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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-515話 復興、イズーガルド王国 ⑩-

「メグミ殿、前方より歩兵が来ます!」

 怪鳥ゴーレムによる観測結果が、ヘッドセットに響く。

 マルの隊は未だ少し後ろにあるようで、報告らしい報告は上がってこない。

 また、陣取っている後方で血の海となった為、吹く風の向きによっては鉄分の濃い独特の臭いに悩まされた。

「やっぱ...血って臭いキツイよね...」

 メグミさんは血が苦手という訳ではない。

 あれの独特な粘り気からくる生臭さが、どうも気が滅入る感覚がある。

「血を見ると興奮するっていう...」


「一緒にしないでよ、そんな変態」

 レッドが、しょんぼりと肩を落としていた。

 彼は血を見ると、滾るタイプであったからだ。

 メグミさんと行動を共にする“グリーン”から身体言語ジェスチャーによって『心配するな、()()()まだ、芽があるさ...たぶんな...』と、いう応援エールが贈られた。

 が、当の本人曰く――私が月のもので流す、あの苦しみや匂いで不快感しかないのに、血で滾るとか変態に恋する訳ないじゃん。絶対あり得ない! それが心変わりしたってんならソレ、私じゃなくて別の誰かだよきっとね――という、ダメ押しなセリフを吐いたことがある。



 藩国軍は陣地を構築する前に、およそ多数の兵力を“エニキュー・ヒル”に投じている。

 本陣に残っているのは、王を守護する重装剣楯兵の3千、長弓兵4千、メイジ隊と長槍兵などのそれぞれが1千ずつの約1万があった。

 すでに帝国精兵である銃士隊5千さえ、最前線にむけて移動している。

「ひとまずは、この辺りに陣を構えてはいかがですか?」


「左右を森に囲まれた街道でか?」

 王の目は、周囲の状況をつぶさに確認している。

 野営地としてみても、左右の森の最奥は見えにくく、音を殺せれば強襲の可能性さえ考えられなくはない。

 王は、首を横に振り雑念を払い除ける。

「ない! それはあり得ない!!」


「この先に村は無いか?」

 いや、数里まえの開拓村で最後である。

 古戦場後の近くで村を開拓しようという、気の強い一般市民などいない。

 しかも数百や数千年前というのであれば、分からなくもないことだがしかし、この世界の理で考慮すればやはり選択肢には上がらないだろう。

 人が死ねば、魂魄が身体より剥がれ落ちる。

 天国も地獄もしっかり認知された世界であるから、幽霊などの怪物をみて“非科学的!”なんて叫ぶ者もいない。現実に人の生命活動を脅かしてくる連中の傍で、村を開くことはない訳だ。

 これが、古戦場ちかくに村が無いという理由だ。


 しかし、藩王はより戦場から離れた村に戻って陣を張ることを躊躇った。

 躊躇って当然であるが、丘陵に築城された堡塁の奪取が目的となったこの状況で、戦場から離れることも近づくことにも、奇妙な胸騒ぎを感じてならない。

 前者であれば、意思疎通どころか伝令の往復だけで日が暮れる雰囲気さえある。

 後者を選択すると、あたら目立つ神輿が格好のマトになる恐怖があった。

 同じようにそこそこ高い丘へ、陣を張り直せばいいという話にもなるだろうが――そもそも、そんな丘に登らせてくれるのか?――と、自問自答しながら深く考え込み過ぎていた。


 王の私ならばどう判断するだろうと、思い悩むにつれて胸騒ぎ程度の危機感が、恐怖となってリフレクトしてきている。

 今、丘陵の攻防戦は苛烈を極めている。

 先遣の5千は猛烈な反撃を受けて潰走した――無事、丘を下れたのは1千にも満たなかったという。中央の堡塁は、至近距離からのマスケット一斉射撃を行い歩兵の()()()()()()()()たという報告が飛び込んでいる。

「敵にもか?!」

 将軍は、報告を受けて思わず叫んでいた。

 藩王は玉座から滑り落ちている。

「射程は?! やつらの有効射程は???」

 薬師は、伝令に詰め寄って彼を激しく揺さぶった。

「申し訳ありません...私は細部を...その」


「よい、下がれ」

 薬師の青冷めた顔が、藩王に向けられた。

 彼の行動からは『なぜ、伝令を下げたんだ!』という雰囲気があった。

「手駒のうち飛車、角の剣騎兵が壊滅した。2千でよいと判断した余の...」

 急に視界が悪くなったような気分だ。

 王は、目の前に虫が飛んでいるような感覚を視覚に覚えている。

「余の見誤りである。貴重な機動力をむざむざ失った――そう、彼らは魔王軍と手を組んでおったのだから十分に気を配って、いや、これも余の不徳の...」


「そんなんで済むか! この盆暗君主がっ!!」

 薬師の怒号が響く。

 彼自身はまだ、安全な最後方の陣の中にある。

 ただし、“聖櫃”の関係者という手前、クラン長にも皇帝にも兎に角、“色よい報告”をしなければならない課題ノルマがある。

「...っ、紅玉姫せんせいがあっちには居るんだ! てめぇらは、血肉を絞って死に物狂いの戦いをみせてみろ! それが帝国に魂まで売った者の在り方ってもんだろがよ!!!」

 薬師は、腰の短剣を抜き放つ。

 付きの従者と将軍が、呆けた面で王を守る。


 短剣の切っ先で指を斬り、零れ落ちる血に彼は詩編を呟く――冥界の亡者ども、ここに集え!――。

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