日は、天気が良いので”である。

「まあ、確かにそうですね...ええ、天気がいい」

 差し込む日差しの強さは、春のような暖かを感じる。

 じっとりと額に滲むのは汗だ。

 室内だと思って少し着込んだのが災いのタネになった。

「それで」


「本題ですね」

 と、言い出す前にメグミさんが、静止を促してきた。

 咳ばらいをひとつ吐く。

「北天から捕虜を買ってください!」


「は?!」

 六皇子も含め、会場のすべての人間から、変な声が飛び出した。

「な、何を...今、から賠償の...え?!」

 グラニエさえも疑念が顔を覆っている。

「そういう言葉であった方が、分かり易いと思たんですよ。少なくとも、この後も拡大路線は止まらないでしょう。でも、本国には戦後処理は任されていても、こういう交渉ごとの権限は...我らにはない。休戦がそもそもの狙いだとするならば、本国の連中には“()()”があったことを素直に伝えるのは危険でしかないんです...この六皇子ひとの命に係わる」

 メグミさんは、青空の下でそんな話から切り出していた。

 ただ、帝国にしてみれば“形だけの報告ならば、何もなかった”と、報告すればいいとさえ思ったが。グラニエ本人も、同じ立場で顧みてしまっている。

 そして何となく、腑に落ちたような色になった。

「ご懸念もっともですな...帝国と北天の間にこの交渉はなしあいは無かったのですから、当然、捕虜が城を出るには大儀が無い」


「ちょ、何を言ってるんですか?!」

 と、帝国から派遣された役人からも声が挙がる。

 意図は理解されていない。

「買いましょう!」

 即答だった。

 もっとも、もとよりそのつもりでもあった。

 伝令を通じて、皇帝の言葉がグラニエの下に送り届けられた頃からだ。

「話が早くて済みます」


「それと、...っ、協定ですが?!」


「応じる用意がありますが、期限付きですか?」

 騎士は微笑みを浮かべ――ようやく本題に入ったと感じた。

「なるべく早く悲願の達成を願っていますよ、勿論、期限付きです――14か月まで待つとのことです」

 寛大なのだろう。

 バルカシュの防衛を、14か月以内で固める必要もあるが、それよりも姫巫女の救出も同様に、その時間内で行わなければならない。何をしても、大目に見て貰えるのは正直、破格な待遇なのかもしれない。

「返答に困ります」

 六皇子は鼻息荒く、乗る気満々だ。

 これを蹴って、期間が伸びるとは考えられない。

「返答を急ぐ必要はありません。これは、もう少し先でいい...捕虜の...我が国の兵たちが――」


「その必要はありません。お受けいたします...そ、その条件で!!」



「――で、話が終わったんだ」

 ()()という声が続く。

「もとより、北天からこの地の経営は、六皇子の担当になってるからね。私の出番はまあ、ここまでってとこかなあ。結局は、あの帝国のいっちばん偉い人の手のひらの上で、転がされてた感じかなあ」

 癪に障るけどね――メグミさんは、自分で淹れた紅茶に口をつける。

 クロネコは、足元でミルクを舐めていた。

「あとは、帝国の提示した金額で、(六皇子らが)捕虜を売ったことを納得するかだね」

 マルも同じ紅茶にフーフー息を吹きかけていた。

 同じ動作をヨネもしている。

 しかし、よく見れば、よくも似た者同士だと思えるふたりだ。

「帝国の提示額は?」


「いや、もう支払われたわよ」

 ふたりから重なったボイスで“早っ”と吐き出された。

 タイミングも同じだった。

「確か、兵を10人単位で棒金1本と交換とか?」

 ざっくりの試算だが、金貨千枚ちかい価値と同等なのが棒金だ。

 これが数万の帰還兵の代金として支払われた。

 数千本の棒金だから、荷馬車1台いや、2台が後日、城に届くと言うのである。

「はぁ?! 数千...うっっそ???」

 ヨネが目を回して昏倒した。

 マルは、ヨネの倒れる方向にクッションを素早く敷いた。

「お姉ちゃん!」


「いや、別に冗談じゃないんだって」

 この報告は、すぐさま北天本国へ届けられた。

 黄天王国内では、尋常ではない額と、臨時収入に国内が湧いた。

 が、同時に七王国会議が招集される――七王国で、均等分配するべきだというのが議題である。

 “月の城”のクラン長もこれに出席し、各王に楔を打ち込んでいく。

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