-581話 ヘラ島攻防戦 ⑤-
「大砲ですよね?!」
部屋を移して、蘇人のみで会合を開いている。
ただの監視塔だと侮っていたわけではない。
高空にある目を頼りに、島の攻略案を考えていた。
その報告の中に、対海上戦は無かったわけだ。
いや、突っ込んで問い質す行為さえしなかった。
「哨戒船から島までは、おそらく20kmもあるまい。島のどこからの砲撃かによるにしてもだ、射程は長く威力は凄まじい」
「しかし、当たらければ」
皆は頷くと同時に、全員が唸った。
当たらなければ問題ないと思う反面、斜めに発生した水柱の衝撃からすると、着弾付近は当たったも同然ではないかと思い至ったわけだ。で、あれば着弾範囲次第では、一発で船団が崩壊するということになる。
密集すると、当てる必要の無い分狙いは甘くなる。
それは砲台側の理屈だ。
一発で、面制圧能力を持つ大砲ともなると、密集は避けなければならない。
そうなると――。
「島側の防衛機能が気に成りますね」
突出した船団を完全に沈黙させられなかった点は大きい。
別室で文字通り、大の字で仰向けに倒れている賢者を思い浮かべる。
「仕事はしているが、」
「如何せんその精度が粗過ぎる。あれは性格か性癖か...」
「いや、それはどっちでも良い。ムラッ気のある将器の者などは履いて捨てるほどみてきた。問題は、喪失して捕捉きれなかった敵船団が健在かどうかだ。見た目通りの戦力なのか、それとも島には未だ温存された船団が――」
ふと、船長が天井を見上げた。
蘇人の皆も同じように見る――高空からの“目”から、定刻の報せが無い。
「どうしたことだ?」
「どうした...いや、どうして“目”が半日も報告を寄越さない?」
船長の呟き。
自問自答を繰り返す。
高空より監視するシステムは“少年軍師”が考案したものだ。
魔法士を飛行魔法で空に上げ、彼らの広範囲く大雑把い感知能力で網を張り、敵性勢力と味方の識別を行うという人海戦術レベルのレーダーシステムがそれだ。
その性能によって、北天は常にひとつ先の未来を見てきた訳だ。
が、島からの砲撃以前から、魔法士の報告が途絶えている。
◆
ヘラ島監視塔の櫓には、魔法士ほ二人組がある。
ひとりは魔法猟兵団という部隊に所属する現役ばりばりの猟師だ。
帝国では、魔法敵性のある猟師を訓練して、前哨狙撃兵をつくりだすプログラムがある。これを経た兵士が島の監視要員に約小隊分配置されていた訳だ。
その隣は、スポッターの魔法士だ。
もともと、同島に観測員として配置されていた者だったが、祖父さんのみが猟師だったというだけで、猟兵に行かなかった稀有な少年がある。
背筋をまるめて俊敏なネコのように屈みながら、遠眼鏡の先を見ている。
魔法士の少年は、見たところ17くらいだろう。
だが、小柄で華奢な雰囲気がある。
狙撃銃の調整をする猟兵は、傍目に映る小さくてやらかそうな臀部が気になった。
「先輩の腕、凄いですね!」
「そうかい? 君のサポートもまんざらじゃなかったがな」
一度、気になるとなかなか目を放しにくい。
上をみて、右を見て......そして、もう一度彷徨った挙句に左の尻を見るのだ。
喉が鳴る。
丸くて小さな尻にだ。
女っ気がないと言うのは嘘だ。
男女に関係なく兵隊の中に異性は存在する。
股を開くか、或いは突き立てられるか、その機会はいつでもかという状況の次第ってだけだ。
性別上は女でも、種族がゴリラでは、流石にやる気は起きないだろう。
それは、女性側でも同じなのだが脳の作りが違う。
欲求まあ、いわゆる性的という点の欲求は代用が出来る。
興奮のすり替えが出来るので、人を殺すことを悦とすれば自己の欲求は満たされる。ただ、本能的にタネを搾り取って残したいは別だ。
これがゴリラみたいな強靭なのであれ、尚良い。
軍隊のような非日常的な世界の女は、街の中にあるものとは別であるというだけだ。
猟兵は、小首を傾げ、左の臀部を優し気に見つめていた。
光の悪戯だろう。
太陽は南に差し掛かる。
監視塔の縁から差し込む光が、尻肉の表皮を薄く照らすように包んで見せている。
丸くて柔らかな、桃尻に喉が再び鳴った。
「警戒すべき敵の気配が無くなりました」
少年は遠眼鏡を顔から外して、深くしゃがみこんだ。
そのまま、猟兵の方へ身体を開く。
「!!!!!」
少年の声にも成らない声があがる。
猟兵が差し出した大きな手が彼の球根を掴んでいる。
しっかりと収まるように、手のひらの奥に沈み込んで掴まれていた。
「ふむ、やはり思った以上に小ぶりだな」
何が――少年の目端に小粒の雫がみてとれる。
球根の緊張を悟られまいと、少年は胸中で別のことを考える。
兵舎の仲間の事だ。
少年兵は同期の中で一番、小柄な兵士だ。
17になって2年目の兵士生活。
魔法士には、一般兵士と違って筋骨隆々というほど強靭な兵士は居ない。
だが、それでも身体の密度の高い者と、低い者――所謂、熊と兎なんて体格差は生まれるものだ。等しく同じということなどはあり得ないからだ。
と、なると当然。
少年兵は、夜伽の対象者となる。
平静に、息を整え、兵舎の――。
「そんなに緊張するな、お前の尻がな...綺麗だったんで。まあ、ついな」
と、猟兵は球根を手放していた。
顔を朱の染めて抵抗する訳でもなく、ただじっと何かが早く終わるようにと、呟いているのを見た猟兵の方が、罪悪感を感じてしまった訳だ。
彼が夜ごとに何をされているかも、理解してしまった。
「え? し、しな...」
「するものか。俺は鬼畜じゃない...いや、すまない」




