-37話 魔法少女マル ①-
「グエンの我儘を聴いて欲しいのだが――」
ベックを前にして、カーマイケルは開口一番にそう告げた。
当の本人はやや戸惑った雰囲気で、目を白黒させている。
「お前の傭兵団不信はよくよく理解している。それでも、グエンは俺にとって大事な奴だ。こいつの頼みであるならば、極力叶えてやりたいと思っている」
ベックは、深く頷き――『大事なか、いいな...あれからお前も大分丸くなったんだな』と納得しているようなのだが、カーマイケルの方が戸惑ったような体を返している。
「お前は何を?」
「あれだろ? 俺が仲人を務めれば」
「そいう話は一切、していない」
「は?」
ベックがぽかんと口を開けている。
「俺が言いたいのは、お前のところのマルという少女のことだ」
マルの名が出た時点で、ベックは愛娘を守らんと身構えている。
カーマイケルが『あの子と添い遂げる』とでも言おうものならば、獣人化して喉元に食らいついてしまいかねない雰囲気があった。
「また、お前は何か酷く勘違いをしていないか?」
カーマイケルは冷静にベックを宥めている。
「お前に告げずにルーカスに切り出せばよかったかな...」
「どういう意味だ」
「理性ある会話ができるという事だ」
肩を竦め、深い溜息を吐いた。
ベックは昔の気難しさが微塵にも無くなっていた。棘がとれていい意味で丸くなっている。
「しかし、お前は本当に生き生きしているな。余程に水が良いと見た」
「ああ、いい仲間に恵まれたのさ」
「羨ましいな」
優しく語り掛けるのは久しぶりな感じがした。
カーマイケルは、ベックに再び告げる。
「マルという少女とパーティを組ませてほしい」
「それが、グエンのたって望みだ」
◆
背格好がマルと変わらない竜麟甲冑を着込んだ少女は、ローブを深々と被った女の子を前に片膝をついて騎士らしく振舞う。
「お初にお目にかかります。ウチは、“緋色の冒険者”でリーダーを務めていたグエン・シートと申し上げます」
緋色と聞いてローブの中の子が、大きく仰け反ったのをふたりは見逃していない。
それでもグエンとカーマイケルは深く頭を垂れている。
「私、“国境なき傭兵団”が総長代理・カーマイケルと申します。この度は、急なパーティ替えに応じて頂き恐悦至極にございます」
と、謝辞を貰った。
が、マルにとってはお尻がムズムズ痒くなる作法だ。
「やめよーよ、かたっ苦しい」
「しかし」
「緋色だって聞いて驚いたけど、君らはボクをどう呼びたいの?」
マルは、被っていたローブのフードを取ると、ピンク色の髪をかき上げた。
「紅玉姫? それとも、マルちゃん?」
前者をくれぐれも呼んでくれるなよオーラを発している。
余程のKYで無ければ、呼ばない雰囲気だ。
「ま、マルちゃんで」
「じゃ、気にしないでやってこー!! で、ちょっとやってみたい事があるんだけど...」
彼女は、開幕一番に全魔力の解放を試してみたいと告げた。
凡そ、元の世界でもそんな大それた、術式を展開した行為をしたことがない。
いや、紅玉姫の遊撃隊の強みは、彼女の火力支援ではない。彼女が必殺の剣となって道を切り開くところにあった。
その為に仲間は、熟練の緋色さえも手玉に取る見事なタゲ取りを敢行していた。
一瞬でも紅玉姫を見失えば最後、手酷い火力が投じられてしまう。
緋色の賢者や軍師は、その攻撃で受けた傷がもとで指や足を切り落とす羽目になった。
だが、今、その恐るべき剣が仲間として存在している。
「開幕で一撃となると、天使たちのTAGを一身で集めてしまわないか?」
カーマイケルは呟く。
「だからタンクの子たちには、出来得る限りに時間を稼いで! 開幕2分で術式を展開するから」




