-26話 イベント・オープニング-
このイベントは、サービス開始直後に公式から発表された、追加DLC第一弾として導入された、クラン協力型マルチバトル・ストーリーだ。クランの大小に関わらず、すべての冒険者が隣の誰かを支えながら、協力して強大な敵を攻略するというイベントだった。
先ず、壮大なイメージアニメーションが宣伝を兼ねて配信された。
その後、それが1クール24話のアニメ化になると告げられ、大いに盛り上がる。
アニメと共に登場人物がゲーム内でゲリラ的に参戦するという手法が織り交ぜられると知れ渡ると、主要登場キャラクターと絡みたいプレイヤーが多く参戦し、興行的に大成功を収めたシナリオでもある。
放送されたアニメは、名作ともいわれ都度再放送されていた。
が、イベントの復刻はなかなか行われず、今日に至ってお菊さんが拾ってきた情報が無ければ、誰もその存在に気が付くことは無かった。
「時間を操る剣士?」
まさかと言った声があがる。
時間を物理的に操る魔法もスキルも、このゲームにはない。
判定や確率でなら、上位スキルで“空蝉”などがある。即死や重症などから逃れる術のひとつだが万能ではない。
「あーでも、重症の傷が治り難い可能性として考えられるのは、受けた攻撃が後から遅れて判定されたと思えば――」
「それで納得するもの?」
マルは、その問いに『うーん』って唸っている。
まあ、少なくともお菊さんが掴んだ情報を公開する迄もなく、ランペルーク王国の上空に天上宮が出現し、真っ青で清々しかった青い空が異様な色の変な世界に変わってしまっていた。ピクニックに来ていた冒険者や、かつての古戦場でレベリングに勤しんでいた冒険者も愕然とし、奮えた。
天上に突如、出現した有翼の人影。
それを率いる金色の甲冑を着込んだ女性。
彼女は、ユニコーンに跨っている。
「本当に始まりやがった!」
ベックが宿屋の小窓からその光景を睨んでみている。
彼が“ザボンの騎士”を立ち上げる以前のイベントだ。言ってみれば、“ザボンの騎士”では今回のイベント参加が初になる。ルーカスもこのイベントを知らない世代になるし、知っている可能性はベックとお菊さんだけだろう。
「何か問題でも?」
マルが問う。
ベックよりもお菊さんが――
「クランが若すぎただけ、あの時点であれを楽しめた連中なんて世界中で2割いたかどうか」
下級天使を前に過る恐怖は、尋常じゃなかった。
圧倒的な火力と底なしを感じさせた耐久力に小規模クランは、大規模クランの囮にさせられた。報酬は均一配分されて旨味のあるものだったが、それで人間不信になったプレイヤーも少なくはない。
そうして頭角を顕したのが“国境なき傭兵団”というクランだった。
最後は、どうしようもなくえげつない方法で攻略組を名乗っていたが、ベックが其処を去ったのはこのイベントの後になる。
「まあ、将来有望株のボクがいるし...今回は結構、遊べるんじゃないかな?」
と、マルは、楽天的な発想で呟いた。
ルーカスも同様に『信頼できる仲間は多い』とベックの背中に手を添えた。
踵を返し、振り返ったベックは感涙している様子がみられる。
「お、おお...感動したのか」
ルーカスの引き攣ったアイコンが浮かんでいる。
彼は、ハグを求めるベックを袖にして。
「とりあえず、他の皆に招集をかけて参加できる日程を決めよう!」




