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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-633話 バルカシュ攻略戦 ③-

「死兵覚悟の連中は、本当に死ぬぜ...」

 いいのかい?と、今更、念を押すような言い方に変えた。

 これは極めて単純かつ危険な特攻であるということだ。

「我ら北天の兵に臆病な者はいない」

 マルの目が細くなった。

《その超軍が戦争病を患ったということはもう、帳消しになったのかな》

 ヨネが施した治療は、気持ちを強く保つというバフだ。

 ブレイブハートという単純な魔法は、対象を単体とするものだが、ひとりが元気になると周りも伝染するように明るくなる。今のところは、これで十分に時を稼ぐことができる。

 時間稼ぎ程度だが、戦争が始まれば、それぞれの将軍たちが勝手に“鼓舞”してくれるだろう。

「人選は?」

 グラニエが問う。

 彼の眼がいつもの道化っぽいものではない事が危険度を表す。

 当然、短槍の騎士も、いつになくマジに見えた。

 いや、こいつは愛想が無いやつだった。


 マルが挙手。

 一堂の驚いた顔はコントである。

「ボクは逝かないよ!」

 少し、がっかりする聖櫃の騎士。

「...なんか含むところがありそうだけど、武者ゴーレムの実験がしたいから、持ってきた2体を参加させたい。別に絶対に参加させたいって訳じゃあないから、六皇子の気が済まないってんなら取り下げるけど」

 ちょっと、意地悪したくなったという雰囲気だ。

 エサ子も手を上げた。

「ボクも行く」


『は?!』――剣士と槍使い、ハティの声が重なっていた。



 決死隊の作戦は、至極簡単な案で出来上がっている。

 城の秘密通路を抜けて、中庭に出て、兎に角できうる限り城の守備隊を混乱させるというものだ。送り込める人数としても百人あたりが限界だろうと踏む。

 城塞の主が脱出する時に使用するのだから、出るのには容易でも、その逆も容易とは限らないという事だからだ。また、通路にのびる長蛇の列というのも間抜けな話だ。

「そんな大層な情報と図面を持っているのに、下見もしてないの?」


「いや、しましたが...その時は...ま、まあ、ユニークスキルを使って逆走した訳でして...そ、その生身は、ちょっと」

 鼻の頭をふたりして掻いて誤魔化している。

 逆送の道順は頭に叩き込んである。

「マル殿の苛立ちも分かります」

 ――生理なのですね――と、六皇子が呟くと同時にスリッパで叩かれた。

「余計なお世話です!」


「マルちゃんは、ボクより2日遅いんだから違うもん!」

 エサ子が吠えて、やはり叩かれた。

「どうでもいいわ!!」


「エサちゃん行かせても大丈夫?」

 片足が裸足のままの少女を指している。

 時々、自分の手に持つ靴下の先の匂いを嗅いでいるだ。

「こんなみっともない癖があるけど、こと白兵戦で右にも、左にも出る将軍と言えば、アロガンスさんとラージュさん位かなあ。あ、ラージュさんはウナちゃんのお母さまだから、これは別個か...」

 やや耳を疑う情報をさらっと口走ったマルは、エサ子の両肩をぽんぽん叩いている。

「頼りなことなんて無いし、この子なら生還も困難じゃない!」

 ただ、マルは部屋を見渡して、一緒に行くと言い出しかねない人間ふたりに視線を止めた。

「君たちは確実に死ぬから、行かない方がいいよ。エサちゃんが守り切れなかったって言って悲しむ顔は見たくない。だから、ボクの後ろに居ればいい」


「しかし...」


「いや、マル殿の御配慮に私からも礼を言わせてほしい」

 ハティは首を垂れて、謝辞を送る。

 槍使いの方は、ハティの眼からでも技量とセンスは一流の輝きを放つ。

 騎士モーリアンが目を掛けた娘だと理解できた。

 が、フレズベルグの教えを受けた、剣士には上級職へ上がれるほどの経験値は溜めたと思えるが、どうにも其処どまりという雰囲気に見えた。努力は裏切らないと、励ましに使えても現実はとにかくシビアにできている。

「将軍!」

 剣士にも自信めいたものが身についたあたりだ。

 ハティは首を横に振った。

「君には、身近の守りたい物に専念するという、スタイルを貫いて欲しい」

 ハティの隻眼は、槍使いを真っ直ぐ捉えている。

 恐らくは、(剣士自身が)護られる側になるだろうが、槍使いは深く頭を下げて頷いた。

「は、はい...お気遣いありがとうございます」

 槍使いも、黒衣の騎士装に身を包み込んでいる。

 聖櫃の短槍の騎士とも既視感がある槍の使い手だったが、彼女には別次元の強さを知覚できる目を持っていた。だから敢えて、この場では名乗りを控えていた。

 妹のように思う、エサ子が戦場に赴くとしてもだ。

《足手まといになる方が辛いから》


「では、残りは鬼人だけか?」

 再び、マルが手を挙げた。

「気が変わりましたか...先生?」

 ざらっとした空気の変化があった。

 マルの眉間に皺が寄っている。

 やや目つきも悪そうだ。

「や、冗談ですよ...」

 グラニエがお道化た。

 お道化ないと何が飛んでくるか分からなかった雰囲気だ。


「グリーンらも参加したいって言ってきた」

 周辺図と城塞図しか広がっていない机上にスライムが三匹、上がり込んできた。

 もっとも足元に居たのをマルが、救い上げただけである。

「グリーンって?」

 “これですか”と、指を緑色のスライムを指す。

 三姉妹が揃って頭を縦に振った。

「三匹のスライムナイトだよ」

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