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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-453話 イズーガルドの反撃 ③-

 船を漕ぎ、鼻提灯を浮かべる賢者を前に。

 マルは大爆笑していた。

 腹を抱えて、メグミさんの膝の上で大笑いである。

「もう、ボクの負けでいいよ!」



 灰色の賢者は、改めて自身の自己紹介を始める。

「魔王陛下にお仕えします、灰色の治癒士スバーバルと申します」


「ローブの上から推測すると? その...中身、魔王の影武者もされているのですか...」

 マルが問うと、賢者は深くうなずいた。

 声色の雰囲気と、身のこなしからすると女の子にしか見えない。

「いえ、私は男です...ま、まあ...お調べになると申されるの、でしたら...その、僕も、覚悟を決めて、お、おちん...」

 ローブの中でもぞもぞ動いている。

 賢者が、おそらくは問われもしないのに、ズボンのベルトを外していると邪推したマルは、その動きを強い声で制止させた。


「べ、別に、中身を見なくてもいいです」

 マルとは別として、膝を提供しているメグミさんの瞳は、輝きを増したような雰囲気だ。

 メグミさんは少し拗れた性癖を持っている――通じるものとしては、エサ子の姉を自負する“槍使い(女の子)”であろうか。まあ、この二人はとかく、変な性癖が目立った。

 メグミさんは、汚部屋に住む引き籠り系であった。

 ぐったり草臥れたスウェットの上下を、だらしなく着こなす事にかけては右に出る者はいない。

 さて、その彼女の性癖は、対象が女の子であること。

 気が付いたのは、高校2年の夏――市営プールで中学時代の同級生を目撃した折、“きゅん”と高鳴ったという。以後、マルは大事な妹でありながら、カミングアウトできないが恋愛対象でもある。

 本人曰く「ボク、スライムだよ」。

 メグミさんにとっては“メスであれば問題ない”とうとう、種族の溝も越えられない山もないときた。

 そのメグミさんも、健全なお付き合いに挑戦したことがある。

 心の渇きを癒せないと知ると、ベック・パパにメールで「お友達でお願いします」と、送信。

 以後、マルとともに行動している訳だ。


 さて、男が苦手のメグミさんだが、実は、年齢によって少々事情が変わってくる。

 ここは、少年スパーバルを影武者としている魔王とも、通じるところがあるようだ。

 そう、ポークビッツをもつ子は別格という嗜好の困った性癖。

「はいっ! メグミさんも、がっかりしないっ」

 マルは大きく息を吐いた。

 膝上に座り直し、胡坐をかく。

「で、何用?」


「ああ、なんかすっかり忘れてました」


「...っ、キミ、大丈夫?」

 下唇を甘噛みしつつ、首を竦めて前後に揺れるマルには、目の前の賢者がとても残念な子にしか見えない。物忘れというレベルの類でなく、賢者の視界からマルらが一瞬、消えてたんじゃないかってくらい瞳の色がコロコロ変わっているように見えた。

「魔王陛下が、お会いに成りたいと申しておりまして...」


「唐突だなあ」

 マルとメグミさんの声が重なる。

 トーンはやっつけな雰囲気だ。

「え? 唐突でしたか?...あれ、えっと...」

 スパーバルの中では、口ごもっている言葉と口に出した言葉は、そのまま一連の諸動作と何ら変わらない。

 例えば、彼が道に迷うという動作は、何か考えながら歩いている――ふと、気が付くと何をどう歩いてたのかに集中してしまい、目的地を見失うようなのだ。

 魔王曰く「幼くして賢者になったか、転生してきた為に“心”が壊れたのではないか」と分析した。

 キャパシティが許容範囲を超えて処理できないというアレらしい。


 ドレ?

 マルが、周囲を見渡していた。

「どうしたの?」


「いや、なんか聞こえて...」


「あ、そうだ! 魔王が会いたいって...どういうこと?」



 “勇者飯ランチ守番ガーター”の昼飯ランチは案外、質素である。

 クランの金庫番が近くの厨房に籠って作っている。

 “バナナイモムシの蒸籠蒸し”と“歩きズッキーニの浅漬け”が卓上に並んでいた。

 バナナイモムシは、体長1mちかい魔物の類として登録されている害虫なのだが、人間が育てる果物を好んで喰っている手前、これを蒸し焼きにするとホクホクとした触感と甘未を蓄えたホットバナナみたいになるところから名付けられた生物だ。

 近くの野良エルフらの大事なタンパク源らしく、滅多に食えない珍味だと言っていた。

 もっとも、彼らのサバイバル精神の前では珍味ではなく、『また、コレか!!!』という怒りにちかい食い物であるようだ。

 バナナイモムシが成虫になると、人の肉を食らう“ヒトキリムシ”になるのだという。

 甲殻系の平べったい体で、強烈な顎とかぎ爪をもっている。


 歩きズッキーニは野菜系モンスターだ。

 パプリカとか、ゴーヤなんかも歩いたり、走ったりしている。

 走るスイカは、追い詰めない方がいい――砕けやすい身体をもって自殺するタイプがあるからだ。

 割れると厄介で死臭というか、スイカの甘味臭で仲間を呼び、怒り心頭で種を飛ばしてくる。

 結果、巨大軍隊蟻ジャイアント・デスアントに追われるのだ。

「食事が終わったら、クラン長の下に集合だぞ」

 金庫番は、配膳卓に食事を置いていく。


「例のネズミかな?」


「さあな...結局、焦土殲滅の支障にはならんだろ」

 イモムシを掴み、一瞥する。

「なあ、肉、マジで肉くいてぇな」


「いうな...そして、思い出すな肉なんて、俺たちは食ったことがないものだ」

 それは、現実逃避である――エルフらが周囲を見渡していた。


「何があった?」


「いや、今、何か聞こえたような」

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