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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-629話 ウルジのお祀り ①-

 ザインから荷馬車が来た。

 帝国に組みしてからは、交通の要衝でありながらも交流が無くなってしまって、旅商でもあまり寄り付かなくなってしまった感があった。

 交易品の結晶塩塊クリスタルソルトも、生産量と消費量のバランスが悪くなっていた頃だった。

 帝国とくに、バルカシュ城塞の領主は基本的に搾取しかしない。

 領内の交易品は領内経営の要とせず、領主に私腹を肥やすためだけの物としていた。


 だから結果、国内の貧困は解消されていない訳だ。

 仔羊を打倒し、エルフの手から人々を退けた北天の兵らを、彼らは救世主だと囃し立てた訳だ。

「別に北天とは関係ないんだけど」

 メグミさんの下には、酒を継ぎにくる人々が絶えない。

 はにかんで微笑むしかできなかった。



「結局、ザインに置いてきた北天の兵は使わなかったってこと?」

 荷馬車の近くにヨネが居る。

 その馭者は、北天の兵だ。

「いえ、兵団は移動しましたよ。もうすぐ、“セレクトス”の街に入る頃です」

 と、告げた。

 荷馬車の積みには、マルとスライムナイト3匹、武者ゴーレム2体であった。

「姉さま、またこんなの作って...」

 末妹によって呆れられた。

 スライムナイトという話し相手が居るから、極端に言えば独りぼっちではない。

 だが、やっぱり寂しいものだ。


「来ちゃった」

 と、言ってヨネを抱擁したかったが、彼女はマルの取った行動は“軽率”だと、諫めていた。

「あれ? 嬉しくない」


「嬉しいですけど、マル姉さまが目立つと警戒が厳しくなる可能性が」

 ま、帝国に目を付けられていることは間違いない。

 方々で散々に事態を掻きまわしたのだから猶更だ。

「大丈夫、大丈夫...隠れることに関しては、ま、一流だから」

 どこから、そんな自信が生まれるのか。

 早速、武者ゴーレムを起動させた。

「造形だけなら、芸術品の域ですね」

 感心はしている。

 ただ、作りっぱなしと言うのがいけない。

 人型兵器も結局は、魔王軍が保管してくれる条件で、城の奥深くに封印された。今、普通に稼働しているのは、輸送用の飛竜ゴーレムなどくらいだ。ドラゴンの姿を目にしなくなった世界で、ドラゴンの姿を真似た生物ではないものが空を飛ぶ。

 皮肉を通り越して滑稽である。


 他で猛威を振るっているのが、戦場の違う場所でだ。

 シェイハーン領での“タマネギ”ちゃんの兵団であろう。

 緋色の冑とも共同で国境線を守っている。

 作ってから放置している物件ではないが、まあ、似たようなものだ。

 あっちこっちでオーパーツが生まれている現状がある。

 ヨネの心配は、その製品の悪用であるのだ。

「で、このゴーレムさんたちですが」


「お! やっと食いついてくれたか、妹よ!!」

 マルの眼が輝いた。

 諸元の自慢話が出来るのは、今やヨネとメグミさんしかいない。

 ベック・パパが居ればもっと饒舌になっただろう。

「はいはい」


「この武者は、鬼人のステータスをベースに設計した新型モデルなのだ!」

 一体、何に対して新型と読んでいるかは不明だ。

 だが、彼女の鼻息は荒い。

「戦士級のステータスを参考にして、肉体の強化だけでなく耐久性と俊敏性にも手を加えた。筋力を単純に増やすと、体重が増えることが分かって...」

 ヨネが再び呆れているのは、話が見えない事だ。

 何の為に造ったのかという動機が、現状の戦力不足から生じていることは明白だった。

 だがそれでも、関わり方を考えれば、ゴーレムのようなオーパーツを作る必要性が無かったことだ。

 マルは、関わること放棄した。

 およそ直感で危機を感じているのかもしれないと、ヨネは理解した。

「筋力量ではなく、強化と耐性は補助魔法で補いうことに...どうしたの?」

 目が点になっていたヨネを気遣う。

 と、同時に――

「ひとつ変化がありました」


「ん?」

 メグミさんの頭上に鎮座している、クロネコの話を掻い摘んで告げた。

 擬装を施した術者はヨネであること。

 条件は、メグミさんの近くであることだ。

「巫女、本来の器が今、気掛かりです」

 北天に赴き、巫女を攫うのは容易なことではないだろう。

 少なくとも不慣れな土地に赴くのは、瞼を閉じて欄干の上を歩くようなものだ。

「うん、確かに気掛かりだけど...それは、大丈夫じゃない?」


「...」


「ほら、巫女の存在は、北天くににとって大事な指針。で、器から魂が抜かれて行方が分からない。まあ、死霊術者などが居れば、微かな痕跡でもこの地域に当りを付けられると仮定して、肉体と魂の関係を熟知していればだ...巫女の身体に何かするとは思えない。もしも仮に肉体が死を迎えたら、彼らの眼の届く位置に魂が降臨する可能性は極めて低い――」

 マルは、死霊術なんてのは習得していない。

 ゴーレム製作の経験的なもので語っていた。

 仮住まいの肉体が、同居人に拒絶反応でも見せない限りは、追い出すことは難しい。

 また、根無し草になった場合の聖女降誕はもう当分、難しくなるだろう。


 いや、その前に六皇子一派が、北天に対して叛旗を翻す未来も見える。

 彼らは妹姫が人質にあるから手も足も出せない状態にあった。

「肉体に魂魄を戻す術式とか」


「蘇生術の応用でならなんとか...いや、多分、蘇生術リザレクトの解体が難解かも。そもそも、魔法の解体と再構築における学術知識スキルの体系が枯れたから、ボクでも数年分の解読時間が必要になる。...それに、魂魄そのものを黄泉から引き戻して、再生させた肉体に還すのではなく、魂魄の痕跡が肉体の中に()()されていると考えられているから、成立するプログラムだからね...」

 顔の前に大きなバッテンでも引かれたように、しわくちゃに表情を変えている。

 そのしわくちゃぶりにヨネでも、今すぐにでも巫女が自分の身体に戻される危険が無いことを知った。と、同時に居場所の当たりが突き止められた場合の危険度を改めて認識し直した。

「ま、向こうに追跡魔法のスペシャリストでも居ない限りは...いや、スペシャリストが居ても誤差は出るから、まあせいぜい街か...地域かなあ多分...」

 と、マルの呟き。

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