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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-518話 復興、イズーガルド王国 ⑬-

 銃士隊は、将帥の期待通りにマスケットの先に銃剣を装着させ、個々人で白兵戦へ切り替えていた。

 ただし、それでも御椀型の丘を這うようにして登らないと、堡塁から弩の攻撃にさらされた。

 同じ高さの丘に登ったところで、堡塁奪取には至らない。

 敵の目の前、最前線で堡塁を築こうにも、ゴーレムの投石が妨害となって遅々として進まなかったほどだ。いたずらに時間が過ぎると、銅鑼の音が丘陵地帯を支配する――メゼディエ城塞軍の本陣が到着した音である。



 皇子ミカエルは、堡塁付近に歩兵を配置し、防衛の任に当たった工作部隊を下げさせた。

「少し時間が掛かって、申し訳ない」

 ミカエルは、頭を下げる。

 これに対して“水晶の脚鎧クリーブ”からは、『お気遣い御無用です』と社交辞令が飛ぶ。

 しかし、ちゃんと気遣ってやらないと、今にも卒倒しそうな魔法使いが数人いるような状況だ。

 彼らは手持ちのマジックポーションを使い切ってしまっていた。

「後方に救護員を待機してある。そこまで歩けるようなら...」

 これが気遣いである。

 実は、すぐ傍までスライムヒーラーが担架を携えて待機している。

 ヒーラーは、人型に外見擬装シェイプシフトしている状態だ。

「いや、それは...」

 ミカエルの言葉を、甘んじて受けようとした矢先。

「だらしないなあ...男の子でしょ?」

 と、メグミさんの茶々が入る。

 “水晶”としても、何となく状況を察していた――化け物並みに元気な者の存在を。


 戦闘中も“水晶”の連中を遠方から鼓舞していた。

 よくわからないスキルの類で、過労死寸前を背中でも叩くように発破をかける声。

 所謂、()()という鼓舞方法で絞り出された感覚である。

 “水晶”の連中は、魔法使いでけでなく戦士や斥候、盗賊、弓使いに至るまでが、やせ我慢で立っている。彼らの希望こそ『早くベッドで寝たい』というものだった。

「女子もおるわ! この雌ゴリラがっ!!」

 悪態をつくのは、水晶のクラン長だ。

 スキンヘッドの色黒いおっさん風で、フライパンを片手に握る。

 戦士みたいな風貌なのになぜか、後方勤務という不思議な――いや、実に勿体ないステ振りをした冒険者ともいえる。いや、実際に食材を捌くだけなのに筋力の値は、まさに戦士級なのだ。

 フライパンは楯であり、鈍器だと吠えていた。

 無駄に熱い。


 堡塁に押し寄せる敵兵を、その鈍器で殴りつけた音は爽快だった。

 メグミさんを飽きさせない点では、合格のクランだ。

 だから、へばってきた彼らを応援したくなった訳だ。

「救護兵のみなさん、よろしくお願いします!」

 機転を利かせた皇子の号令に、待機していたヒーラーがさっと駆け寄った。

 治癒魔法の応急処置を行うヒーラーは傾向的に少女風の子が多い。

 外見みため的な話だ。

 救護天幕へ行くと、妖艶な雰囲気のお姉さんが居る。

 いや、鎮座していた。

「これは、なに?」

 メグミさんも、スライムヒーラーに促されて天幕へ足を運んでいた。

 マルっぽいのに話しかけたところか。

「ボク、知りません」


「?」


「え、な...なんですか?」

 完全に人違いである。

 背丈は一緒で、くせ毛みたいな髪飾りをつけた少年だった。

 じっくりと眺めて『まあ、これはこれでいい』と呟く。

 少年は涙目になり『すみません。ボク、許婚がいるんです!!』と、その場からダッシュで逃げていった。


「誰を泣かしてるんだよ」

 マルは、雑用に雇った少年兵を指している。

「あ、いや...妹に似た子だなあと」


「...ボク、男の子に見えるのか...」

 細い目をつくる。

 エサ子のように足の匂いを嗅ぐ習性は無い。

 枝を握って、何かを追い回すこともない。

「いや、雰囲気ではなく見た目な...深く考えるな、お姉ちゃんが返って来たぞ」

 両腕を拡げている。

 さあ、この胸に飛び込んで来いという身体言語だ。

 これを無下にすると、姉より怖い折檻を受ける訳なので、マルとしても飛び込まざる得ない。

 姉妹の熱い抱擁――傍目から見れば『仲のいい姉妹ですね』とみられるわけだ。事実は、マルの胸中『これで愛情を確かめなくてもいいと思う』である。



「戦況は?」

 堡塁と同じ高さに陣を置いた本軍は、周辺を見渡している。

「敵方の主力も、こちらの本陣と時を同じくして投入された。数としては、約1万といったところか...この後に藩王が控えると考えると、やはりこのまま防戦を敷いて別働の皇子が藩都の攻略を..」

 と、戦士長の言い終える前に、総大将としてのミカエルが止める。

死霊騎士アンデッドが相手で、すでに魔王軍の戦力しか期待できないとしても、人である我々が他人に戦を預けるようでは意味が無い。この国は誰の物か? この土地は誰の物か?!」


「俺たちの物だ!!」

 天幕の外から、兵士たちの鼓舞が木霊する。

 これは仕掛けだ。

 弱音を吐くような貴族が居たら、発破をかけるつもりで仕込んでいた。

 が、反応したのは一般兵だった。

 ミカエルはイズーガルド人ではない。

 が、彼の鼓舞は覿面に機能している。

「俺たちの物だ!!」

 ――の声が連呼されている。


「イズーガルド人で終わらせる。帝国によって市民に愛想をつかされたかもしれないが、最後の最後で君たち、イズーガルド人が帝国の支配を終わらせなければならない。それが、防戦のままでいいのか?!」


「俺たちの物だ!!」

 天幕の外では、兵士が吠えている。

 その声は、最前線で戦う魔王軍と、スライムナイトも奮い立たせる力を与えていた。

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