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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-511話 復興、イズーガルド王国 ⑥-

 メゼディエ城塞軍は、3万未満の兵と野盗の犯罪集団が肩を並べている兵団になっていた。

 いくら縁起の良い土地だとしても、液状化しているような士気では、烏合でも贅沢な雰囲気よびかたである。

 確かに農兵と比較すれば、野盗の類は強い。

 兵士から崩れたようなのもいる。


 しかし、それは今後の皇女かのじょのイメージに影を落とさないだろうか。

 いや、そもそも無法者たちは足枷になるのでは――という声も多くあった。


 多くあったが、その声を挙げる者の誰一人として己の資産を投じて、兵を集めようとはしなかったのも事実である。

 皇女付き近衛である隊長は、貴族ホームの荘園を担保として2千の傭兵を揃えた。

 宰相代理である後見人の伯爵も、家財を担保に5千かき集めている。

 が、彼らより他に皇女に寄り添っている貴族は多い。

 いや、単に多いだけという話だ。

 彼女に皇位継承があって、有力な貴族である伯爵があるから貴族たちは、そこにあるだけなのだ。

「私の傍には誰もいない」

 と、皇女は寂しげに呟く時がある。


 この状況をつくったのは、帝国に対して民を守るために執った政策の影響である。

 泥臭くてもいいから、祖国の為に戦う姿勢を地上戦で見せるべきだったのだ。

 市民の多くには、王家は国と民を捨てた人々というイメージとなっている。



「陛下、お休み中のところ申し訳ございません」

 侍従長は、取次ぎを止めていたが将軍は、それを無視して寝所のちかくに伏している。

「何だ?」

 深く寝ていた訳ではない。

 久しく大きな戦争をしていないが、忘れた訳でもない。

 長兄と次兄が率いた連合軍との内戦は、16年も及んだ。

 結果、改革したかった国を傾かせて、同時おなじころ内戦で苦しんでいた隣国のエルザンよりも疲弊した。

 ただしエルザンと比較すると、統べる王の一族が存命だったという事だ。

 かの地を統べたガレア家の血統。

 藩王もまた、姓をガレアとする――イズーガルド宗家は、エルザンにとっても宗家であった。

斥候ものみよりの報告に御座います」


「...」


「“エニキュー・ヒル”にて陣地を知見したと」

 横になっていただけだった男は、咄嗟に立ち上がるまで覚醒した。

 両軍激突はもう少し、南に下るだろうと予測していた。

 雷帝の取り巻きたちには、ほとほと気分を害されたものだが、良い働きをしてくれたと成果だけは内心褒め称えていた。その意地っ張りな性格さえなんとかすれば、嫌われにくい人になったかもしれない。

 英雄の仕事のおかげで、メゼディエ城塞軍との差は2倍近く優勢を確保できている。

 廃城だった、ウズン=キョブリッジ砦で相対しても負ける気に成らなかっただろう。

「誠か?!」


「あの地域の起伏は――」

 大きい。

 もっとも高いところでも2、30メートルはある。

 弓兵を布陣させて、陣地を構築するとかなり厄介になった記憶が呼び起こされる。

 次兄は、土いぢりの上手い人だった。

 丘陵地で一番高い地に、腰を据えると瞬く間に土嚢を積んで、要塞化させていたほどだ。

 これを攻略するのに手持ちの将の幾人かを失った苦い記憶がよみがえる。

「切れ者がいるのか、姪の軍には...」

 王国の残りカスばかりだと思って侮っていた。

「ちぃ、騎兵の数を減らすべきでは無かったな」


「御意」

 それでも、藩都に迫る東からの軍を思えば、王の侮りのおかげで都市から兵が無くなっているという状況だけは防げている。ただし、国務大臣からの“至急、お戻りを”という嘆願は知らせる時期を逃してしまっていた。

 今、戻れば或いは都市攻略の最中に間に合うかもしれない。

 しかし、それは城塞軍も、早掛けで追撃してくる状況を敢えて作ることになる。


 1:1で戦う好機と兵力差の優勢を捨てる判断を藩王が出来るかだろう。

 いや、戻ることはもう()()的に出来ない。

「戦場にはできうる限り急げ! 敵の本隊がたどり着く前に陣地を一つでもよい、奪うのだ!!」



「と、まあ。丘陵地でつくる堡塁陣地は、平地から見るとまさに“城”です」

 ミカエルは、行軍中の本陣でメグミさんの説きたかった()()を解説している。

 マルも感心しながら耳を傾けている。

「ただ、出来れば丘上全体を要塞化したい...ですが、時間的制約と資材面で難しい。そこで、マル殿の出番です」

 急に手を握ってきた。

 ウインクまで送られたが、マルにその気はない。

「魔法少女が鍵とは?」


魔法城壁マジックランパートです。これは、物理、魔法攻撃のどちらからも対象を守る性能に長けています。堡塁に掛けて補強しておけば...」


「陣取っておれば脇見も出来ずか」

 伯爵は理解した。

 皇女も漸く、胸のつかえが取れたような表情になる。

師匠せんせい、それだけ丘陵の起伏が激しいなら、回り込む敵もあるのでは?」

 シャーリィの問いには、ミカエルの微笑みが向けられる。

「上です...」


「う、え?」


「マル殿は、すべての兵力を注ぎ込んでいます。それは、今まで城塞に食料を運び込みを行っていた、怪鳥と飛竜も同じこと。これらが上空で待機して、広い視野から展開を予測してくれるわけですよ。帝国が、西欧戦線で実際に実践している索敵術の利用だと思われます」

 高空から索敵する術は、ウォルフ・スノー王国で配備されている騎獣兵の一面だ。

 皇子ミカエルとしての知識というよりも、大将軍によって召喚された、魔人デュラハンの知識に寄るところだ。そして、彼はその西欧戦線に参加していた魔物だったということになる。

「そこまで見通してるんだ」

 手を振り払ったマルは、ミカエルを見つめ返している。

「その空の目があれば、モテリアール卿は俊足をもって、戦場をつくりだせる訳だね?」

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