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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-650話 帝国との交渉 ①-

 帝国の使者として訪れた一団は、総勢20名。

 護衛と称した兵士は、毛色の違う騎士団で10名と満たない。

 構成のほとんどは、書類作成などに長じた役人風の者たちだった。

 使者として訪れたのも、先の戦いで手を尽くしてくれた、聖櫃出身のふたりの騎士である。

 すでに知己を得ていれば、遠回しのくだりも必要ないと踏んでの配慮だった。


「要件は単刀直入にどうぞ?」

 案の定、メグミさんが場を仕切り始めた。

 もとより六皇子に実権が無くなっている証拠でもある。

 グラニエが口を開こうとした瞬間――。

「いえ、待って……そう、そうだった、帝国から領土を勝ち取った私たちから、要求を差し上げるのが道理なのかしら……ねえ、皇子さま?」

 展開がよくわからない。

 皇子はメグミさんに尻肉を抓られながら、俄かに返事を返している。

 グラニエの“そうきたか”という、流れの目の色でメグミさん側も合点がいった。

 帝国が本当に話を持ち込みたい相手――マルを含む“世界”の調停者にだ。



「――簡単に出したことじゃないのは分かるけど、ボクは君の判断に“NOノー”と言わせてもらうよ」

 マルは、水桶から飛び出しタオルの中に潜り込む。

 瞬きのほんの一瞬で、バスタオルを巻いた少女に変身していた。

「俺は!」


「そんな、恨めしそうにボクを見つめるのは止めて欲しいな。...っそうか、お姉ちゃんのことを君は勘違いしたんだね...なるほど、抜け道か。うん、そうだなもっとはっきり君に言わねばならないか...代償の話を――」

 マルの目が怖い。

 いや、彼女から見て剣士の方が、鬼気迫る雰囲気だ。

 好きな女性ひとに認めてもらいたくて“強くなる”と藻掻いている。

 彼は、今、心身ともに鬼になろうとしていた。

 いや、もう、成し遂げているのかもしれない。

「ボクも気がつかなかったけど、この世界と重なった時に“()()を迫られたんだ”...“世界”にどちら側に留まるのか、進むのかと。ボクはもとよりスライムで怪物クリーチャーだけど、()にいや、亜人になるチャンスがあった...断ったけどね。お姉ちゃんは、ボクの用意したチューニング済みのアバターを好んで使ってた。元の姿は人犬族ワードッグだったみたいだけど、ベースのアップデートによって今は別物だと思う――」

 マル自身も、メグミさんが獣化した姿を知らない。

 そもそも彼女が、見せたがらないのだ。

 ()には未だ早いと言って。


 それでも、剣士は不思議そうにマルを凝視している。

 彼女はタオルを巻き、髪は別のタオルで水気をとっていた。

「だからその時、彼女も“世界”から迫られたんだと思う。人になるのか、別の世界で生きるのかと、恐らく誰もがこの世界に来た時に進むか留まるかを選択して、重なったここに存在しているのだとボクは思ってる――君も、その時...おそらくぼんやりと選択したんだと思うよ、転生する可能性も含めて」

 大きな話だ。

 いや、当方もない大きすぎる話だ。


 剣士は、槍使いとの蜜月を選択した。

 エサ子と一緒に居たい気持ちも強かった――強い想いで二人と一緒に今、ここにあるのだ。

「じゃ、あ...」


「ここで死んで、転生できるんだとしたら...魔力の根源たる地に文字通り委ねる外ないと思う。ボクたちは、そこから生まれた訳だしね...あ、いや、ちょっと違うか...違わないけど。ちょっと違う...」

 結局、どっちなんだと――マルの部屋にヨネが入出。

 そして、悲鳴が轟く。

「何事?!」

 マルの目が見開かれた。

 大皿のようにまるくだ。

 今、息を吹きかけたら、痛いと言って泣きながら転がるだろうほどにだ。

「マル姉!」


「はいっ!」


「した、下、履いてない!!」

 そりゃ、沐浴後である。

 下着をつけたまま浴槽に浸かるほど非常識は持ち合わせていない。

 いや、水着を身に着けて温泉に入ったら、ベックパパにしこたま怒られたことはある。

 が、その直後でメグミさんが、パパをしかりつけていたのは良い思い出だ。

「...そうじゃなくて、タオル下半分まで足りてないって!!」

 ヨネの金切り声が、マルの小さな胸を貫いていく。

 剣士の両眼には、マルのつるっとしたスジが映り込んでいる。

 暫くの間、マルの天然によって剣士は、眼福と楽しんでいたわけだ。


 ふと思い返す――人の姿になった、マルは得意げに講釈をぶった時。

 髪を拭きながら、胡坐をかいた。

 いやその前に、タオルを探すため、四つん這いに這いずり回ったことなど思い出す。

 どばどばと噴き出す汗の滝。

 赤面で顔のパーツが見えなくなる――ほどなくして、彼女はスライムに戻っていた。

「お姉ちゃん、サービスしすぎ」

 これは、剣士のオカズの話だ。

 マルの抗議は聞こえないフリを見せ、

「剣士さん、お姉ちゃんのどうだった?」

 ()()だったとは比較対象が槍使いの方である。

 言葉に詰まる青年がある。

 揶揄われていることは承知しているが、流石に別の子のソレを見る機会は無いだろう。

 張り詰めていた空気と言うか、糸だろうか、或いは空回りをしていた自身の想いか、いずれにせよマルと話、マルのを見て、ヨネに弄られて――消えていた。

 ずっと抱えてたものが、はっきりと消えたわけではない。

 しかし、今は重たくはない――不思議とだ。

「綺麗だったよ」


「そう、いいもの見れたかなあ」

 部屋の隅に隠れようとしているマルを、ヨネが小首を傾げてみている。

「なあ、マルちゃん」

 箪笥の隅にいるピンク色のスライムは、アホ毛だけ覗かせた。

「俺のスキルって全部まっさらに出来るかな?」

 今までで真っ当な質問だ。

 “転生してから、本気出す”とかいう話ではない、方向性のものだ。

「無くはない。ただし、一度失えば今まで蓄積した熟練度は全部白紙になるけど」

 少しだけ、間が空いた。

 ヨネも息を繋ぐことを忘れるくらいの間だ。

「いや、それでいいんだ。白紙ってことはまた、色が塗れるって事だよな」


「うん...」


「...っでも、ステ振りは...」

 ヨネが堪らず口を挟む。

 スキルは熟練度を蓄積させて、成長させる。

 ステータス、冒険者プレイヤーの成長は、そのスキルが成長過程の際に、ランダム判定で付与されたボーナス点を用いて育成させてきた。同じスキルの取り直しは、成長過程中に付与されるはずのボーナスを、受け取ることが出来ないデメリットがある。

 完スト前であっても同じことだ。

「心配、ありがとな」

 ヨネに声を掛けた剣士が、ちょっと逞しく見た。

「当てなんだが」


「あるよ...」


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