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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-481話 イズーガルドの反撃 ㉖-

「皇子より急ぎの使いが来られました」

 と、兵が告げると近衛の静止を振りほどくようにして、“疾風”の軍師が飛び込んできた。

 彼自身で何かをすることは珍しい。

「少し乱暴な方のようだ」

 不機嫌だと態度で示す、ニーズヘッグへ一瞥したが。

 彼の視線は、天幕の奥深い先、厚手の色鮮やかな絨毯の上で寝転がっている少女に向けていた。


「戦場のど真ん中で、寛いで居られる胆力は、流石に豪胆だと認めている...が、その力を貸していただきたい。まさか、あれほどまでに鮮やかにデビューしておいて、このまま帰還されるおつもりか?」

 彼は、彼女らが力を持て余しているだろうと思って、催促しに来た。

 出来れば挑発のひとつでも、売りつけておいて買わせる自信もあった。しかし、エサ子は甲冑を脱ぎ、台座にしまい込んで無関心を決め込んでいた。少なくともふた刻も前の武人ではない。

 もっとも、これは王侯派が原因をつくった結果である。

「御冗談も、そこまで来ると――」


「あなたを遠ざけたジル子爵は戦死された」

 軍師の報せを得るより以前まえに知っている。

 知っていたが、あえて行動しない選択肢をとっていた。

 その気まずいやり取りの均衡を破るのが『閣下、歩兵部隊が到着しました!』という報告だった。重い腰ならぬ寝転がっていた彼女は、飛び跳ねるように起き上がると、戦斧を担いで天幕の外へ出た。

「脱落した者は?!」

 エサ子が兵に問う。

「シスター・エセクター卿が率いる1万、無事に到着とのことです」

 兵士の胸を小突き『お前もボクの天幕で休んでいけ!』と声を掛けると、その足でエセクター女史を出迎えに行く。

 使者として立った軍師も彼女の背を追った。



 千人は、楔のような陣形となってただ只管に前にでた。

 突き出される槍の穂先を丸楯で受け止め、押し流すを繰り返しながら前に出る。

 槍のリーチが無くなると、兵の頭上から覆いかぶさるように斧を振り上げていた。


 これは、ちょっとしたリズムを踏むような感じだった。

 丸楯を構えて、半歩前へ進む。

 槍の先を楯の曲面で当てて、受け流す。当てて、受け流すを繰り返す、単純な作業だがこの作業の前にチキンレースが待っている。

 長く伸びたリーチのある武器に身を晒すことだ。

 それだけではなく、頭上から降り注ぐかもしれない、長弓の矢の雨だ。

「進めぇ! 銅鑼の音に合わせて...半歩ぉぉぉぉ!!」


「半歩ぉぉぉぉ!!」

 小高い丘の上に置いた本陣を捨てて、皇子らはいつの間にか降りていた。

 原因としては、獣王兵団との連絡が取れる位置にまで後退したかったからだ。

 穴倉から穴倉を通って、街道整備や輸送路の警備に当たっていた、敵兵から()()掠め盗っていた反乱軍は、この野戦が初めての本格的な合戦という場であった。

 だから、高台を制していた意味も分からず、軍師の下へ駆け寄ってきたのだ。

「敵の奴らは、高台を放棄したようですな?」

 シャフティの一番槍を得た老将は、直上に当たる将軍に声を掛けている。

 厚手の毛皮には5本の矢が刺さり、左の頬から口端にかけては金属で抉られた様な傷跡が生々しい。

 時々、口腔から舌を覗かせて口端の傷を舐めている。

 話すときも『ひゅぅーっ』と、いった風が漏れるような音が耳障りに聞こえた。


「分断されると思ったのだろう」

 将帥の視線の先には、砂浜に組まれた天幕群がある。

 小高い丘を取れば、戦場の大半を見渡すことが出来るだろう――そうなれば、エサ子らが陣地を構築している砂浜を一望することが出来て、ちょっかいを出すときにでも、盤面を俯瞰しながら策を練ることが出来る。

 結局は、情報が重要なのだ。


「化かし合いは、閣下の勝ちですな――」

 老将のお気楽ともいえる高笑いは、周りの兵士を鼓舞できている。

「化かし合い...と、」

 続々と城から兵があふれ出ている。

 もはや、その湧き口をふさぐことはできない尋常ならざる数となっていた。その一方で、放置された、陣地未構築途上で終わっている丘を目指す一群がある。

 『先陣、先陣、我が斧の餌食と成れ!!』なんて叫んでいた500人の生き残りたちだ。

 老将もそのひとりだが、兵団長の傍で朱槍ならぬ使い込まれた、手斧を授与する栄誉の為に離れて行動していた。

 その生き残りが盛大に爆ぜて散った。

 魔術的なトラップではなく、“疾風”にある機工士メカニックが仕掛けて回っている、地雷という爆発物だ。取り扱いが難しく暴発しやすいというのが難点らしく、機工士の研修を受けているにも関わらず、反乱軍も自らのトラップに係り盛大な爆死を遂げていた。


《登るなあ!!》

 爆発による衝撃は大砲とは比較にならないほど小さかった。

 が、兵団長は咄嗟に叫んでいた。

 しかし、その声は爆発音によってかき消されてしまった。



 イズーガルドの地で、今、残っている敵は王国を裏切った元国王軍である。

 バルカン半島・メゼディエ城塞より真北に位置する、国王の実弟が統治する国“エディル藩”。

 同名の都市と、陸上兵力30万の兵を持つ地は、イズーガルドの要であった。

 しかし、藩王は兄に背を向けたのだ。


 アナトリア半島では、エスケシェル藩と、イスミラ藩が寝返っている。

 どちらも帝国との接点はない。

 それでも、かの藩王は国を裏切って己の信念さえも偽った。


 どこかへ去ることも出来ない彼らは、反乱軍が来ることを待ち望んでいた。

 同じく死を賜るのならば、戦場で果てることの望む――と。

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