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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-622話 北バルカシュ海戦 ㉙-

「肝が据わっているのか、馬鹿なのか」

 ハティは、平服に戻ってくつろいでいる。

 卓上には“ヨネ”があった。

「もっと大きな後ろ盾があるのでは?」


「...と、言うのは我々に話していない城主の素性か」

 スライムは頷く。

 ピンク色のスライムの背に蝋燭の光が映る。

「助っ人は呼びましたが...」


「マル殿か?」

 身体を震わせ、

「メグミ姉さまです」

 マルは、魔王と呼ばれて注目を浴びすぎている。

 これ以上、世間の注目を浴びては、いずれどの町、国へ行っても彼女は常に変装をせざる得なくなる。そうなれば、もともと行動範囲の広くはないコメ家三姉妹だから詰んでしまいかねない。

「その、彼女も雰囲気から強いとは思うが...」

 陰に埋もれすぎて光の強弱が分り難い。

「強い光に飲み込まれがちですけどね」

 ヨネの自信を買うことにした。



 ザインの街、宿屋の離れに倉庫がある。

 帝国が侵攻した際に奪っていく糧秣を保管しておくものだが、今は、マルの工房と化している。

 末妹ヨネも外へ、長姉メグミさんも出て行った。

 街に残されたのは数十万の“超軍”と、マルだけだ。


 お供についてきた、スライムナイトは森へ入って食材探しに出ている。

「精が出ますね?」

 マルの背中に声を掛ける。

 将軍もただ、待つことに慣れていない様子だ。

「あ、ちょっとそこに立ってください」

 マルが彼の手を引いて、壁際に立たせた。

 天井は高く、二階建て――一部が吹き抜けだから、ちょっと大きなものを作っても、倉庫を壊さなくていい。いや、作ったものを出すのはどうするの? という疑問は残る。

「え? な、なに...」


「うん、鬼人の人たちは、やっぱり大柄ですよね!」

 少し感動して見せている。

 柏手を打ち、目を輝かせていた。

 それから暫く経つ。

「そろそろ...」


「ちょっと待ててくださいね」

 マルは、奥からヒト型の鎧武者の手を引いて現れた。

「まだちょっと、調整が必要なんですけど」

 意味がよくわからない。

 将軍の右隣に直立させた。

 右目端から、目だけを動かしてちらちらと覗くように見る。

 気にしていないように装う必要はないのだ――だが、彼のプライドがそれを邪魔していた。

「うーん、もう少し筋肉が必要かもなあ」


「賢者殿?」


「楽にしててください」

 マルは、暇だった。

 暇だから、ゴーレムを作ろうと思った。

 これに理由はないが、直感的な事由からくる。


 “戦力不足”である。


 スライムナイトは3匹ある。

 隊長がひとり、副官レベルがふたりの3匹だ。

 この分隊でならば、冒険者のパーティーを複数相手にすることができる。戦争、こと白兵戦という乱戦であれば数千の単位の中で大立ち回りができる戦力だ。それでも、マルの目には“戦力不足”と映る。

 鬼人が、何十万もあっても同じである。

「横に並べると、少し貧弱に見えるなあ」

 鎧武者のゴーレムの方が貧弱に見えている。

 マルの目よりも、傍に立つ将軍の方を見れば分かり易かった。

 彼自身、立派な角を二本、額から突き出させている鬼人だ。

 武芸も飾りではない水準で修めている。


 それでも、真横のゴーレムに悪寒を感じていた。

 これは生物の生存本能いや、危機回避の方だろう。

「...」

 のどが鳴ってしまった。

 額や首筋から噴き出る汗に塩気はない――ぶわっと噴き出て、ざっと流れ落ちる雰囲気。

「け、賢者殿」


「あ、ご苦労様です...あれ? どうしたんですか」

 これが天然のオタク道である。

 周りの状況などまったく見えていない。

 発汗でぐったりしている将軍の乾物をマルは、はじめて知覚したのだ。

「み、水を...」



 帝国の宮殿には、あからさまに悪戯書きでもしたような壁画がある。

 いくつかの染料を用いているが、そのどれもが魔法を帯びたものである。

 魔法をかじったことのある者ならば、その不可思議さに驚嘆するだろう。

 そして、暫くにらんだ末に“扉”であると察知する。


 宮殿内には、多くの転移門が作られた。

 帝都に築城された宮殿が、方角ごとに3つの()が建立された。

 北宮殿が最も遠い位置にある――そして、その宮は、ラインベルク2世の居城だ。

「アリス・カフェイン。招集にあずかり参上致しました」

 質素な絨毯の上に膝をついて、首を垂れている。

 彼の肩に手が置かれるか、言葉を掛けられるまで動くことも、立礼することもできない。

 そのままの姿勢で、ずっと声がかかるまで待つのが通例だ。

「陛下?」


「...」

 袖にあるだろう給仕長を探す。

 北宮殿は、ごく親しい臣下でなければ、招集ばれることはない。

 そういう意味では、アリスも皇帝の寵愛を受けていると考えていい。

 ただ、そう思った時が凋落のはじまりともいわれる。

「なあ、これは世間話だ...」


「は、はあ」

 アリスへ投げられた言葉とも捉えなくもない。

 が、袖の給仕長は、首を横に振った。

「東をどう見る?」

 帝国は、征討軍を東に送った筈だ。

 そう、数か月前の御前会議で決して、議会から戦費を得て軍が徴発された。

 バルカシュから更に東へ侵攻するためである。

「バルカシュ要塞城主、クリスナム公が指揮を掌握されれば、近く大規模な戦闘へ入られるものと思われます」

 アリスの脳裏に、バルカシュ海の周辺地図が浮かぶ。

 かつて彼が見た地図には、軍の展開図が刻まれてあった――数は、100万を超える大群であり、塩湖の水面を埋め尽くす船の模型が印象深い。

 ただし、連戦続きの衛星国にはもう、想定した兵力を供出できるだけの体力はない筈だ。

 これは、諜報を得意とする甲蛾衆の調べで明らかになっている。

「あの外道にか...」

 虫の居所が俄かに悪くなった雰囲気が、部屋を襲った。

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