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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-576話 第一次 カスピ海海戦 ⑤-

 海戦の前哨戦は、こういう形で終幕する。

 4隻の追撃を行っていた、“水巫女”の視覚に張り込んだのは、魔獣“島亀シマカメ”の瞳術である。

 水の精霊を通して彼女に送られたギョロっとした威嚇。

 同じ属性同士の格の違いを当てられ、興奮気味だった彼女はのけ反りながら、縁にむかって倒れ込んでいる。

 また、豪快に漏らしもしていた。

「濡れるどころか、濡らされた...」

 涙目、鼻水とヨダレにすっぱい胃液が混じる口の中。

 二度、その場で吐いていた。

「おのれ、亀野郎!!」

 叫ぶ口中から。酸っぱい匂いを吐いている。

 三度目の嘔吐に襲われた。


 当然、帝国の船は逃げおおせることが出来た。

 が、“ヘラ”島に向かうのは少し難しい。

 戦力差があるし、相手には魔法使いがあることが分かっている。

「魔王軍に一時休戦を取り付ける」

 副官を通して航海士たちが、戦隊長を凝視している。

 皆は思ったのだ“一体なぜ”と。



 カスピ海沖の前哨戦は、カウル島を発している本隊に遅れて報じられた。

 およそ北天から順に、帝国の増援部隊と近隣諸地域へと波紋のように広がっていった。

 ランカラウのマルの下に届くのはもっと、ずっと遅い。


 もっとも、マルの下に届いたからとしても、すぐに何を手を打つといった具合の方策はない。この海上での衝突は、帝国と北天の陸上戦を海で行っただけという話だ。

 だが、その陸も双方で緩衝地帯だと定めていた土地から、北天の守備隊を退かせ始めたのは帝国からだという。

 まったく未知のゴーレムが、戦場を闊歩しているというのだ。

「全く、どういう報告書を詠めばそのような、ホラーのような報告はなしが出来上がると言うのだ?! 守備隊の敗走を装うのであれば、もう少しもっともらしい物語を書くことをお勧めする」

 と、北天の守備兵団は、街道上に小さいながらの監視塔を設けている。

 木の杭を防壁代わりに大地に突き立て、泥と石の組み合わせでさらに守りを固めた簡素なものだ。ここまで標高が高いと、馬で大砲を運ぶ馬鹿もいないから、石組の簡素な防塁だけでも十全に“時間とき”を稼ぐことが出来た。

 もっとも時間稼ぎだけで終わるような、脆弱で貧しいネットワークを持ち合わせてはいない。

 北天が用いているのは、“カラス”と呼ばれた傭兵たちだ。

 黒い外套と、黒い頭巾で身を覆った軽業を習得した者たちだ。

 金銭の要求をしてくるので、枠組みとしては()()だが、仕事は伝令と偵察を行う。利害が一致すれば、施設の潜入まで熟すと言うのだ。

 その“カラス”が、拾ってくる情報には『帝国を見たら、即逃げよ』と書かれてあった。


「帝国の何に恐れを抱いているというのだ?」


「能面のように真っ白で、悲鳴も雄叫びも挙げずに、ただ只管に無機質な感情で襲ってくるのですよ。これを見たら、司令官も...」

 と、兵士は首を横に振って顔を両手で覆っている。

 勇猛果敢な兵は沢山あるが、集団感染的な“恐怖”という病にかかり難い土地柄がある。

 もっとも、これまでも帝国は、この高山地域に手を出すことは無かった。

「報告はそれだけか?」

 司令官の前にある者は、このザイザル砦の西にあった、ウィルベイム砦という山城の主である。

 いや、机を挟んでいるとは言え、男の身なりは城主というより下働きの奴隷のような者にちかい。足はサンダルの片側だけ、服は幾分か上等とはいっても片袖が肩くちより切れかかっている状態だ。

 皮の腰ベルトに通す革紐が互いにちぐはぐな結び方になっていた。

 よほど慌てていたようにみえる。

 ズボンを履けなかったのは、およそその慌てていたからだとも推測できた。


――はあぁ...


 司令官の溜息は、見ている男の奴れ具合と突拍子もないゴーレム話への対価だ。

「人を脅かして、己の失態を誰かのせいにするのならば、もう少しうまい嘘を用意すべきだ。...だがウィルベイム城塞といえば、南の山尾根を越える3、4日は迂回するような道程であるから、それをあんな下男に成り果ててまで走ってきたこと、これには感嘆するよ。いや、そくもまあ...みっともない姿で兵も武器も、金も...置いてきたものだ」

 と、唾を吐く。

 床にまき散らされる唾は、服をまともに着れなかった男に向けられたものだ。

「さて、本来ならばバルカシュ海の北、帝国の要塞へ湖側からではなく陸続きで、北部から兵を差し向けることが出来る好地を失った適当な理由が見つからない状況にある――」

 元ウィルベイム司令官を伴って、彼を檀上に引きずり上げた。

 これを見よ! というポーズだ。

 サイザル砦の指令は、うずくまっている男を指さしている。

 これを見よ! 腕を後ろ手に組んだ兵士たちの観衆の中で――これを見よ! と、指が差されている。

「君たちは、私が知る中で強者だ! いかなる苦境も撥ね退ける戦士である!」

 うめき声が木霊する。

 力強く、吠えるような声だ。

「我らは何者だ?! 我らは何者だ、諸君?!」


「我らは、矛であり楯である! “超”王国を脅かす者らから国土を守る防人である! 諸君、獲物を獲れ! いざ、我らの敵を撃ち滅ぼさん!!!」

 ゴリラ級の雄叫びが聞こえてくる。

 砦ないの兵は大興奮だ。

 滅茶苦茶、動物園と化している。


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