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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-598話 北バルカシュ海戦 ⑤-

「バルカシュ海でいくさに挑むのは、ライオンに素手で戦いを仕掛けるようなものだぞ?!」

 目の前の少年にあっさり否定された。

 地下空間の住人ということになっている少年は、シャワーを浴びて随分と小綺麗になっていた。

「ま、確かに」

 皇子は微笑んでいる。

 否定されるのは、帝国と北天の立場から成る。

 もっとも今まで帝国が、自ら仕掛けてきた戦を返り討ちにしてきただけの戦争である。北天側から帝国に仕掛ける用意が出来ている前線基地は一つもない。この“ザイン”だって、帝国に占領されても構わないくらいの開拓村で、帝国の兵力を観測する軍事拠点ではない。


 だが、半年前いやそれ以上もっと前から、グラスノザルツ帝国に本気で喧嘩を挑むくらいの方針転換が切り替わっていた。待ち受けるのではなく、出て行って叩き潰すという方針にだ。

 きっかけは、魔法(詠唱者)協会の勧誘ビデオ。

 “月の城”が冠位者グランド特権ということにしておきたかった、“神秘の魔導書”の存在だ。熟練度の最高位到達者なんて、よっぽどの廃人で無ければそうは居ない。

 無冠の魔法使い時代には、属性条件で使用できなかった魔法を冠位を得ると、条件緩和が働いて使えるようになるという特典メリットは、内密にするより語ってしまった方が魔法技術の発展に寄与することで間違いはない。

 が、一握りの人々にはそれは、達成者の領域を汚したものだと感じることがある。

 “神”だと自称する者たちほど、陥りやすい安い人間性である。

「ふーん、小さいなあ」

 少年は、目を細め静かに呟く。

 六皇子も小さいと感じた。

 仮にも賢者と呼ばれる集団で、確かにひとりひとりの魔法使いとしての熟練度は、人智を凌駕しているように感じる。集団としても脅威であるのだが、それだけの持て余す力を――やはりどこかで見せつけてやりたくなるものだろうかと。

「小さいか...いや、率直の意見をありがとう」


「あんたらは、()()()理由でやっぱり帝国と戦うのか」

 苦笑して見せた皇子は肩を竦め、

「ああ、国の方針は帝国の打倒に舵を切ったからな。軍人である我々は、反帝国同盟という約定とその目的遂行の為に...いや、ある個人の小さな動機の為に戦争を仕掛ける。これを覆すのには聊か、遅すぎていてな」

 最後は歯切れが悪くなった。

 北天にある、託宣の巫女は彼の妹だ。

 その巫女が“月の城”の手の内にあり、いわば人質になっている事実がある。

 10数年も前に仕込まれた楔が、彼女自身を蝕んでもいた。


 黄天の六皇子の前に、二皇子や三皇子が反乱者のレッテルを張られるそしりを受けながら、巫女を宮殿から攫おうとした珍事がある。“月の城”に対して喧嘩を吹っ掛け、完膚なきまでに叩き潰された。

 長兄は、皇太子であるため動けない事情があり、聡明な六皇子は歳若かった。

 反乱めいた内部事情は起きている。

 七王国が素直に賢者の麾下に入っているのは、そうした背景があるからだ。

「なんとも呆れた話だな」


「...その集団は、今の帝国と大して変わらないじゃないか! ...まったく、これだから()()()()()()、オープンワールドは方向性を見失うんだ。...いや、これもひとつの路か...破滅の」

 少年は考え込みながら、椅子から飛び降りている。

 ひたひたと部屋の中を歩き回って――飯にしよう!と、兵士たちに声を掛けていた。



「北天軍が立ったぞ、城主」

 バルカシュ要塞の執務室の影から、鬼人が現れた。

 いつもの定位置より少し後ろにある。

 そこはもう、壁と思しき場所であるが――。

「漸く我々と正面から来てくれるのか」


「嬉しそうだな?」

 こういう城主は、悪い癖の前触れを拗らせてるときが殆どだ。

 それで、人間の兵士が何人も、ただの肉塊に変えられた。

 これは、城主このひとの病気だ。

 発作は日に2度、1度目は感情の高ぶりなので鎮静させる薬や呪文でなんとか凌げられる。2度目は肉体的な汚染が確認される。

 最早、病というより呪いにちかい。

 何をすればこんな呪いを受けるのかというほどの豹変ぶりで、鬼人も見かねて全力で押しとどめたことがある。

 ハイエルフの細い身体から想像できないほどの腕力の前に、押さえつけるのではなくほどほどに解放して、憂さ晴らしをさせた方が前者で傷を残すよりも、本人にとって症状の緩和が見られた。

 よって、ほどほどに放任してきた。

「ああ、早く見たいなあ」

 声が上ずっているように聞こえた。


「....」


「花が咲くのを」

 振り返りながら、何か両手にちぎれた肉片を持っているように見えた。

 影の中にある鬼人としては、肉片それが何であるかを問い質すほど暇でもないし、発作がすでに日の回数を越えている事実を知った瞬間だった。

 病の進行が始まった。

 ざっと部屋の床を見渡す――城主の笑みから目を離すと、あたりが一面紅い絨毯に敷き直されていると勘違いできる。

 鬼人は、視線を足元に移す。

 ゆっくりと床を侵食する液体と、部屋に飛び散った肉塊を見ることが出来る。

《数百年も人のような姿でこの世にあり続けた代償か、或いは同族、同血の一族婚による悪性遺伝か...いずれにせよ彼らは、壊れている...壊れている...》

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