-20話 とあるミミックの話Ⅳ-
ピンク色の短髪で2本の癖毛を揺らす少女が立っていた。
管理者を冷たい視線で見下ろす少女の瞳には、熱量を感じない無慈悲な感情が見える。
「俺をどうこうしようと考えてるならそれは、間違いだ! 俺のバックには組合が――」
負け犬の遠吠えほどみっともないものは無い。
「組合ねえ、誰か教えてやれ」
ベックの呆れた視線もちくちく刺してくるもので、管理者には不快だった。
いや、そもそも不快なのは、高い組合の保険料の方だ。
MPKは楽な押し売り商売だ。
モンスターのタゲを第三者の冒険者に押し付けるだけで楽に装備品を奪って、捌いて稼げた。ダンジョン経営もその延長線上での出来事に過ぎず、客足が途絶えなければ今頃、左うちわだったに違いない。
さて、どこから計画がと考えていると。
「お気の毒過ぎて声を掛けるのも忘れてた」
スライムを頭に乗せた調教師が近寄ってきた。
冷めた雰囲気だ。
「貴方が頼みの綱にしている組合なら先刻、別のクランに襲撃されて壊滅したそうよ」
管理者の目が大きく丸くなった。
『馬鹿な?! 戦闘スキルの高位レベルまで鍛えた先生を囲う武闘派だぞ!』と深くうねった。
いや、討滅に入ったのは2個のクランだ。
しかし、全員無事で帰還したのは1つだけだった。
壊滅まで行かないものの、損失が多かったクランは本部まで脱出している。
「まあ、いずれにせよ...罪は償うのがルールだ」
と、テイマーは彼を諭して大人しくさせた。
その瞬間、マルが監督官が持っていたバインダーを剥ぎ取ると、テイマーと管理者の間に飛び込んでいる。彼女が突き出したバインダーのど真ん中を両刃の鋭いナイフが突き刺さり、ふたりの命がその判断で助かった。
「なんだ?!」
すっと消える気配にロープダガーを放っているけど、すっかり何もない空をダガーが飛ぶ。
「消えた! こんな土壇場で暗殺者が」
マルの小さな背中をみるテイマー。
クラン員とマルの無事を確認するベックとそれぞれの立場で、守るべき仲間を見つめている。
◆
ミミックは、小さく溜息をついている。
住み易かったが、客足が遠のいて久しくコレクションが増える可能性はない。
確かに年代のある陵墓だけど、ダンジョンとしての魅力にはならないだろう。
ゴーレムやアリ、キノコも冒険者ギルドが用意した厚生施設に送られていった。野生に戻る為の練習というのがあるのだという。
では、ミミックは振り返る。
彼はもともと居候だから、野生の魔物だ。
自らで戦う術を持ちはしないが、歴然と魔物である。
「一緒に来るなら」
と、誘われた。
少なくとも、或いはそういう選択肢もありだったかもしれないと。
『スライム?』
緑色のスライム、愛称はベムという。
鍛錬と研鑽を積めば、何れはクラスチェンジで粘体騎士になれる素質があることが分かった幼体である。好奇心旺盛で、忠実そして勤勉だった彼は、ミミックと再び会うためにダンジョンに戻ってきた。
『ああ』
ヌメヌメっと動くと、ミミックの傍に座り込んだ。
『君にお礼をしたいんだが』
蓋を開け、獣の視線がスライムに向けられる。
『...』
『クランの航海用倉庫は、整頓できていない。君の能力を買いたいんだが』
と提案してきた。
つまりは住み込みで雇用するという。
ミミックにとっては嬉しい話だったが、
『魔物とはいえ、高いぞ?』
『その返事を聞きたかったんだ、よろしく相棒』




