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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-535話 反帝国同盟 ⑩-

 玉座の隠し扉から、新王が現れると場の空気が一段、重たくなったような感じ方を受けた。

 人々は、新王のカリスマ性か何かだと勘違いした。が、当の本人は目の前に平伏ひれふすのではなく、ただ直立不動の男を前にして、全身の毛が立つ気配を感じ取っていた。

「何者であるか?」

 答える筈もない質問を、思わず新王は声に出していた。

 直立不動の男――見た目は、見る者それぞれで異なる意見になりそうな雰囲気がある。新王の前には、屈強という雰囲気の巨体があり、およそ人とは思えない風貌だ。

 直視することさえ憚れる。


「...新王に土産を用意した」

 仮に、王城の騎士総出でも、この男を止めることはできないだろう。

 単純に戦力だとか、兵力という物差しで測ることのできない化け物があるという。

 先の藩国王が雇っていた、“貝紫色ティリアン”の雷帝とも通じ合う何かがありそうだ。


 男は、革袋を放り投げた。

 手に提げていたアレだ。

 袋の口が開くと、黒い毬のような塊がごろっと転がりだした。

「なんと見事な瓜を」


「陛下!?!」


「咄嗟に見たくないと、心が拒絶したか...なんとも情けない王だな?」

 新王の目には、元国王夫妻の首が“瓜”に見えるようだ。

 衝撃的だったという言葉で片づけるにしても、王族としてはやや頼り甲斐が無い。

 戦が苦手というのでも王族として恥ではない。


 ただ、元老院議長としては、新王に僅かばかりかの疑念があった。

「ご老体は、肝が太くあられるようだが?」

 あたま一つ高い位置にある老人を見上げるように男が問う。

 議長の目にも、ハサンと思しき暗殺者は、鬼人オーガのような雰囲気で見える。

「儂もかつては戦場で“槍”を振るっておったからの...身体は以前のように動かぬが、意識が持ってかれるような鍛え方をしておらぬわ!!」

 武人らしい凄みを受け、彼は頷く。

「私もそなたのような歳をとりたいものだ」

 暗殺者が老衰で死ぬようなことは滅多にない。

 いずれも、どこかの路地裏でボロボロになって絶命する。

 ミスをして対象者の返り討ちを喰らうか、同業者にやられるか何かでだ。


「その王のことが知りたいのならば、意識の無い今に済ませるがよい」

 議長の疑念を見透かすように、男は囁きつむぐ。

「ここに転がりし首無しの王には、多くの逸話がある。それは、王妃の残虐性を引き立たせるに足る始末の悪いシモの話だ。もう少しまっとうに王位に向き合い、国ではなく民を導くことに情熱を燃やしておれば、行幸の最中に目に留まっただけの村娘、町娘を手当たり次第に摘まみ食いすることもなっかただろう」

 男は何もかも知っている素振りで饒舌に語り続ける。

 その言葉に背中を押されるように、議長は『陛下、御免!』告げた後、新王の首の後ろを確認する。

 新王には、うなじから肩口にかけての“痣”のひとつもなかった。

 “痣”どころか打ち身による痕はおろか、傷さえなく綺麗なものだった。

「いつしか噂がのぼる。王には落とし子があるという噂だ。だが、それは王妃を酷く傷つけた...ああ、彼女が壊れたのは他愛もないジョークだ。侍女のひとりが王の寵愛により子を得たという...」


「よい。その話は、これ以上するでない!!」

 男は口を閉ざす。

「今一度問う...お前は何者であるか?!」

 議長が呆けている新王の襟を掴んだまま、問いただしている。

「我は、民の狼、いやあなた方の臣民に請われた“死神”にござる」



 甲蛾衆の鬼人がエディル藩国に立ち寄った。

 頭からフードを被り、ローブの下からのぞく業物の太刀を携えた剣士風を装っている。

「まるで獣のような殺陣たて風景だな。一体、何と戦えば味方同士で、叩き合うなんて惨状に成るのだ?」

 鬼人の立つ路地は、血の匂いで噎せ返る様な惨状の中にあった。

 石畳の溝に血だまりの後が残っている。

 彼らが率いていたのは2万の将兵だ。

 それを主要街道から3本は反れる裏道に誘導し、袋小路で身動きの取れなくなったところで追い詰めている。

 町が静かなのが気になって、家屋を覗くと家人らが爆睡していたのも気掛かりである。

「仮にだが、範囲系の視覚ステータス異常という魔法があるとして...いや、道幅が狭くなれば歩を止めるのが普通だ。迷わず袋小路へ進み、仲間に圧し潰されても悲鳴すら上げない暗示もないな」

 と、ひとり悩む。

 死体は、町外れの村にある教会へ運んだ。

 エディル市では、教会は立派だが埋めるような土地が無い。

 死者が出れば、町外れで供養した後、土葬にするのが習わしなのだ。

「魔法による直接的な死因でもあれば、痕跡のひとつでも追えそうだが...鈍器によるものではなあ。先ず、これを報告するに当たっては元国王夫妻の首ふたつを喪失した...これは事実だから正直に包み隠さず報告も出来る。癪ではある...」

 だが――と、言葉に詰まり。

 皇帝は必ず“何故”と聞くことだ。

 夫妻の首が無くなったのは()()かと。

 誰がどんな敵に狙われているかという特定は困難だ。

 およそ皇帝もそんな些末までは気にしていない。

 鬼人が報告すべきは、襲撃者の特定だ。

「...っふぅ、だから、それを特定することが困難なのだが、現場の声が上に理解されることは稀だしな...全く、何処かに答えを持っている者はいないものかねえ」

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