-643話 バルカシュ攻略戦 ⑬-
「ああ、そういえば変な声で鳴く、とてつもない硬いやつを斬った!!」
(≧△≦)……こんな顔をして叫んでいる姉がある。
刀工墨壺と名乗っている刀鍛冶に、古今東西の一振り大太刀を打たせた。
まあ、彼女もタダで名刀を打たせたりはしない。
払える代金が無かったわけではないが、刀匠が可愛らしい少女だったこともあって摘み食いである。
蛇イチゴに、青柳で海と野山を堪能しきって、締めの菊花でずぶずぶだ。
そんな贅沢な一振りを豪快に振り回していたら、刀は折れるわ山羊だか羊だかも、バッサリ二等分になって腐臭がひどいことになったアレである。
肉片の始末は当然、ウルジの町の住民が行った。
当然というのは、町の危急を救ったのがメグミさんであったからだ。
文句も言わずに淡々と彼らは仕事を熟してくれた。
が、その話をあまりしなかったのは、大太刀が真ん中からぽっきり、折れた事で沈んできたからだ。これから付与魔法や符よスキルの強化を行うはずだった。
つまりは、試し切りがしたくて工房から持ち出すと、豪快に折ってしまった。
刀匠の下には、折れた作品が返ってきたという顛末だ。
所有者も泣ける話だが、作った本人も泣けた。
墨壺は、1日半ほど泣き明かしたという。
3日目になると煩いので、メグミさんの実技で大人しくさせた。
「ああ、それであの時(630話 ウルジのお祀り ②/32行目)遅れて来たんだね!!」
と、ヨネが何かを察した訳だ。
「勘のいい子は嫌いじゃないけどね」
長姉の目つきが少し怪しく光った気がする。
ヨネはお尻を両手で覆うと、
「わ、私はノーマルの方で」
「何の話?」
マルには鈍い時がある。
アンテナは敏感だが、そこに意識を持っていかれると、判断力が極端に下がる傾向にあった。
これは、クランの娯楽室でTVを見ていた時も、本人はベックに薦められたドラマ鑑賞に首ったけになって、下着姿でウロウロしていることに何の躊躇もなかった。
上はロングTシャツを着て――。
胸のロゴは“かりば~ん”と書かれてあるヨレヨレのシャツだった。
他のクラン員から注意されて、ようやく自分の姿がモラルに反するものだと知ったという。
「マルちゃんも開発してみる?」
これは中毒性がある。
慣れる前は遺物挿入感が記憶を置き換えて侵食し、少し苦しく窮屈に感じるだろう。
それに、菊花の周辺が傷つくと暫く疼きながら、座り難くなるというデメリットがあった。
「お姉さんの指使いがエロい」
外野だ。
柱に縛られた皇子が零した。
「男のアレには興味は無いけど...」
尻の奥がきゅっと閉まるツボが押された気分になった。
「お、おい!!」
腰を捻って、菊門を襲う手から振りほどくも、ヨネの眼には大きく膨らんだものが飛び込んできた。見たことが無いわけではない。
治癒士だからこそ人体構造にも入念に学習した。
キノコの形、種類、曲がり方も調べて一応には、学習したつもりでいる。
ただ、標本では無いモノを見るのは初めてだった。
「こ、これが...ボッキ?!」
ヨネの呟きに――皇子からは『違うよ、お嬢ちゃん、違うからねえ~お兄さんのチンコはその程度のもんじゃないよー...あ、えっとねえ...すっごく太くて、硬くて、凶器だから』と自薦する行為はどうなのかなと、マルは目を細めている。
「ところでさ」
マルが話題を変えた。
埒が明かないと思っただけじゃなく、興味を持ったヨネが耳まで赤くしながら『触ってもいいですか?』と言いかねない状況を脱したかったからだ。
少なくとも、言い繕う言葉があるとすれば、コメ家の娘たちは研究熱心なのだ。
「ベヒモスまで帝国は、投入できるのかって問題だよね」
今までは、帝国の立ち位置は侵略者だった。
魔王軍が世界秩序と均衡を保つための調停機関として、“世界”から派遣された存在と言うのは、まだごく一部しか知らない事実である。
思惑はそれぞれにあるとしても、対人兵器ベヒモスを操るのが帝国だとすると、彼らはすべての生物から忌避される存在へ駆け上がることになる。
それが本意であろうと、なかろうとしてもだ。
「いや、私が斬った時は目の前を奔る帝国兵を追ってた。彼らが死に物狂いで“SOS”を叫んでいたから、私は彼らの為に踏み込んだんだよね」
と、案外似合わないセリフを吐く。
これがメグミさんクォリティという処だろう。
「それで刀折るんじゃ世話ないね」
マル的には冗談だったが、メグミさんにとっては突くべき点では無かった。
仕返しは、気を緩ませていたマルの菊門へ人差し指の挿入である。
左の手で尻肉を掴みながら、第一関節が潜り込んでいた。
「うっ、きゅーっ!!!!!!」
甲高い声で鳴き、今や“突貫”、“突貫”と叫んでいた兵士たちの顔が、ほんの一瞬、本陣に向けられた。今しがたの声はなんぞやと、詳しく確かめる為のモノではないが、皆の時間が一寸だけ止まった感覚の共有だ。
マルはお尻を抑えて悶絶し、皇子の足元に蹲っていた。
「妹にも容赦ないな?!」
「ええ、全く...姉としては、もう少し敬って欲しいだけですのに」
と、刺した指先の匂いを、微笑みながら嗅いでいた。




