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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 女王エリザベータの帰還
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-33話 グエンという彼女-

 マルチバトルが展開される地域は、主に王都周辺に限られている。

 地上戦で魔物たちを倒すと、天使の欠片を手に入れられる。これをキーにして、下位の天使を召喚し討滅する。その過程で再び、上位天使を呼び起こすを繰り返す訳だ。

 しかし、事はそう単純でも無かった。

 下位天使のHP総数が3本だった事が、傭兵団の報道官によって吐露され、当初は独占する筈のマルチバトル・フィールドを解放し、多くの有力なクランと共闘すると方針を転換した。やや冷ややかな失笑を誘ったが、夜桜衆とタッグを組んでいるザボンの騎士がわだかまりを越えて共闘を表明し、静観していた他のクランもこの姿勢を評価した。

 総長代理としてのカーマイケルは、部外秘を惜しみなく曝け出して当初の疑心や疑念を払拭するよう努めた。

 結果的には、表面的かも知れないが協力関係という絆を得る事が出来た。



「いや、相変わらず調整となると、カーマイケルの右に出る者はいないね」

 感心して、拍手しながら彼を天幕に導いた。

 明らかに小柄という表現は似つかわしくないが、カーマイケルとは頭一つ小さいくらいの騎士が待っていた。甲冑は紅色、左肩にドラゴンの頭部を象った意匠を身に付けている。胸元のプレートメイルに心臓を掴む腕が描かれ、腰から右太腿にかけて尻尾が巻き付いているようにみえた。

 竜鱗甲冑ドラゴン・スケイルという神具級のアイテムだ。

 代々伝わる英雄の装具である。


 この装具を受け継ぐために血統の子供たちは、人を棄てる覚悟を身に付けさせられる。

 遊びたい盛りに親下を離れ、大賢者らと共に世界について学ぶ。

 己を律して死も恐れず、人から魔人、魔人から神へ鍛えぬく――それが英雄と呼ばれる人ならざる者。

 これがグエンと呼ばれた騎士にとって苦痛の何物でもなかった。

 初潮を迎えて、自分自身が女であると再認識させられても、賢者らは彼ら子供たちを兵器だの、世界を守る盾だの剣だのと呼んだ。人ではないから恋だの愛だのというのも教わらずに育ったものだが、彼女はそれらを嫌っていた。

 だから、流された時――『英雄から離れる口実を得た』と感じたのである。


 旧友・カーマイケルに会いに来たのは、単なる気まぐれからによる。

「褒めても何もでないぞ」


「いやー、そんなつもりはないんだけど」

 と、両手を皿のようにして差し出している。

 彼はやや不機嫌そうに、机上のビスケットを2枚ほど乗せた。

「あれー催促しちゃったみたいで」


「そんなものを喰うと、太るぞ?!」

 エルフの菓子屋が納品するランパスというビスケットだ。栄養価が高くボソボソして喉が渇く食べ物だが、1枚で十分なカロリーがある。HP回復量やMP、スタミナにも回復作用が働く優れモノだ。わりと高価なので傭兵団でもそうそう食せない食べ物だった。

「えー? 心配してくれるの~」


「何か前と性格が変わってないか?」

 ランパスをかじりながら、カーマイケルはグエンを品定めしてみた。

 身長や体格は以前の雰囲気のままだ。

 いや、ややだが大人びた雰囲気がある。色気でも乗ったか、或いは――。

「やだなー。女の子の身体をそんなにみないでよ」

 鎧を着ているから、胸元だとか腰や尻、いや腹さえも形は分からない。

 だが、彼女が両手でブレストプレートを覆う仕草に、下っ腹のあたりがきゅっと掴まれた変な感覚を覚えた。今までややガサツな雰囲気さえあった、彼女グエンに特別な感情は抱かなかったのだがと。

「...今、今まで何をしてたんだ?」


「旅をしてたよ」

 ちょっと遠い目をしている。

 頬と、首下あたりの色が違っているように見える。

 陽に焼けた後に見えるから、相当の時間を費やして巡ったと思われた。

「帰る気もないし、永住できるか探してもみたけど...なかなかね」


「どうした?」


「ここのNPCひとたちって案外、お節介焼きなのよ」

 溜息を吐いた。

 短かったが、何か重苦しい雰囲気をひとつ棄てたような感じだ。

「NPCは、NPCだろう?」


「あれ? 知らないの...あー」


「忘れて。じゃないと、彼らの苦労も水の泡になるから」

 彼女は、苦笑して頭を掻いている。

 その仕草は、ごく自然で可愛らしいと思った。

「まあ、ここには旅の途中で寄っただけだからさ、もう、そろそろ移動しなくちゃ」

 天幕の外へ。

 見送ろうと言って、彼も外へ。

 駐騎場ビースト・プールには、鞍を載せたカブトムシがいた。

 前足の1対を器用に動かして、丸太を転がしながら口をモゴモゴさせている。

「...何だあのフォルクスワーゲンは?!」


「ちょ、ウチの愛騎をそんな、骨董品みたいなのと一緒にしないでよ!!」


「ほっほー。このネタが分かるという事は、相当ネットで遊んだ口だな」


「な、なによ。べ、べつに...暇してた訳じゃないわよ、こ、これも情報収集...で。な、なーによ!? その疑いの目は――」

 彼は、カブトムシの横まで歩み寄ると、載せてある鞍をまじまじと眺める。

 アイテムソースを観察すると、課金アイテムの交換で得た特注品のようだ。アイテムバックの追加容量が100増えるとか、重量を相殺する効果などが付与されてあった。

「マジか、チートじゃねえか」


「人聞きの悪い! この鞍ひとつ得るのに1年もカジノで金貨、溜めたんだから! それくらいの見返りあったっていいじゃないのよー」

 『きぃー!!』って八重歯をむき出しに怒っている。

 昔のグエンでは絶対に見せなかった感情表現だ。

「分かった、分かった...俺たちの仕事を手伝ってくれたら、バイト代を出すぞ」


「バイト代?!」


「ああ。なんか食いつきがいいな(汗」

 まさか、いや。

 路銀を無心に来たわけじゃあとも考えた。

 あの財布に厳しかった、グエンが無一文なわけ...

「じゃ、宿代の請求をここに置いとくから...私の天幕はどこかしら?」


「え?」


「ん?」


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