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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-477話 イズーガルドの反撃 ㉒-

 近衛騎士ドラゴンナイトはエサ子の周りを固め、城塞の近くまで敵を負い詰めた騎兵は、楯を構えたまま後ずさる。奇襲を想定していた反乱軍だったが、想定以上に混乱させられた結果、正面で受け止めた500人への対応が少し遅れてしまった。


 シャフティ族の個体戦力を侮ったという事もある。

 いや、想定以上に相手を追い詰めていたのかもしれない。

 完璧に封じ込めて、手も足も出せない状態から、砲撃などを加える方が敵、味方において与える印象はまるで違っていたかもしれないという話だ。

 その兆候は、奇襲を受けた時点の兵の中で、生まれていた。

 獣王兵団の一部が、結果的に反乱軍を助けていなければ、敵前逃亡という可能性も否定できない。現実に空の天幕がいくつかある点を考慮すれば、戦死した兵以外に、このどさくさに紛れて逃亡した者も少なくないのだろう。

「用意しておいたポーションは、使い切ったようです」

 ニーズヘッグへ報告しに槍騎兵の騎士が訪れている。

 馬のような面長で、凹凸のはっきりとした濃い顔立ちをしている。

「グラニか、ご苦労」


「一掃できなかったのが残念ですな」

 城塞へ通じる道は細く狭い。

 また、城塞唯一の正面は、馬に跨ったまま駆け抜けるには難所といえた。

 仮に無事、突破したとても広場には何万もの敵兵が待ち構えている。

「そういう戦闘は、閣下もお嫌いではない...が、閉じこもるのであれば...」

 ニーズヘッグの視線は彼方に向けられている。

 城塞よりも先の辺りなのだが、夢想家というほどでもない。

「船が来ないと知ったら、彼らはどう出るかな?」


「一時的に来ないのであれば、長期戦を覚悟して、口減らしの為の散発的な行動をとるでしょう。しかし、その期間が分からないという条件であれば、躊躇ためらわず全軍をもって突撃しますね。備蓄されている兵糧と兵数が見合わない、というのであれば後者に偏るは必定かと」

 グラニの武人としての意見。

「私ならば、突撃を支持します――これは、私の武人としての本能的なものです。部族がひとりでも生き残れることを考えれば、口減らしとしての意味も含め少なくても10日以上、或いは14日以上の食料を確保します。それを若い兵を選抜し、知識の豊かな選抜のベテラン兵を中核とした、部隊を再編させ...」

 顎髭を摘まみながらとくとくと、語る。

「ふむ、やはりそう出るか。だが、出来れば、それは避けたいものだな」

 ニーズヘッグとしては、武装解除が好ましいと思っていた。

 いや、切なる願望だ。

 彼は、深く息を吐いて後頭部を掻く。

「難儀なことだな(武人という生き物は...)」



 メゼディエ城塞の“コメ姉妹陣屋”の数ある天幕には、ひときわ大きなテントが張ってある。

 中は、魔法による設営呪文などが用いられ、テントとは想像が出来ないほど複雑な間取りになっていた。ゲストルームは4室、マルとメグミさんだけでも個室が割り与えられているし、厨房や食糧庫、大浴場に豪奢なトイレまである。

 厨房には、コック見習いになった騎士キャスもいる。

 そんな天幕の中、魔王ちゃんの部屋に――

「お姉さんには、聞きたいことがあるんだ。...今、帝国はどんな敵と戦ってるの?」

 と、マルは子供っぽい笑みを浮かべて、問うてきた。

 寝ぼけている魔王も、似た微笑みを浮かべながら――『ごはん、未だですか?』と問うた。

「ごはん?」


「ボク、まだ食べて...へぶしっ」

 鼻水を垂らしたため、これからという会話が一時的に休止された。


「魔王ちゃんは?」

 メグミさんは、部屋に戻ってきたマルに問いかける。

「ああ、アロガンスさんが居たから預けてきた」

 少女の答えに納得した、メグミさんが場を仕切り直す。

 サーシャは、観念したように項垂れたまま――。

「帝国の情報と言いますが、私たちも元は一介の冒険者です。そんなに詳しい事情通でもありませんよ」

 と、サーシャは状況の確認をすり合わせた。

「で、何でしたっけ?」


「帝国は、今、何をしているの?」

 マルは、広範囲にとれる質問に切り替えた。

 イズーガルドから、多くの将兵が撤収したことは、柘植をはじめとする“影の軍団”やニーズヘッグの放つ斥候兵ジャッカルなどが、情報収集を行っている。その収集の段階で、イズーガルドから帝国の関心がなくなったことを知っている。

 帝国の移り気の速さは尋常ではない。

 だが、5年も占領していた国を容易く放り投げられるものだろうか、という点が気になった。

「帝国の国家方針ですし...私たちのような新参者に国家計画を語る者はいません。私たち...いえ、私の所属していたクランでは、新兵の訓練と管理の職が与えられており...僅かでしたがイズーガルドの元貴族らと知己を得る機会が――?」

 サーシャに視線が集まっていることに気が付く。

「...っ、な、何か?!」


「新兵って?」

 思わず喉が鳴る。

 その食いつき度合いを察して、サーシャも漸く理解する――パッケージされた人の姿を目撃した者たちであることを。

「えっと、ほ、ほら...新兵とは、新しく徴用された農兵ですよ」

 頷きながら、視線を窓の外へ向けている。

 理解はしたが、詳しく誰かに話せるほど情報通でもない。

 クラン長が、どこかの施設から送られてきた兵士を調練するよう、下命していたのくらいしか見ていないからだ。

 まあ、もっともサーシャが新兵を構ったり、絡んだりしたことは一度もない。

 根掘り葉掘りと、問われる案件には早々に離れるのが賢明だったと、それだけの話だ。

「...マルちゃんの聞きたいことが聞けるとも思えないね」

 メグミさんなりにサーシャの離れたがる気持ちを察した。

 女性特有の勘というよりかは、動物的な嗅覚にちかい察し方だ。

「ぶっちゃけ、なぜ、帝国はこの国を捨てたの?!」

 メグミさんは、逃げ腰のサーシャの腕を掴み、生えたばかりの手首の匂いを嗅ぐ。


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