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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-482話 イズーガルドの反撃 ㉗-

 近年のイズーガルド王国史は、30年ほど前から大きく変わる。

 それ以前の王国のイメージというのは、あまりよく知られていない。が、直系で続いた8代目、王朝全体で累計12代目に当たる国王は、王国の近代化を提唱した。この改革を境にして大きく変化したといわれている。


 8代目の国王は、腹違いの兄を3人、弟をひとり、妹がふたりの家族構成をもつ。

 イズーガルド直系モランシー家の嫡男として生を受けた――上の兄はそれぞれ、バダフ家、ジフ家に所縁ゆかりのある後ろ盾を持っており、父王が側室の子として認知していた。仮に即位の前後で彼が死んだとしても、腹違いの兄3人には王冠は巡ってこないという闇を抱える。

 だからと言って、彼の命が安泰ということはない。

 結局、父王は、嫡男をグラスノザルツ第三帝国へ、留学の建前をもって逃避させ、成人するまで他国の環境から国を憂う若者へ成長させてしまった。


 その環境が彼にとって吉と出たかは不明だが、国を()()()()()と、考えるきっかけにはなった。

 それまでのイズーガルドの風習というのは、良くも悪くも地方の力が強かった。

 いわゆる地方分権化されていた。


 大小さまざまな貴族が隆盛と衰退を繰り返し、台頭。

 国王の権能にまで意見する傑物まで出る。

 8代目の初手は、貴族社会の一部解体から始まったと記されている。


――「姫様?」

 いつものように、皇女はメゼディエ城塞の記録保管室に籠っていた。

 この記録保管室は、王家の史書官が、覚書のような状況の紙片から、羊皮紙に書き込まれた公文書までを保管していた。だから史書官の生の声を聴くことができる点で、彼女の興味を大いに惹いていた。


「どうしたの?」

 8代目王は、彼女にとって父に当たる。

 今は、帝国に人質として預けられて、この内戦に直接関与していない。

 もっとも、王室は内戦に関わらないはずだった。

 皇女の兄たちは父王の兄らと同じように、側室の子であって皇位継承権はもとより無い。年齢の近い第三皇子が、皇女を国外に逃がすことが使命だった。しかし、彼は自らを囮にアナトリア半島で反乱軍に参加してしまったことでややこしくなった。

「殿下の伯父上様が」

 伯父、エディル藩王と名乗る8代目の実弟にあたる王室の人間。

 帝国の衛星国と睨みあう形で、イズーガルドの領地を守る偏屈な人だった。

 だが、その変人も今はイズーガルドの敵である。

「使者を立てて寄越してきました」

 “姪の見舞い”という理由かたちで、使者を立てた本性は反応を見るためだと理解できる。メゼディエ城塞を取り巻く周囲の状況は変化してきている。

 いや、劇的な変化だ。


 実行支配は5年だけだったが、内側から帝国の支配を受けてきたのは20年近くなる。

 気が付けば、帝国のシンパばかりになっていた。


「大臣たちの」


「反応はまちまちですね。少なくとも、高圧的な態度を望むといった声は小さく、幾分かまともに平静さを保っていると見えます」

 戸口の従者は、騎士見習いの子らである。

 生家へ告げ口する侍女よりかは未だ、気を許せる存在だった。

 ここから聡明な兵士になるのはいささか少ない。


 パタンっ――。


 本を閉じた皇女は、

 記録室から出てきた。

 カルラとシャーリィの姿がない皇女も珍しい。

 ま、ふたりがこの戦争で、何かができるというのは少し花畑が過ぎる。

 仮にできたとしても、治癒魔法の簡単なものだろう。


 半人前の魔法使いは居ないのと同義だ。

 ふたりは、中庭のドラゴンが鎮座する地で魔法の訓練に励んでいる。

「伯父の...そうですよね、見舞いでした」


「この時期の見舞いも、怪しさを感じてなりませんね」

 怪しくないことなどこの国にはない。

 皇女が読んでいた記録ものは、内紛の記録だ。

 父王の治世、彼女の記憶もどこか忙しそうな王だったと刻んでいる。

 あれが内紛だと知ったのは、もう少し時が必要だったが。

「でも、これで態度を知ることができますね。そう、私と矛を交えるのか...それとも、私たちを出し抜いて後ろから刺しに来るか――そんなところですか? ね...」

 部屋を出てしばらく歩いたところで、彼女を振り返る。

 従者は咄嗟にうつむいた。

 拝顔できない理由はない。


 が、彼は両手で隠した()()で手のひらを傷つけたようだ。


「...ふぅ、握っている手を引かないことです。...でないと、指を落としますわ」

 彼女の視線が冷たい。

 女の子らしい声ではしゃいだり、笑ったり、泣いたりするのはカルラと、シャーリィのいるときだけだ。

 その顔も素顔といったわけではない。

 作っているわけでもないのだが、自然ではないといえば分かり易いだろうか。

「いつから?」

 従者の皮をかぶった刺客がゆっくりと首を持ち上げる。

 視線が重なると、皇女は呆れたような表情をつくっていた――勿論、あなたが私の退路を断とうとした時からです。当然なことですが、私は武人ではありません。しかし、それでも嗜みとしての武芸は習得しておりますの...城の中で古株の者でしたら、存じておりますのよ?――なんてセリフを紡いで聞かせている余裕がある。


 距離を取ろうと従者が後ずさる。

「私から離れないほうが宜しくてよ?」

 半歩、皇女から遠ざかっただけで背筋に悪寒が走った。

「前門の虎、後門の狼...で宜しければ...」

 皇女の微笑みの前に、従者は観念して投降した。

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