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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-626話 北バルカシュ海戦 ㉝-

 少年は、自身の魔術回路のすべてを分霊の為に必要な容器に回していると告げた。

 マジックセンスという素養は、肉体を一時的に容器として複数の魂を同居させることが可能になる。しかし、それは精神力オドの大半を器の維持へ送り込むために、自身が魔法を使うとなれば条件の禁を破ったことになる。

 この場合の“禁”とは、シェアハウス解消ということになるのだ。

「また、面倒なことを」

 メグミさんは胡坐をかき、天井を仰いだ。

「結局戦力では無く、巫女のAIゴーストと話してるだけではないか!」


「ゴースト?!」

 不思議そうな顔をしていた。

 が、亜人のアーチボルトは――。

「それは、賢者も同じことを言ってたよ。本来の術式は、現在、囚われの身である巫女そのものをこちら側に召喚する予定だったって」


「ほう、それは興味深い...召喚ではなさそうだな」

 興味を引いたのは、ヨネも同じだ。

 古代魔法というよりも、実践応用魔術といった当たりの音色に聞こえた。

「先生が言うには、術式が不成立に終わったために分霊だけを引き抜いたんだって。だから、今、あっちにある身体の少女は魂の無いただの肉塊なんだって...」

 それは、エサ子から肉体と魂を引き抜いた時に生じたアレと同じことを意味する。

 もっとも、巫女の方は巫女でなければ、ただの王族の公主ひめでしかない。

 ここに政治的な魅力は無くなってしまう。


 もしも、彼女が公主に戻った場合の黄天の立場はどうなるのだろうか。

 普通に考えれば、分霊の行方を追うだろう――北天が東方の大帝国であると言えるのは、未来さきを見通す力を持った聖女が居るからである。

 対外的には、今も健在であると装ってその実は、躍起になって探すと言ったところだ。

「ちょっと待て...と、なるとだ...分霊の依り代候補と言うのは一体いくつあるんだ?」

 メグミさんの素朴な疑問。

 巫女である少年は咳ばらいを行うと、

「解説しよう! 私が生まれた年と日に誕生した男女、すべてが対象になる!!」

 凄いことを言ったというドヤ顔を見た。

 いや、目撃させられた。

「それは、地域に関係なくか?」


「まあ、ある程度距離があると、魂の持つ魔力の膜が消えてしまうから、肉体の死別から数日以内までが限界かな...うん。そんな感じ」


「なるほど、それで合点がいった。要するにだ、北天の中から出られないのは、その魔法量が転生先を転々とするうちに薄くなってきたという事か。本来は、魔物並みのずば抜けた才能であったろうにな...」

 見てきたような言いぐさにも聞こえた。

 ふたりの眼が点になっている。

 それは、メグミさんも気がついていたが、何も言わなかった。



 マルは、聖女に会ったことがある。

 聖女を見出したのもマル本人だ――魔王軍に参加する前だから、だいぶ前の話になる。

 最初は、治癒魔法の効率的な術式を習得させた。

 ただの水をポーションに精製させるすべも教えたが、後の時代の人々の信仰の対象となった聖女かのじょは、ついに全裸の女神像を多数つくられてあられもない格好を強いられた。

 もう、殆ど放尿にちかいスタイルで聖水を染み出させるという。


 聖女は、マルと各地で冒険譚を紡いで、後にこう呼ばれる――“龍を御する乙女”と。

 その分霊があっちこっちで時々、人に憑依するという訳だ。

 北天では、千と数百年連綿と、人の世界で分霊の世渡りが紡がれてきた。

 “座”に戻ることなくである。


 だから、この話を聞いていたメグミさんは、納得した訳だ。

 この巫女の力もう、殆ど残っていないと。

 もう少しまともに未来さきが見えていれば、彼女が召喚したかった者をはっきりと呼べたはずだ。回りくどくもエサ子を介してきた当りが限界といった当たりか。

「どうしたんです? 押し黙って...」

 アーチボルトは、ぐったりとしたネズミをメグミさんの前に置く。

「これは?」


「採れたてです」


「いや、これ...は?」


「採れたてです」

 喰えと言う訳ではないだろうと勘繰った。

 だが、アーチボルトはわりと真剣に微笑んでいる。

「いえ、ご遠慮します」

 ヨネが姉に代わって丁重に返している。

 美味しいのにという声が漏れ聞こえたのことについては、聞き流した二人だ。

「人の噂ほど早いものは無いだろう」

 爪を噛むそぶりを見せるが、そういう癖は無い。

 メグミさんの心配事は、北天の中央の話だ。

 巫女が腑抜けであることは、連中の上層部が既に知るところだろう。

 で、もっとも可能性があるとすれば――今、ここということになる。


 理屈ではどうあれだ。

 六皇子の身辺で一番、腑に落ちない人物というので()()の存在を“超”王国軍の伝令は伝えたに違いない。

 そして、黄天の斥候が送られてくるのも、時間の問題で在ろうという事だ。

「何か良からぬことを考えてますか?」


「いえ姉さまのは逆です」

 ヨネは応える。

「少年を隠す必要と、不自然さを払拭させることだ。当然、六皇子の下には既に素性不明の少年が居ることは報告済みとみる。これを正直に隠せば、より一層に巫女との関係性を疑われる...それでは守り切るのは至難といえる」


「では?」


「隠さないが、隠す!」


「意味不明!!!」

 アーチボルトの変な鳴き声が聞こえた。

「いや、それだよ」


「え?」

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