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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-588話 ヘラ島撤退戦 ②-

 ヘラ島の北西側にはゴツゴツとした岩の洞がある。

 周囲は波を打ち消すテトラポッドのような働きを期待された、天然の岩礁があるが左程、それらしい効果は得られていない。もっとも、海上からむき出している獣のアギトのような岩場が海面下では複雑な形を形成しているようで、潮のながれが早くなっているようなのだ。

 地元の漁師たちからも評判のよい洞ではなかった。


 これを隠しドックとして幾分か利用できないかと、試行錯誤した時期も確かにあった。

 結果としては、実用的に至ることはなっかのである。

 理由は至極簡単なことだ――海中の潮の目が早く、洞を出るときまって突風が吹くからだ。

 洞の奥は、2隻の船が左右の桟橋に隣り合わせに停泊できるよう整備されてある。


 さらに奥には、らせん状の縦階段と、滑車を利用した搬入用エレベーターがあった。

 救助要員のリストに記された若い兵士たちは、残った船に積み荷を運び込んでいる状態だ。

 少しでも船の吃水を下げて嵩を増す努力をしている。

 船が重ければ、ハーフセイリングでの船出の際に突風を受けても、舵を手元から奪われるのは少ないだろうと思っての事だが、弱点として快速トップスピードを得るまでにやや時間が必要になるという事だ。

 これは聊か仕方のない事だ。

「上甲板の樽は、砂を詰めたものだ! 出港後に海中へ放る故、手隙の兵士は皆、甲板に上がっているようにな!」

 と、亀島から戻ってきた戦隊長が吠えていた。

 護衛のブリッグは、島の沖に錨泊している。

 洞の近くまで回り込む敵船を警戒していた。

うえから発光信号です」

 隊長を呼ぶ声が聞こえた。

 沖のブリックからだ。

 2隻の中型船は、武装である大砲をすべて海中に捨て、ペイロードのすべてを要救助者に当てている。これを指示したのも戦隊長だが、彼は船首のバウスプリット付近まで身を乗り出している。

 ここから叫んでも、沖の船には届かない。

 が、遠眼鏡で彼だと認識した兵らが手旗信号を用いて司令官の意図を告げてきた――敵の接近を赦してしまった故、速やかに撤収せよ――といったものだ。

 救助できたのは、200人とい満たない。

「もう、積み込む物資のことは気にするな!」


「え?!」

 と、間抜けみたいな表情になるものも少なくはない。

 いや、むしろそんな兵ばかりである。

「隊長?!」


「上陸部隊が東の岩礁にとりつく。あそこは少し守り手が薄い...」

 と、彼の言葉を耳にした猟兵が獲物のマスケットを握りしめて奔っていった。

 かれは、いつぞやの狙撃兵だ。

 年齢も40手前の大ベテランで、この海域を離れれば西欧戦線への転属も決まっているものでもある。そんな彼の後姿を、魔法士の少年が目で追っている。



 東の岩礁地域は、猫の額ほどの小さな浜辺があった。

 島に赴任した兵士たちの釣り場であったり、海水浴場としても利用してきた穴場だ。

 海から見れば、上陸しやすそうで事実はかなり難しい。

 見た目よりも急に水深が浅くなる傾向にあった。

「船長さん、あぶねえよ!」

 漁師の叫びと共に大きく船が左、右へと傾いて何かに乗り上げてしまう。

 後続の船も座礁した僚艦の船尾に激突して、乗り上げただけの船を完全に孤立化させた。

 さらに後続へと続く船も左右に散って後、海中の見えない牙のような“柱状節理”層によって、次々と座礁させられていった。

「だから言ったのに」

 という声はよく聞く。

 いや、危ないという声はもっと前に発するべきである。

 それこそ、急に舵を切っても座礁する寸前で無いと意味がない。

「...っ、が...取りつくことは出来た」

 北天の水軍戦隊長は額をぱくり割って立ち上がる。

 目の前は真っ赤に染まって見えていた。

「た、隊長!」


「狼狽えるな、上陸部隊を陸へ」

 ふらふらしながら船の縁へ捕まる。

 顔を何度も拭っているが、頭皮と額の間の裂け目から大量の血を流していては、まともに先を見ることも出来ないし、誰かの声なども聞き分けることが出来ないほど耳が遠くなっている状態だった。

 暫くすると、貧血によって彼は目を閉じたまま、再覚醒することは無かった。



「ついに揚がってきたか」

 司令官の下に残ったのは、守備兵で400名ほどだ。

 監視島といっても、現実は最前線基地であるから、城塞規模としてはそこそこ強固に作っている。もっともセオリー通りの正面から上陸されれば、圧倒的な防御と設備の火砲によって攻防の肝を抑えることも容易である。

「東となると、観測の詰め所が第一の門か」

 確か――と、司令官は机上の地図に視線を落とす。

 小さな櫓と石組の砦がある。

 20人前後の鉄砲隊が配置されてあったが、守りとして考えると同じ高さの裾野に乗り出されると、攻略が容易なのでその砦は早々に放棄してあった。それよりも上位の位置にある望楼へ配置転換してあった。

「ひと息をつくには、あそこが安全地帯か...」

 と、指の腹で地図をなぞっていく。

「司令!」


「なんだ?」

 洞から上がってきた伝令は、中庭の城壁を駆ける猟兵のひとりが弾薬の包をもって東の壁に取り付いたことを告げた。地図をぐるりと半時計廻りにひっくり返しながら、太い指先を斜めから眺めた。

「な、なにをするつもりだ!!」


「恐らくは進軍速度を遅らせるのでしょう」

 と、副官は応えている。

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