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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-602話 北バルカシュ海戦 ⑨-

 要塞の造船所には、バルカシュ海を渡航する為の船を重点的に建造している。

 付近の漁村のとは明らかに造りが違う。

 これは、揚陸舟艇という類のものだ。


 船体はカマボコ板のような箱型で、櫓を用いて機動するものである。

 乗り込むのはざっと百数十人程度だ。

 漕ぎ手と乗船者は別である。


 これらの船が対岸を目指して、何十艙も海を踏破してくる。

 帝国が本気になれば、バルカシュ海を埋め尽くすような数も用意できるという噂だ。

「...噂らしいな」

 ザインの村民が応えていた。

 その元ネタは、帝国兵だろうと予想はつく。

 真贋は別にしても、帝国兵は精強にして怖いもの知らずの猛者であるという、言葉は独り歩きしやすい。どこかで尾鰭が増えたところで、戦場にまで行って、帝国兵の屈強ぶりを確認する必要は全くない。

 どちらかと言えば、その噂で震えてくれたことの方がありがたい事だ。

 まあ、高度な情報戦といったところだろうか。



 “超”王国から発した軍は、ついに北壁――天上連山という連峰を右手に捉える高地まであがってきた。ここまでくると、標高は一気に3千メートルまでになる。先人たちが山を拓き、街道を整備したおかげで、20万とも30万ともふくれあがった軍団の移動も、易く行動できるようにしている。

 糧秣などの補給は、道すがらに予め先行している部隊が整えて待っている。

 それらを利用して、なんとか食いつないでいるような状態だった。

「帝国の補給線というのはどうなってるんだろうな」

 随行する賢者の呟きだ。

 “雷槍”に続いているのは、“天弓”と名乗る弓使いである。

 時折ふらっと北壁の方へ歩いていくと()()()()の大きいものを仕留めて戻ってくる為、兵の人気は高い。

 大事な食料調達要員であった。

「兵ひとりにき、水や食料だけでも3kgから5kgは必要になる。仮に切り詰めて3kg未満にするとしてだ、戦争をおっぱじめる前から経済的にだ! 国家間では物量って名前の戦争が始まっている。正直、北天から見れば(...本来)バルカシュ海付近までは国境線のすぐ近くで、敵国じゃねえ、あれも、これも、あの北壁ってのだって北天領っていえるが...なんだ、この焦燥感はよ」

 賢者の指さす眼前の兵士たちの足取りは重い。

 戦争をするのだから、スキップ踏んでいるような状況もどちらかという、望ましいものではない。ではないが、士気の上では前者よりかは幾らかマシである。

 聊か、近くには寄りがたいが。

「ま、そりゃ地図職人にでも言え」

 “雷槍”からは熱もなく淡々と応じたセリフが返ってきた。

 そういう返しをされると、ひとり熱くなるのが馬鹿らしくなる。

「地図職人も最後まで嘘は突き通したくなかったとも見れる。と、言うのがこの何もない空白地の部分だ。およそは地図にはないが、飛び地の街か村がある――開拓村というものだろう。これは七王国の国家プロジェクトであるから、希望者を募って開拓と発掘を兼ねた事業であると推測できるが、如何せん何もないと言うのが、今の兵士こいつらの背中からも分かる。敵地と変わらん億劫さをな」

 返して、バルカシュ海を挟んだ対岸の湖に浮かぶ人工島の要塞と、帝国軍はその後ろに衛星国と帝国領が広がっている。湖の外周にも街や村があって、人が集まりやすくなっているのだから北天の鬱屈とした遠征よりも、士気は高い。

 城主が多少、ヤバい人でも問題は無かった。

「そうなると、先ず士気か」

 戦で劣るとしたらと、思いを巡らす。

「いや、士気なんてのは上げ下げは簡単だ。帝国にとって屈辱的な勝利を勝ち取ることが、俺たちに課せられた仕事だ。俺は“雷槍”という冠位に掛けた戦いでそれを示し、お前も“天弓”に恥じない戦にせんとな」


「プレッシャーを与える!!」

 と、雷槍の下から離れていった。

 が、ふたりの賢者はそれぞれに効果的な戦場をイメージする。

 それが何処で的中するかは、まだ未知数だった。



 大戦斧の刃を磨くエサ子の前には剣士がある。

 ふたりだけ部屋にあった。

 エサ子は、麻袋を首穴と腕穴を空けたような雰囲気で被り、腰帯を巻いているだけの姿である。これが、剣士の目の前で胡坐をかいたその状態で、戦斧の刃を磨いているのだ。

 剣士の身体が右へ流れている。

「何?」


「いや、なんでもない...」

 といって、窮屈な姿勢のまま右へ傾く――。

 (...っう、痛恨の極み...刃が邪魔で見えない!!!)

 剣士の心の声は顔に出る。

 悔しそうに舌打ちをうつと、次に左へ身体を傾け始めている。

「な、何?」

 やはり、目の前のエサ子に勘繰られた。

 ジト目だが、気がついてい居ないのが幸いというか鈍感なのか。

 右へ傾いて、やや何かが見える。

 エサ子の左足が急に胡坐の姿勢を止めて、ついに舌打ちが公然と聞こえるものとなった。

「?!」

 彼女がびっくりしている。

「なあ、エサ子!」


「は、はい! あ、兄上」

 二人きりという場面シーンは珍しく、懐かしい。

 思わず懐かしく、声に出している二人の関係。

「兄の命である。しゃんと立とうか?」


「はい、イエッサー!」

 斧を足元に置くと、直立で立ち上がった。

 腕はまっすぐ身体の側面に伸ばしている――これは兄、剣士のお願いであった。

 そうすればもう、彼の思い通りである。


 エサ子の潜在的主従関係は、“マルちゃん?>槍使い(お姉さま)>剣士(お兄ちゃん)>ニーズヘッグ(先生)>エサ子”であるから、剣士に下心があっても無抵抗になる傾向がある。

「お兄ちゃんはな、エサ子が臭くなるのは嫌だから...点検しなくちゃならんのだ」

 訳の分からない理屈をこねつつ、彼女の麻袋の裾を捲りあげてた。

 その直後、目の前にスジっぽいのが見えて意識を失った。

 うつ伏せに失神している彼の背後に、槍使いがあった。

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