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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 女王エリザベータの帰還
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-36話 女王エリザベータの夢-

 天上から降り注ぐ慈愛に満ちた、光は地上をあまねく照らし、人々は笑顔に満ちてみな幸福そのものであった。

 地上では民が、神殿を設けて天上の有翼人を神と崇めて愛してくれた。

 その光景を女王はまだ、王女であった頃に覚えている。

 そして彼女には、かわいい弟がいた。


 王になれるのは、女性だけという一族においての男女差は大きい。

 一族の血統を守る点においての種馬ほどにしか考えられず、これでもしも、病弱であった場合の仕打ちは最悪である。絞れる種も満足に生産できない木偶の棒と見なされるのは、火を見るより明らかな事だった。

 幸い、彼女の弟は一族のなかで生きて行くのに不自由を強いられることはなかった。

 が、その彼自身が城を棄てると宣言した。


 これが災いのはじまりだ。


 いや、そもそもエリザベータに弟がいるとは誰も知らなかったことだ。

 長女であるエリザベータにのみ関心が向き、また、彼女もそう演じれば女装をしている弟の存在が知られることは無いと固く信じていた。目論見は成ったが、結果的に城を出るのが遅くなってしまった。

 天上宮の歴史において、最初の汚点であり最初の裏切り行為となる。

 城を出る晩――姉エリザベータの下に弟が訪れた。

 今生の別れを告げるためだが、彼女はひとりの男性として彼を迎え入れた。

「あなたを失うのが怖い」


「いえ、私が生まれ落ちた時より別れは必然だったのです」

 彼は、熱い抱擁を求める姉に付き合う。

 元来より、弟を男として見ていたエリザベータにとっては、離れるのは許しがたい行為だったが、宮廷において他の誰かの種としてのみ存在し続けることの方が別離より甚だ息苦しいものはなかった。胸を締め付けられる感情の堰を切って、彼女は彼を求める。彼の背中に爪痕を残すほどの情愛を注ぐ。

「私を姉を忘れるでない! 決して忘れないで!」

 むせび泣く。嗚咽で言葉にできたか分からない。

『あなたを私は、愛している』と。



 堕天使、いや反逆児として歴史に名をのこす事の無い戦の記憶がある。

 エリザベータの弟は、有翼人であること棄てた人々と共に天上宮と一戦を交えている。

 そもそもの理由は定かではないが、この戦いは地上に住む人々のごく一部にしか記されていない。

 教会では歴史上、はじめての天上と魔界の戦いだと記されているが、魔王軍は戦線に参集しなかった。いや、参戦していたら勝敗はどう転んだか分からなかったろう。

 結果的には、魔王の静観によりエリザベータの弟・アッシュロードの反乱は鎮圧されてしまった。

 彼はその身を白銀の槍に貫かれて絶命したと伝えられる。


 あの光景は、彼女にとって直視できなかった。


 次の王は誰もが嫡子・エリザベータと思っていた。

 父親の違う弟の存在を無視しても、エリザベータの即位は揺るがなかっただろう。しかし、彼女は大剣を手に取り、腹心の天使たちと共に放棄する。いや、女王の座を簒奪すると宣言し、自らを“天上の魔王”と自称する。真っ白な4対の翼を自らの手で1対、千切り棄ててこれを黒く染めたのだ。

わらわは、天上を統べる王、魔王その人である!」


 これは、ひとつの記憶だ。

 エリザベータには、息子がいる。弟アッシュロードとの間に出来た子だ。

 古い友人やつてを得て、地上のどこかに隠した子だ。

 可能であれば、穏やかに生きて欲しいと願った子だ。


 そして戦いは、7昼夜休まず続く。


 天空を奔る最上位魔法の数々。

 天上宮を守る島々が、魔王の咆哮で堕とされるという迷惑な戦い。

 次第に追いつめられる女王に古い友人が訪れる。

 エリザベータと母王にとって古い友人だ。

 地上にある魔王と呼ばれた、ひとりの学者――彼は賢人セージ・アストロフィルと名乗って、地上のあらゆる場所に訪れて回った放浪者である。

「お前の子を守ってやろうか?」


「憤怒で狂ったとはいえ、元は嫡子... 十数年かけて施した術式の前では母王とて贖い切れまい? ここで残すべきその腹の子を我に預ければ、少なくともバランスは守られよう」


「バランスだと?」


「そうだ、バランスだ」

 賢人の恐ろしい視線が女王に向けられている。

 彼は、母子にとって共通の友人であるが、心を赦して付き合ったことは無い。

 この魔王ひとりで十分に女王と戦える存在なのだ。


賢人おまえには何んのメリットがある?」


「見返りがないと何もしない、木偶と一緒にされるのは心外だが...そうだな、ワレは狂った宴の第二幕を見てみたいのだ。お前の子は、ワレの下で強く生きる。いや、誰よりも強い少女となるだろう...魔王自らが鍛えても良い」


「千里眼か...予知?」


「どちらでもよい、好きに呼べ」


「預けるならば、早くしろ? お嬢ちゃんが今にも乗り込んでくるわ」

 と、魔王は拍子が抜けるほど高笑いをする。

 いや、見えているから余計に余裕のある行動ができている。

 そして、言われるがまま、母王は腹の子を預ける決心に至る。

「願わくば、人の子として天寿を全うさせてくれ」


「叶えられぬ望みではないが、それはこの子の選択による...ワレの出る幕でもない」


「それでも...な...」



 エリザベータの反乱は、母王の討滅。

 弟・アッシュロードの遺骸を解放して後、終結する。

 被害甚大な戦後処理を受けて、天上宮は天上の魔王と自称するエリザベータの居城と知られるようになる。勇者とその一行、多くのクランが女王を目指して戦うまで、200年の時を要している。


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