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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-498話 イズーガルドの反撃 ㊸-

 バツが悪いことってのは何だろう。

 皇女も営みというのに興味が無いわけではないが、同性は()()と思っていた。

 不純だと頭の中で割り切れている。


 皇女じぶんの仕事の一片は、世継ぎとなる子を成すことにある。

 当然、そこには異性と。

 彼女は頭を軽く横に振っている。

「これは...えっと、どういうことですか?!」

 卓上には、ピンク色のスライムがある。

 皇女にティーカップと、茶菓子を薦めて給仕を熟していた。

 これが、マルとは気が付かれていない。


 メグミさんの眼が泳いでいる。

 まんま当事者であるにも関わらず、他人事を装っていた。

「ちょ、そこ! 皇女殿下が問いただしています!!!」

 シャーリィの指は、メグミさんを指していた。

「え? 私!」

 驚く振りもない。

 お前しかいないだろという雰囲気でも、メグミさんのすっとぼけた調子は平常運転だ。



「まさか、魔王殿も女の子とは」

 何者だと思われていたのか――魔王ちゃんと呼ばれ続けて久しいが、彼女にもちゃんと名前がある。第八代に就任したのは、ウナ・クールと名乗る堕天使にして、ラージュの娘である。

 ホビットみたいに小さいのは、彼女が――“小さい子って色々得するんだよね”という理由で、そういう姿のまま成長を止めている。

 ラージュのように何もかも吹っ切れてしまうと、出るところは出て、括れるところは括れた身体を手に入れる。

 そうして、魔界を悩殺セクシーという旋風を起こせるようになる。

 素材は間違いなく母親ラージュ譲りなのだ。

「魔王ちゃんって呼んでいいぞ」

 親指を立てて微笑んでいる。

 傍から見ると、ややバカっぽく見えた。

 ピンクのスライムは、魔王との距離をとって卓上の端に移動している。

「いや、それは...」

 皇子ミカエルも目を背けた。


「怪我人の部屋で、その...えっと」


「同性で致すことでもないと思います!!」

 カルラの叱責にメグミさんは、吹き出していた。

 面白いことを言ってたわけではない。

 固定概念に縛られている人々を揶揄う為だ。

「バッかじゃない? あたしが誰と寝るにしても、それを咎められるスジはないって事にさ、気が付きなよ...あんたらも、こんな状況で無ければさ。もう政略結婚の話のひとつも来てるんだろ?」

 と、突き放す。

 魔王ウナは、メグミさんを見上げていた。

 “この人は、何を言ってるんだろう?”って目を向けていた。

「マルは、あたしのもんだ!」

 卓上の端にあるスライムは赤面した。

 わりと恥ずかしいセリフなのだが、メグミさんの表情に狂喜が浮かんでいる。

 セリフを聞き留めた者が、絶句しているのは言うまでもない。

 カミングアウトは突然に来るらしい。



「メグミ殿の痴態はまあ、置いておきましょう」

 柱に縛り付けられた魔人の拘束には、専用のロープが使われている。

 まあ、縛り付けた折に『とうとう、あんたらも乙女な私に緊縛プレイとは外道に堕ちたか!!』なんて吠えていたので、猿轡が追加されて大人しくさせられた。

 むぐぅ、もごもご、ぐぅわっぐぅ――って、叫んでいるようではあるが気にしなければ案外、このままでもなんとか進行させることはできた。


「怪我人のマル殿の姿が見えませんね?」

 ミカエルの問いに魔王は一度だけ、スライムを見ている。

 そのスライムは、プルプル身体を震わせていた。

「あ、今、温泉に」

 苦しい、苦し紛れの嘘だ。

 身体が痺れて動けないといった届け出をして、陣屋に引っ込んだ。

 だから、皇女殿下ご一行が見舞いに来ているのである。

「ほう、傷には確かに温泉が効くといいますな」

 ミカエルは納得してくれた。

 天然ではなく、彼も魔王が一瞥したスライムの背をみていた。

 大粒の汗をかく。

《うわぁ~ 見られてる...めっちゃ見られてる...》

 二度恥ずかしい思いをする。

 スライムの姿は、親しい人でも滅多に見せることはない。

 里に帰っても外見擬装を解く同族は少ない。

 だから、本性であるこの姿を見つめられるのは、とても恥ずかしかった。


 もう一つの恥ずかしさは――スライムの状態は素っ裸と同じ意味を持つ。

 服までを外見擬装シェイプシフトの魔法で再現している訳ではない。下着からアウター、ボトムスと用意した、服を着こなしているのだ。

 だから、素っ裸のそれを何度も見てくるミカエルの視線は、非常に気持ち悪いものだった。

「そのスライム気になりますか?」


「いや、何となくなのだが」

 背を向けているスライムの表面を指でなぞる。

 マルから変な声が漏れた。

 柱にあるメグミさんから殺気が放たれる。

「いやいや、申し訳ない...給仕を終えても留まっているから...まあ、その気が...いや、忘れてくれ」

 ミカエルは、卓上のそれがスライムメイドとして見えていた。

 ただし、メイドたちが給仕以外のサービスを代行するというのは聞いていない。

 彼の勘違いが何を指していたのかは、今となっては知る由もなかった。

「えっと、師匠せんせいは...その、スライムさんを?」


「俺の国ではスライム風呂ってのがあってな」

 大人の階段駆け上がりそうな雰囲気だったので、皇女がカルラの手を強く引いた。

「えっと、なんかこの部屋って暑いですね?!」


「暑いの?」


「暑いか??」

 と、口々に意見を述べる中――戸口に、桶を抱えるマルが現れる。

 当然、卓上にあったスライムの姿は無い。

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