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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-624話 北バルカシュ海戦 ㉛-

 鼻先にぶら下げた人参に漸く手が伸びた化け物は、斥候の一群を喰らった。

 その後を追っていた軍監らは歩みを止めて気配を殺すよう、指示をする。

 魔物が、後方の数万と前方の生き延びている数騎を品定めしているからだ。


 気配という単純なのではなく、明らかに捜索サーチスキルが放たれた気がした。

 魔物が立ち留まり、後ろを軍監らを伺う素振りも見せる。

「音を立てるな」

 軍監は、周囲の兵士に声を掛ける。

 その傍から、逃げ出す兵もあった。

 舌打ちさえも憚れた現場。



 魔物が発したユニークスキルは、かなり広範囲に影響を与えた。

 それは、距離にすると数キロという単位までに及ぶ。

 僅かに後方の軍監を認識するように視線を交えた気がした。が、魔物は振り返るのをやめた。

 そして、鳴いた。

 雄たけびにも似たソレは、城の地下にある他の2匹を興奮させたものだ。

「な、なんだ?」

 突如として走り出した化け物に引っ張られる魔物使ビーストテイマーいたち。

「あ、あの方角は...」

 指をさす方向に街が見える。

 “ウルジ”があった。


「誘導は成功です」

 兵士は安堵したようにため息をつく。

 だが、軍監はそれどころではない――あれが、解き放たれた事実のほうが問題だ。これをどうやって散歩から檻に戻すのだと、そういう事で頭が真っ白になっている。

 攻撃して、傷つき、最悪でも死んだら...


「まあ、そうなったら北天の...」

 戻ってきた化け物に兵士が食われた。

 軍監らはその兵士の下から、蜘蛛の子を散らす勢いで離れていた。

《あれは、恐らく耳がいい...いや、感覚的に()()()()()()()()()()のか直感で動ける》

 と、すればこれは大きな問題だ。

 少なくとも、兵士5万人は憎悪と、嫌悪に満ちて“勝手にくたばれ”と思っているということだ。

 それでも、ウルジを目指すのは、そちらのほうがエサが多いからである。

《ジレンマだ。町が落ちれば、今度こそ我々がエサになる。しかし、子羊の成り行きを目撃せずして、帰参することもかなわない。やはり、間接的にでも目撃が必要なのか...》

 独り言ちながら、頭を抱えた。

 周りを見れば、兵士の顔はおびえる市民のそれと同じものが浮かんでいる。

「これで戦争? いや無理だな...」



 ハティは、獲物の柄で剣士の胸を小突いた。

 彼は普段の青銅の鎧ではなく、厚手になめした皮革の鎧を身に着けていた。

 騎士フレズベルグ卿の教えでは“常在戦場”という大きな括りがある。

 いかなる時も油断は大敵という意味だ。

 別に、慣れ親しんだ甲冑でなくてよいと説いた。

 いや、達人の域ともなれば、武芸者は獲物を選ばずという言葉に倣ったものだ。


 だから剣士も状況を想定して、目に留まった獲物を用いて戦えるよう訓練を積んできた。

 今まではブロードソードでなければ、剣技ソードアーツが使えなかったが、デッキブラシでも知覚領域の範囲を広げ、抜刀術を繰り出せるまでに成長していた。が、本人はそれでも満足していない。

 ハティに小突かれたとき、その知覚範囲発動中であったのにも関わらず、彼の予備動作さえ気が付くことができなかったからだ。

「何事ですか?」


「今は大事故、俺の話はまた別の機会とするが...」

 目の浮かぶ怒りが見える。

 肉食獣特有の凄味だろうか、圧を感じられる。

「もしや?」


「何か、とてつもなく禍々しいものが来た」

 子羊の気配は、数分ごとに大きく迫っている。

 ハティでさえ悪寒がすごい。

 ともなれば、目の前の剣士は()であるからなおさら、寒気病気を疑うレベルである。

「もうひとつ...」


「なんだ?」


「もうひとつ東から来てますね...」

 体を半身に東へ開いて見せた。

 その方角には、ヨネが向かった門の方である。

「確か、メグミ殿が来ると」



「メグミ姉さま」

 いらっしゃいと、声をかけるのも変な感じだ。

 別れてから幾日もたっていない。

「その分だと、交渉はうまく運んだとみていい?」


「ええ。十分といった形ですね...でも、イレギュラーな対応に追われまして...」

 メグミさんの頭が西へ向く。

「あれ...じゃないよね」

 禍々しい気配はどこに居てもよくわかる。

 ヨネは苦笑しながら、

「あれじゃないと思うけど...多分、関係がないとは言えないと思います。あ、マル姉さまは?」


「マルちゃんは、おとなしくしてると思うよ」

 とは、言ったもののそういう自信はない。

 マルが大人しくしていたことなどは殆どないからだ。

「ま、たぶん大丈夫」


「うーん...心配ですね」


「ヨネちゃんが帰ってみる?」


「いえ、私が交代すると治癒士居なくなって、このパーティ崩壊しかねないので」

 メグミさんも簡単な治癒魔法ヒールは習得している。

 ただ、ヒーラーと呼ばれるような称号にまでは至れない。

 彼女はどちらかというと、魔法剣士なのだからだ。


 アタッカーであるエサ子も、治癒魔法は持っているが、自分を対象にした自己回復スキルだ。

 他人を快癒させるようなものは持ち合わせていない。

 そうなると、治癒専の魔法使キャスターいが必要になるのだ。


 特に――西から近づいてくる悪寒の正体に対抗するためにも。

「そういえば、あの少年のことなんだが」

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