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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-487話 イズーガルドの反撃 ㉜-

「ようこそ、ベック君! メゼディエ城塞へ」

 振り返りながら自慢げに、胸を張っているスキンヘッドがある。

 盗賊ギルドも掛け持ちするクラン、ぴんく☆パンサーの脱獄王と言えば、知らぬものは居ないというアウトローが、アビゲイルという男だ。これと言って、戦闘が強いとか、逃げ足が速いとかそういう値踏みが出来るような、特技がある訳ではない。

 アビゲイルの特技は、()()()ほどの簡単なスキルで、厳重な牢獄から脱獄できてしまうという変なものだ。

 これといって、各スキルには左程、影響を与えない二つ名であった。


「メゼディエ?」

 聞き覚えがあるが、馴染みは無い。

 アビゲイルとしてはもう少し驚天動地まではなくとも、驚くのではないかと思っていた。

 しかし、ベックの方はうっすい反応しか返せなかった。


「まさか?」


「...っ聞き覚えはあるんだが」

 そのセリフを耳にしたときに――お前さんの愛娘が少し離れたところで野営しているが、興味はないと()()に伝えてもいいのか? と、対象を魔法少女マルに向けてみる。

「マルがいるのか!!」

 食いつきは段違いだ。


「ちょっと落ち着けや、今のところ彼女らには任務はない。イズーガルド王国にしても、遊撃の扱いにしてなるべく手元に置いておきたいような話になっている」


「とは?」


「まあ、間を端折れば、彼女らは有言実行ができる唯一いや、希少な存在だと再認識されただけだ。着任から現在までの中で、認識がくるくる変化している稀有な存在だぞ?」


「別に興味は無い。それよりも、マルに合わせるのが目的ではないのだろう?」

 今からすぐにでも城の中を探索して、マルとメグミさんを探して回りたい。

 ベックにとっては、ふたりと合流してバクーに帰りたいというのが目的なのだ。

「その興味の無さを改めて、態度に示すとは――本当にそちら一筋な奴だな」

 苦笑していた。

 いや、せざる得ない。

「魔王軍と会合してくれないか...先ずは、そこからだ」



 南の海岸線にそって西進しているアズラエルの軍は、アンタル城塞を目の前に見上げる位置まで歩を進めることが出来た。エサ子とニーズヘッグという重石から離れると、それぞれの将軍は癖のある表情豊かな一面を持っているのだと、改めて再認識させられる。

 海岸の街ジデでは市民が武器を取って帝国国歌を口ずさみながら抵抗してきた。

 精神支配を受けた者たち特有の虚ろな瞳で、支離滅裂な行動をとる。

 生存を二の次にする行動が目立つ。


 エサ子は、抵抗する者であっても市民への攻撃は極力避けるものとする――と、厳重に勧告した。が、その命令は今まで一つも守れては居ない。

 ()()を拡大解釈してその場を正当化してきている。


 ハティは柘植と遭遇して、彼が率いていた市民を含む反乱軍と対峙して、これを撃滅してしまっていた。もっとも彼らは、反乱軍という幕下にありながら二重スパイに勤しんで、絶賛裏切り中という状況にあった。

 獣王兵団に歯向かえば、直ちにこれを根源から叩き潰すというのが各将軍の方針だ。

 この方針の前では、手加減という器用なものは含まれていない。


 兵団長のエサ子に含むところは無い。

 むしろ尊敬していて、信頼と()のような存在と認識している。

 各将軍の胸中では、アイドルなのだ。

 だが、それでも少しだけの不満を口にするならば――今のエサ子いや、魔王軍第三席という肩書を持つ、サー・マンディアンは精彩を欠く。

 不憫に思った少女を取り込み、人間と慣れ合う姿には違和感しかない。

 腹心である竜王ニーズヘッグは、どのような心境なのだろうかとも疑心している。

「アズラエル卿?」

 大分前から、副将の問いかけられていた。

 もう何度目かの声で、ようやく彼は覚醒する。

「寝てましたか?」


「いや、寝てない」

 寝てた!なんて言えるはずもない。

 馬上でよだれを流しながら、寝落ちを許されるのはエサ子だけである。

 その行為を皆が、兵のひとりひとりが嗤って許してくれる余裕がある。

 エサ子は、普段から兵ひとりひとりと話す機会を設けていた。


 例えば平時でも、有事でもだ。

 取りこぼしや、なかなか対面まで漕ぎつく無くても、彼女を非難する兵は居ない。

 気にかけているという姿勢が大事だという話だ。

 彼女も豆なのだ。

「城は門を固く閉じ、徹底抗戦の構えのようです」


「まあ、当然な帰結だな」

 副将は目を丸くしている。

 アズラエル卿が微笑みを浮かべているからだ。

 この場合は、苦虫を嚙み潰すべき顔になるものだと、副将は思考する。

 当然、目の前の城壁は高く堅固であることは理解できる。


 優れた名将とは、戦わずに事を収める。

 戦争で互いに兵が矛を突きかわすことは下策であると、どの兵法家でも告げていることだ。

 それは魔を統べる世界でも同じことだ。

「少し、怖い顔をしますね...卿」


「そうかな? うむ、楽しいからだな...敵には申し訳ないが、そちらの道を選んでくれて...ありがとうと、伝えてやりたいな」


「ありがとう...で、ですか?」

 暫く、城壁の堅牢さを眺めながらアズラエルは、全軍に撤収を促す。

 その引き際のあっさりさから、城塞では歓喜に満ちた雄叫びが聞こえている。

「おい、馬上筒マスケットを!」

 アズラエルの言葉に従って、竜騎兵のひとりが魔法長銃マジックステッキを放って寄越した。彼は素早く鞍の上で座る向きを変え、城壁へ照準を合わした――。

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