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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 ゲームの章 女王エリザベータの帰還
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-28話 ヒトそれぞれ-

 ランペルーク王国は、女系王制だったのは数百年前の話だ。

 吟遊詩人が語り継ぐほどの遠き記憶であり、残る資料と言えば宮廷魔法使いが魔力を注ぎ込んで記したとされる“動く絵巻物タペストリー”だけだろう。

 今は、白亜に輝く教会の聖遺物として保管されてある品物だ。


 歴史と言い難き物語――天上宮の女王あるじは、人の身で翼を得て多くの騎士を従えた――とする。


 まあ、神に背いた堕天使とその僕たちが姿と形を変えたお話かもしれない。

 と、思われたが伝説が現実として出現したのが王都の真上に天上宮が浮かぶさまだ。


 王都の人々は個々に空を見上げ不安そうな表情に顔が染まる。

 詳しい事情は分からない。

 200年前に大きな大戦があった。

 人々は結束して、天上より現れた異界の魔王と戦った歴史だ。



 王城に刺す影は黒い。

 まるで昼間のうちに夜になったような状態だ。

 現王が甲冑を持ち出して勇ましく吠えているが、いずれにしても覇気を感じられない。

「朕の居ぬ間にすっかり下界が汚物とかしたものだ」


「我が宮の下には緑豊かな草原があった筈だが?」

 と、王と貴族たちの臓腑に響く声が降りて来た。

 金色の甲冑を纏い、白い長髪の女性が宙に浮いている。

 そして彼女の背中から3対の大きな翼があった。

「ま、魔王!?」

 王、自らがそう呼ぶ。

 しかし、彼女は『心外な物言いだな? 小僧が...』と一蹴している。

「お前たちの真なる君主が戻ったのだ、それなりに称えるのが礼儀ではないか?」


「ふん、朕を忘れたか...これだから下等な生き物は...」


「エリザベータが戻ったと伝えよ!」

 彼女が両腕を肩幅に開き、天を仰いだ。

 その左右に眩い光が煌めき、天使が召喚される。彼らは堕天使、1対の翼を持ち、額に角を生やす悪魔。

 それらが悲鳴のような凱歌を囀り、人々が卒倒する。



 この日、宿屋にちいさな作戦室が置かれた。

 “ザボンの騎士”と“夜桜衆”の有志が共同戦線を張る陣だ。

 マルは、宿屋の主人から焼き魚の作り方を教わっている最中。


 街の人々はまだ、何が起きているか判然としていない。

 いや、知らない方がいい。


 冒険者が続々とこの国に集まってきている。

 以前の記憶たたかいは生々しいトラウマになっている者も少なくない。

 それでも、イベント復刻で自分の力を試す分は楽しめるかもしれない。そういう期待をもって参加している人たちも多い。

「以前のと同じ難易度ならば、今回のイベントはお祭り気分になるだろうが」


「ああ、この公式イベントの基準が微妙だからな~」

 ルーカスが唸る。

 魔王軍と直接対峙する場合は、この比じゃないと考えてもいた。

 一応、目安ではあるが。

「で... ストーリーは追ってくの?」

 お菊さんの傷もすっかり癒えて、服も新しく新調している。

「いや、クラン戦でポイントを稼いでいこうと思う。少なくともこのイベントで獲得できるアイテムは、今後の戦力強化に必要になる筈だ!」

 ベックだけが交換用アイテムの陣容を知っている。

 お菊さんも当時は知っているけど、まだ駆け出しだったこともあってイベントには参加しなかったクチである。

「その見返り、美味しいんでしょうね?」


「ああ、運営がこの上も無く意地悪じゃなかったらによる」

 『はあーん』って凄い疑っている眼差しを向けている人々がいる。

 夜桜衆からの応援メンバーだ。忍者くのいち装備で身を包み、PKKという同じ狩場で無ければ実際に遭遇することの無い女傑。

 いや、これはこれでイイ匂いがする。

 ベックの内心は躍る気分にあった。


 夜桜衆のクラン長とはいささか面識がある。

 都度、PKK時は協力を打診しては、断られるという恥辱にまみれたこともあったが、まさか本当にこういう日が来るとは思わなかったという雰囲気だ。ゆくゆくは、これをお近づきにと――やや浅ましい考えがアバターを通して漏れ出ていることに彼は、まだ気が付いていない。

 そして、その様子をマルが目撃していようとは――。

「幻滅!」

 吐き捨てるような呟きがこぼれ出る。

 忍者くのいち装束のマルがお菊さんの脇に立つ。

 小柄で華奢、2本のアホ毛がひょこひょこ揺れる少女――桃色の短髪シャギーを女性陣が『かわいい』と叫んでマルを困らせている。

「こいつ、かわいいか?」

 『単に小さいだけだろ』という嫉妬にも聞こえたが、『忍者たるもの気を逸らす技を身に付けねばならない!』と言って、マルの胸をソフトタッチしている。

「ふむ。まあ、精進せよ」

 なんて深くもない助言を贈った。


「きぃー!!」

 何となくいつもの風景がここにもあった。


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