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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-574話 第一次 カスピ海海戦 ③-

 海戦が始まったのは何となくだ。

 いや、始めたという感覚よりも、始まっていたという雰囲気の空気の問題だ。

 帝国の6隻は、帆の色をあえてまだらに染め上げて臨んだ。

 白昼堂々の海戦であるから、水面に反射する太陽の光は思った以上に強い。


 ヘラ島を北回りに大きく迂回して、敵船団の側面に回り込むという行動に出た。

 もっとも、この行動は上空の魔法士によって筒抜けである。

「構わん、そのまま横っ腹に突っ込ませろ!」

 と、先遣50隻を従える提督が叫んだという。



 マルは、水桶に張った小さな水面に浮かぶようにして、空を見上げている。

 ピンク色のスライムがである。

 水道施設はない、井戸から汲み上げた朝一番のとびっきり冷たい水の中だ。


ちゃぷ...


 水音。

 桶の端に当たった波が、スライムの彼女の背に跳ね返った音だ。

「どうしたの浮かない顔して」

 スライムの時は、他人ひとに見えるような顔を出さないようにしている。

 もっともスライムを見たら、問答無用で攻撃してくるような人も少なくはない。

 が、魔法使いのファミリアと同じで、ペットにする変わった人もいるので、まあ犬や猫などの愛玩くらいの認知は少しだけあるというのが、この世界のいい特徴だった。

「よく...わかったね」

 水面に浮かぶ彼女は、くるりと振り返る。

 “(= =)”こんな間抜けな顔をしていれば、メグミさんでなくても声を掛けるだろう。

 肩を落とすという表現が似合わない姿であるし、何を思っているのかも詮索はしにくい。

「理由、聞いていい?」


「どうしようかなあ」

 焦らす。

 焦らしたら、彼女メグミさんはマルをどうするのかという好奇心もあった。

「言いたくないなら、別にいいよ」

 そっけなく返された。

 目が点になっているほど心が顔に出た。

 彼女はそれを笑った。

「バカだね、お姉ちゃんに話してごらん...頼りにしていいよ」



「船首カノン砲、そのままぁー!!」

 6ポンドの大砲が火を噴いた。

 飛び出すのは鎖で繋がれた双子の砲弾だ――鎖弾といって、索具への攻撃あるいは、甲板で右往左往と横断している、水兵たちを襲うものだ。鎖弾は放出されると、僅かに回転しながらほぼ水平に横薙ぎって飛んでいく。

 6隻から放たれた10数発のうち、半分はやや上へもう半分は下へと飛んだ。

 有効弾はなく、僅かにフォアマスト、ミズンマストのトップ付近を、吹き飛ばした個体がある程度にとどまったようだ。1隻にすべて集中した被害ではなく、複数のうち3ないし5といった軽微の損害だった。


「行くぞ! 左舷ッ」


「右舷も開け! 左右砲蓋開いて押し出せ!」

 先陣を切る船は、沈められたブリッグタイプの船だ。

 船首砲を撃ち終わると同時に帝国艦隊は、縦一列の陣形を採っている。

 戦隊指揮官が号令し、鐘を鳴らして各艦が応じるという指揮系統。


 対岸の迎え撃つ“蘇”水軍将校は、思わず手を止めて見惚れていた。

 上陸兵として乗り合わせている“蜀”兵は、何をどうしたらいいのか困惑しているという差がある。船団中央に座している提督は、銅鑼を鳴らして“砲撃準備”の号令を出す。

 ()のような船の右舷甲板から、数門の大砲が押し出された。

 大砲の両脇から数本の鎖が生えており、これを船の縁に固定して着火させるという使用法がある。

 1隻につき片側4門。

 砲操作人員は、10人以上という手間のかかり具合がある。

 この砲はまだ、発展途上なのだ。

 帝国船団との距離はまだ少しあるところで、真横をさらけ出している“蘇”水軍から轟音が響き渡る。1隻当りたった4門、50隻のうち僅かに10数隻しか船団を目視で捉えていない状況だから、たった40門以下でこの音である。発砲後の甲板上の視界はさらに最悪な環境となっている。

「ええいっ、扇げぇ! 扇がんかっ!!」

 という船長らの怒号が飛び交っている。

 耳鳴りを抑えつつ、噎せ返りながら上着で周囲の空気を押し飛ばす、そんな作業が甲板上で行われている。使用されている火薬という錬金術の遺物が不完全だから生じる副作用だ。

 また、稀に大砲の砲口内で爆発して爆沈するケースもある。


 これらの北天船団が、煙幕に呑まれている様を目撃しつつ、船団が密集して動けなくならないように開けている隙間に、彼らはスタンセイルまで広げて滑り込むよう飛び込んだところだ。

 帝国にとってまさにより取り見取り。

 撃てば勝手に当たるクリティカルポイントだ。



 上空で戦闘の様を見ていた魔法士は“言わんこっちゃない”と、胸中で呟いている。

 6隻から放たれた砲撃は、甚大な被害を出している。

 半数の壊滅は免れず、提督座乗艦も流れ弾で、やや左に10度傾いている。

「こ、これで宜しいか...賢者殿?」

 口惜しさと、怒りに満ちた目を腰より下まで長い赤い髪の女性に向けていた。

 提督は、舵輪を握る水兵に寄り掛かる形で立っていた。

 飛んできた木っ端が彼を襲ったからだ。

「上々です。これで相手も我らを侮った事でしょう...北天などに後れを取らぬと。何するものぞと...いいんですよソレで。いいんです...もっと傲慢に、そしてわたしを見縊れば良い、見下して貶めるが良い、詰れ、汚せ、そして堕とせ!」

 変な笑い声が木霊する。

 提督も彼女から逃げたくなった。

 “月の城”には変態しかいないのか――と。

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