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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-475話 イズーガルドの反撃 ⑳-

 おそらく一晩ぐっすりの状況だ。

 魔王が覚醒したのは、サーシャとメグミさんよりも後の話になる。

 まる1日寝かされたことになっていた。


 マルの術式は、優先順位設定というのがある。

 欠損した部位の即再生特効として、等価は2分割される。

 欠損部位の再生と再生時間だ。


 マルの居た世界では通常、この再生治癒魔法ロスト・リバースは、魔力槽に対象者を放り込んで10日の期間を必要とする大掛かりなシステムが必要だった。戦場でも同じことが出来ないかと研究がすすめられ、冠位達成者グランドマスターと呼ばれる賢人に委ねられた。

 およそ、この研究に携わった賢人の誰もが似た方法で、欠損部位の再生治癒に成功している。

 マルだけが特別ではない。


「おはにょー」

 魔王は目をこすりながら、掛けられていた羽織り掴んで隣室に現れた。

 三本のくせ毛がしなびれている。

「もう、夜だよ」

 マルは、魔王のすぐ隣に立つ。

 身長こそは然程の違いは無い。

 ただ、マルがお姉さんに見えるほど魔王ちゃんの仕草が子供っぽい無邪気な感じを受ける。

「この度は、我儘を聞いていただき、その...」


「いやいや、君の持つ生命力では10日を短縮して...欠損部位の再生を行うには――うん、等価交換というやつでね。君にはそうだなあ、今、帝国はどんな敵と戦ってるんだい?」

 マルの質問に対して、素直に身構えてしまった己の浅はかさに驚愕している。

 マルの微笑みよりも、サーシャの横に座るメグミさんの目つきが怖い。

「単身で敵地に乗り込んできた勇気と度胸に免じて、城塞の連中にはこのこと...伏せといてやるよ」

 男気溢れるメグミさんの口約束。

 しかし、これがまた破られたことが無い。

 有言実行が服を着て歩いているのが、メグミさんだからだ。



 アマラスの野戦は熾烈を極めている。

 篝火を焚いている陣幕と布陣された1万の軍勢に対して、正面からは500の城詰の兵が迫り、後方から奇襲を受けて迎撃していると、傍から見れば明らかに挟撃されている状態だった。

 軍師は、この盤面においても、戦場は常に想定した範囲内で操作できていると豪語した。

 豪語した軍師に焦りの気持ち、心のざわめきを覚えている。

「クラン戦も、レイド討滅戦でも遅れは取られなかったはずだ...」

 不可思議な言葉を吐く。

 軍師は何度も顔を拭って、天井を仰ぎ見ている。

《ここは決戦の地として最適な筈だ》

 掌にかいた汗で、滑り気を感じる。

 唇は甘噛みのせいで、噛み痕が残ってしまっている。

「伝令です。黒騎士、戦場に到達! 奇襲兵の迎撃に間に合った模様!」


《模様? いや、迎撃成功ではないのか!?》

 何か口もごるように歩き回っている。

 伝令兵は困った顔で天幕を後にした。

「少し邪魔するぞ」

 クラン長が訪れる。

 白髪で顔に入れ墨のある、どこかの部族長のような貫禄の漢が、戸口に立っていた。

「族長!」


「ああ、気を遣うな椅子など要らんよ」

 軍師が差しだそうとした椅子を拒み、初老のような外見の漢は一気に間を詰める。

 そうして、軍師かれの肩を掴む。

「柘植が、バラバラに散っていた連中のケツを叩いて回った結果、近日中には兵が集まるというておったぞ!」

 援軍が来るというのは朗報だ。

 軍師の眼に輝きが戻る。

「まあ、儂も孫娘が生まれたのでな...生きて帰る理由がまた一つ増えた訳だ。頼むぞ!!」

 掴まれてる肩に痛みが走る。

 ただし、心地よい痛みだ。

「援軍が来るまで持ちこたえるぞ!!」



《待っててくれ!!》

 元盗賊の棟梁とその兵2千は、来た道を折り返して進んでいた。

 夜の闇が周囲にいっそうの影を落としている道を感覚と、嗅覚だけで奔っている。

 そのすぐ後ろを、同じ速度で追従している者たちがある。


 アマラスの南、サフランの森で出会った軍を引き連れている状態だ。

 イズーガルドの地元民で構成されているとは言え、夜道の早駆けの危険性は変わらない。

 昼間と趣の違う山道も使うとなれば、尚、危険な山越えとなる。


「見えた!」

 棟梁の背中からぞくっとする悪寒が走る。

 湧き上がるのは大粒の汗だ。

 布陣している地の空が赤く燃えているように見えた。


「この先の先導は必要ない! これよりは我らにお任せあれ」

 と、数騎の馬が横付けされ、棟梁に挨拶の返礼を送って離れていく。

 追従するだけでも厄介で難儀だったことを、あろうことか2千の兵を追い抜いていくのだ。


「ま、待ってくれ! 俺たちも...」

 棟梁の言葉はむなしく蹄の音にかき消された。

 が、これで折れていたら、反乱軍に最初から参加していない。

 彼の生来、負けず嫌いに火が付いた。

 走る味方を鼓舞すると、猪突が如く更に速度を上げて奔ることにした。



「からくり?」


「ああ、黒騎士はクランのメンバーが造った、“機械仕掛オートけの騎士マタ”だ。最近は、メンバーの腕をもってしてもメンテナンスが難しくてな、嵩む修理費、希少な資源の無駄使いも相まって...恐らくはこの戦いでお払い箱かなと」

 軍師の溜息は、この黒騎士に向けられたものだ。

 機工士という職業を選択したクラン員は、専ら長銃マスケットの生産や整備に追われ、黒騎士のメンテナンスを行えない事情があった。

 これには、思い出も思入れもある。

 できればお払い箱という選択肢は、撤回したいとクラン全体では思っていた。

「伝令!」


「今日はまた、随分と騒々しい」


「なに、言ってるんです?! 今、戦闘中ですよ」

 従者の少年が忠告。

「ああ、まあ。そうだった」


「バルトゥーン方面より兵団を確認! 軍旗は“獣王”!!」


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