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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-503話 イズーガルドの反撃 ㊽-

「いやあ、流石にマンディアン閣下だ。こえぇーは」

 後ろの従者が膝を崩して、座り直している。

 もう一人は仰向けになっていた。

「俺も、あの場で殺されるんじゃないかって...将軍は凄いですね? あの重圧プレッシャーの中で言葉を紡げるなんて...俺らとはやっぱり違うんでしょうなあ」

 “つくり”が、という言葉まで聞き取れた。

 アズラエル自身は、ふたりの従者ほどにエサ子の重圧を感じていない。

 いつもの彼女らしい雰囲気で、話しかけられた気分だ。


 やや、驚いたのはイズーガルド市民へ向ける慈愛の篤さだ。

 閣下はそんなに()に甘い方だったのか――という考えがよぎる。

 召喚された将帥の半分は、今でも人族を憎んでいる。


 ラージュの様に、目端にあると目障りだという理由で、消滅させるような人間嫌いでもない。

 ただ、害獣に愛情を注ぐことが無い、というだけの事だ。

《だが、この違和感はなんなのだろう...閣下の身体が小さく見えたような気がしたのだが》

 アズラエルの中で、何かが変わった意識は無かった。

 竜王から向けられた視線も、これまでとは違う違和感があった。



 エスクヒェルを統治する領主は、かつて同王国の国防大臣の要職に就いたことのある者だった。今も、現役で領地経営をしているという点では、敬意を抱かずにはいられない相手だ。

 城壁のバリスタ配備も、その高さと(初歩的な)稜堡式築城術による、多角的な構造が取り入れられて聳え立ち、ハティの攻撃を跳ね返していた。

 その戦闘の最中で、将軍ハティは大怪我を負った訳だ。

 闇属性魔法を行使して、城壁を駆け上がった辺りで、冒険者の攻撃を喰らったという。

 ガルムの調査能力では、およそここまでが精いっぱいだ。

「将軍――」


「ジャッカルか?」

 “御意”と呟く犬っぽい面を被った者たちが天幕の影から現れる。

 豪族たちもすでに、見知った光景なのでこれといって騒ぐことは無い。

 が、ハティの直下の部下たちは目を丸くしていた。

 ハティの副官が存命していれば、皆の動揺を抑える事はできたかもしれない。しかし、彼は将軍を守るために、冒険者の放った凶刃の前に倒れてしまった。今頃は、その甲冑を剥ぎ取って、竜人族の彼を晒し者にしていることだろう。

「え? こ、これは...」


「かの城にはどんな、冒険者がいるのですか?」

 今こそ情報収集が必要な時だ。

 相手は撃退できたとより一層の構えを見せる。

 守り切れることに自信をつけたからだ。

「はい、クラン名は“短槍ピルム雛芥子コクリコ”と名乗っているようでした。が、我々の調査範囲から抜け落ちており...」

 要するに脅威レベルの低い連中だった為、追加調査まで行われなかったという話だ。

 それ以上に、他の名の知れたクランが各地にある為、ニーズヘッグも優先順位を付けながら、調査対象を決めていく必要があったわけだ。今回の相手は偶然にもハティとの相性が悪かったということになる。

 いや、ハティがもっと慎重に動いていれば、竜王が歯牙にもかけなかった冒険者に後れを取ることもなかったという話なのだろう。そういう意味では、単独先行を許してしまった時点で、ガルムともども一蓮托生の責めを負うことになる。

「闇属性の対抗と言えば、光、ですか」

 レアな属性を習得している奇特な者もあると、ガルムは唸る。

 彼も魔法に関してはハティほど詳しくは無い。

 彼らの一族がユニークスキルとして、稀に開眼するのが闇属性魔法であるという。


 魔法には“()()()”という属性ごとに強弱が存在する。

 これは使役する属性の長所と短所にも影響する為、一般的には相性と呼んでいるようだ。

 魔法使いでもある茶飲み仲間のマルが、昔、その属性について講釈していたようだが――ガルムとしては自身がまったく魔法と縁遠いのですっかり忘れていた。

「しかし、そうなると攻略が難しいですね?」

 腕を組み、深く息を吸い込み静かに吐く――攻略?――と、小首を傾げた。

「これ、弔い合戦の話ですかね?」


「え、ああ...そ、そりゃあ、仲間がこんな状態ですし。いや、将軍も...」

 天幕の奥で転がっているハティがある。

 副官も早々に退場しているので、全部ひっくるめて仇を取らない理由はない。

 これが、騎兵に蔓延している空気だ。

 また、ハティをこんなにした連中にも会ってみたいが、それはガルムの我儘でしかない。

 そもそも競争は、すでにアズラエルの勝利なのだから、今更点数稼ぎもない。

《面倒だなあ》



 銅鑼の音が響き渡る。

 エディル市の市場にベックの姿があった。

 彼は、魔法具の店に姿を現し再び、消えた――帝国の斥候をまいて退けて、盗賊ギルドの扉を叩いている。

「よう、ご無沙汰じゃねえか」

 と、アビゲイルがつるっと光る頭を撫でながら、出迎えてくれた。

「市場の法具屋までついてきたのが...その、甲蛾衆ってやつらか?!」

 アビゲイルは指をひとつ立てて、

「いや違うさ、あんな子供だましの攪乱術程度で、方角を見失うような連中じゃあない。対峙しないことが賢明だが、出会っちまったら覚悟しな、やつらはしつけえぞ!」

 アビゲイルのひきつった表情かおは久しく見ていない。

「...追跡なんてレベルじゃなく、狩猟者ハンターだよ。追うもんじゃねえし、追われるものじゃねえ。いや、追われたらそうだな、穴倉に潜って、それまでの人生を捨てる覚悟が必要だ」


「そ、そんなレベルか?」


「ああ、大げさに言ってもその覚悟が必要だ」

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