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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-536話 反帝国同盟 ⑪-

 ザクロス、周囲の岩場から偶然なだらかな平地を与えられたような趣がある。

 魔王軍が根拠地として使用し始めたのは、3年ほどになる。

 地中海とエーゲ海を跨ぐ、最初の寄港地だ。

 当初は、何もなかった土地を魔王軍が軍港を開いて発展させた。

 それこそ拓いた時の人口は、漁師の家族15世帯、約90人程度の小さな漁村だった。


 砂浜の土砂を浚い、中型船が停泊できる泊地を整えた。

 今でも大型船の錨地はもう少し沖合になるが、海賊の船くらいはそのまま港の施設まで横付けすることができる。

 約3年、地道にコツコツと現地人とも打ち解けながら、ようやく人口は10万強の港町へ発展した。

 これらの発展の裏には、反帝国という勢力だけが集まったのではなく、魔王軍という強い勢力が周辺地域の治安を守ると確約したからに他ならない。

 人々の願いは、戦争を身近には感じない平和を全うすることである。



 ザクロスの港町にはこれまでの施設とは、やや違うものがある。

 例えば、平たんに整備された滑走路と、書かれた看板を目にする――直線距離でやく2200メートルもある。やや離れたところに火の見櫓と、詰所が設置されてある。

 この施設と併設されたプールと呼称する、広場に怪鳥ゴーレムなどが座していた。

「なんですかコレ?」

 現地の河童族のシャーマンが目の下にクマを作って問うてきた。

 質問を受けたのは、ゴーレムの技師だ。

「ああ、これね...ゴーレムの食事ですよ」

 マルが現地のシャーマンに依頼して、マナの採集を行った後に、充填させたバッテリーである。

 技師たちは、逆にカラになったバッテリーを、ゴーレムから抜いている作業の中にあった。

「見てていい?」


「ええ、構いませんがね」

 バッテリー・カートリッジ1本分で約1日の飛行ができる。

 並みの魔法使い見習い、ひとり分に相当した。

 作業中に、飛び交う質問に技師は、丁寧に答えるスタンスである。

「高純度のマナに対する耐性ですか...また、ずいぶんとマニアックな内容ですね?」

 マナの源泉は、生物の源でもある。

 扱いに困るエネルギーの根源は、高い純度ゆえに激しい感情を帯びている。

 気難しいそれをゴーレムの燃料として使うのには抵抗があった。


 設計者のマルでさえ手をひっこめた案件だった。

「いや、仮に使用したとしても、それは諸刃の剣だろう。何が起こるか予測もつかない...過去にも魔法使いの身分で、マナの高純度使用に踏み込んだ馬鹿がいる。...いやあ、それはもう散々だったという話だよ」

 と、技師は告げた。

 その魔法使いの末路は悲惨だ。


 通常、魔法使いとマナの間には、精神力というフィルターがある。

 濾過されることで、有害な部分をそぎ落とした状態のを使用しているという。

 結果、かの魔法使いはマナに溶かされたのだという。

 現地の河童族は『ああ、それ、...毎年、力のなくなったシャーマンの帰還によく似ているね!』と、共感してきた。

 手の止まった技師は『そ、そう...なの?』としか返せなかった。



「黒曜艦隊は未だ、この地域に展開させろって?!」

 アロガンスは、怒鳴り散らしながら屋敷の一室から出てきた。

 その部屋には“公衆電話”と書かれてあった。

「そこ...は?」

 不思議に思った()が問うた。

 どこの人というわけでもない。

「ああん? “公衆電話”だ、知らんのか!!」

 所謂、遠方の地にある特定の人物と、会話をするための部屋である。

 部屋に入ると、パーテーションで仕切られた個室が二席あった。

 遠見の鏡が設置され、キーボードで“所在国と氏名”をタイピングした後、しばらく待てばその本人が鏡の前に現れるという仕組みだ。

 主に魔王軍内で使用される、長距離通信の様式である。


 もっともタダではない。

 使用料として、銀貨36枚が後に請求される仕組みだ。

 外、銀貨6枚の手数料が発生するので、実質的には42枚が掛かるという。

「お前らからも、二席にはきつく言うべきだぞ?! イズーガルドを支援することはなくなったとな」

 第二席アセンディリティは、水棲の魔物たちを率いる水龍王という一族の出身だ。

 そして、女性であり母でもある。

 地表の竜族は絶滅したが、水棲の竜族は彼女の庇護の下で命を繋いできた。

 が、それでも数は少ない。

 魔王軍に参加しているのも、多少なりとも種の保存に関係しているからであるという。

 真意は計り知れない。

「いや、まあ...ここから我々が去ったら、拓いたばかりの補給港や友人を失いかねません。関係構築しんようは、いったん失ったら、失う以前よりも再構築とりもどすのが難しいものです。ですから、多少の踏ん張りがきくのでしたら、最後まで尽くすのも友情じゃないでしょうか...」

 もっともな台詞ことばを黒曜艦隊の提督は、顔を緩ませながら告げた。

 メゼディエ城塞を離れても、こうなることは薄々で感じていた。

 少なくとも、二席は無責任に“帰ってきなさい”とは言わなかったことだ。


 大将軍も、功労に見合うようイズーガルド戦線に身を投じた者たちに、報いるべきだと主張したに違いない。または、直接的に黒曜艦隊を本国に帰国させるとか、そのあたりの事だろう。

「まったく、お前らも...いや、報いてやれず済まんな」

 アロガンスは、言葉足らずに頭を下げた。

 その足で、町の役場を後にしている。


――ま、竹を割ったような人ではある。だが、それだけに残念なところも...あれで裸褌、法被一枚っていう阿保の塊でなければ、もっと様になるのだがなあ――と、提督はアロガンスの背中を見つめていた。

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