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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-572話 第一次 カスピ海海戦 ①-

「だから、厄介ごとを増やすな! 脳筋がっ!」

 “少年軍師”の賢者が怒鳴り声の調子で、部屋の中に飛び込んでいる。

 カブールの時もそうだった。

 “星落とし”の賢者には思慮と言うものが足りないと、愚痴をこぼしながらの流れだから、当然頭ごなしに彼を攻め立てた。指を彼の胸に突き立て、面と向かって吠える――彼はクラン“月の城”では最年少の少年だ。

 アバターも、その背後霊もだ。

 だから、年長者のクラン員には少し遠慮がちなところがあって、あまり自分の意思を通すような行いをしてこなかった節がある。積極的に関わらなかったというのもそうだろう。


 まあ、およそはジェネレーションギャップもあるのだろう。

 が、散々言い立てられ、怒りに任せて詰られているのに対して、“星落とし”の賢者は微笑みをうかべてすべて、受け止めている。

 “おまえは、馬鹿か?!”という罵倒もすべてだ。



 カブールの造船事情では、新型造船は2隻までが限界だった。

 だから結局のところサムブークという船型は、2隻が出来た時点で一旦、()()を打ち切りとしたのである。予算上の問題もあるのだが、港の施設上の問題と言うのがただしい。


 3か月を要して建造している間に、同じ時間を利用して南廻り航路から、カブールに船団が到着する。かつて“蘇”へ納品された、4隻のうち2隻のフリゲートを筆頭とした大船団が、ドックを出ようとしているサムブークのスペースを喪失させようとしていた。

「長旅でしたよね?」

 賢者が出迎えたのは、公欣の祖父、周忠江という大老である。

 まあ、見た目ほど衰えた印象が無いほど、元気な老人という印象があった。

 賢者の握手を彼は一礼だけで撥ね退けてもいる。

「提督、それは失礼でしょう!」

 賢者の幕僚らが凄む。

 が、少年軍師がそれを止める――非はこちらにある。

「いや、戦場であれば、責は誰でもない...行動した者が負うものです。生者が死に勝てるわけがない! 孫はまあ、あの気性せいかくでしたから...詫びは、私がするものです」

 忠江という将軍が一礼したのは、彼なりの詫び方だった。

 孫が賢者さまに癒えぬ傷を与えました――といったものへの謝罪だろう。


「いえ、こちらも与りました命を無駄に散らした責がございます。どうぞ、師よ、若輩な私に力を貸してください」

 賢者と呼ばれる少年と、提督と呼ばれる老人の両手が結ばれた時だ。


 帝国の軍艦と衝突し、双方とも轟音と共に爆沈するという事件の一報は、提督とともに賢者が“オウル”の港へ入る時点で知ることになった。

 事件発生から6日以上は経っている。


「俺じゃねえよ、いや、まあ...“蜀”の連中もさ、あれだ、いいところを見せたかったんだよ! ああ。そういう事だよ」

 と、弁明をしている。

 弁解するという点で、何かしらで“星落とし”も関わっていることが分かる。

 まあ、追及はこれ以上はしない。

「で、どうなった?」

 “少年軍師”は後を追ったという水兵に問う。

 脱走かと思って追撃したらしいのだが、船足が早かったと話を端折って賢者に伝えた。


 事態の結果はもう知っている。

 船は衝突し、あろうことか捕虜が帝国側にあるという事だ。

 軍艦の方は爆沈して、乗務員の生存は絶望的という話もあった。

「だから、余計なことは」

 手招きしている“星落とし”がある。

 怒り冷め切れぬ少年は、訝しげに彼をみていた。

「何のつもりだ?」


「いいから、こっち来いよ...」

 口を尖らせながら、少年が近寄ると、視界の端から太い腕が伸びてきて彼の身体を拘束してしまった。身動きが取れないほどの歴然とした力の差を感じる。

 脳筋の賢者との身長差や、対格差も倍以上に違う。

 大人と小学生くらいに大きく違っている。

「く、苦しい...」

 鯖折されるという危険な香りがする。

 目に優しくないツーンとした刺激臭だ。

「俺はさあ、兄貴みたいに思ってたが...とうとう、目を見て話せるようになりやがったかよ!」

 と、彼は嬉しそうに――少年の視界の先には、無邪気な脳筋賢者の顔が見える。

 ふと、息苦しさから少し離れて賢者を観察し始める妙な感覚にとらわれた。


 男は、一見すると武闘家モンクだ。

 とても魔法を使うタイプの職業を習得した者には見えないという特徴があった。

 少年の身体は、男の上半身うでの力だけで宙に浮かされ、抱きかかえられている。

 よーく見ると...脳筋賢者が口を尖らせのびてきていた。

「な、なんの真似だ?!」


「いや、スキンシップの一環だ」

 口端が上下にぴくぴく動いて、良からぬことをしでかそうとしている。

 これは、直感などなくても分かっている。

 だから最後の抵抗で頭突きにしたのだ。

「お兄ちゃんにむかってなんと!!」


「お兄ちゃんじゃないし、そう呼びたくもない! おまえは何だ、ホモか?!!」

 男は頬を赤らめ『もっと詰ってくれ、心地よい』という。

 当然、少年の眉間に深い皺が出来ていたし、目も細くなっていた。

「総帥は、なぜこんな変態ヤツとコンビを組ませたんだ」


「今のは、少し芯に届かなかった。ワンモア、プリーズで!」

 知るかという言葉を残して部屋を出る。



 後日、島の周辺にあった先遣隊の行方を知ることになる。

 本当に数日経ってから秘匿情報の公開が、提督周忠江と少年軍師に打ち明けられたのだ。

 これらの事故は、故意であるという報告だ。


 そして、先遣隊は“蜀”王の下知を以て、西を目指したという事だ。

「いや、待って...忠江殿?」

 少年の動揺した瞳が老人を捉えている。

 ひきつっている風にも見えた少年に、大老は微笑みを返す。

「戦争がしたいわけではないが、ひとつの勝利が国民を納得させる。ふたつの勝利で国民を沸かすことが出来て、人を動かす...熱が必要なのです、熱が...百に満たずとも先ずは数で」

 ふらついた足に自らつまずき、尻もちをつく。

 少年の虚ろな瞳が空を飛ぶ箒と人影を捉えた。

「万事、準備万端」

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