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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
504/2413

-446話 イズーガルド攻防戦 ㉞-

 シティア港には、新造の軍艦、建造中の軍艦と船出を待つ軍艦を合わせて、活動中の黒曜石艦隊2個分が係留されている。この地域で活動するにあたって、魔王水軍は、無敵の艦隊である必要性があった。

 所謂、敵味方に対する鼓舞である。

 帝国にとっては、越えられない壁と思わせておく必要があった。

 火力では依然、魔王軍側に軍配が上がるが、その差は10年もない。


 デュプレの居る世界では、この差は確実に埋まってきていた。

「他の軍艦ふねも見るから、乗り換えて行けよ」

 親方は、職人を集めて補修整備の組み分けを行い始める。

 船長は肩を落とし、舷側が凹んでいる軍艦レディに別れを告げる。



 アセンディリティが率いる艦隊も、旧型のジーベック辺りは、シティア港へ寄港させた。

 寄港理由は、いくつかあるが、もっともな事由として、長い航海の末であろう。

 人類には未踏破な海域でも、魔王軍は、航路図を作れるほど多く航海の知識を深めている。

 これらの地域で、自然発生的な嵐に遭遇しては、如何に水軍の誇る船でも、船体に何かしらの傷を貰わない訳にはいかない。

 また、魔法使いらの“天候操作”魔法による、嵐の回避なども出来ないことは無いが、自然発生ということは、星の環境全体に影響するものである。これを邪魔だからといって阻むと、次にどんな地雷を踏むか分かったものではない。

 星の機嫌を損なわせてまでの事でもなかった。

「また、懐かしい船じゃねえか」

 ジーベックが陸ドッグへ揚げられる。

 船底にはフジツボなどの水棲動物がびっしりと根を張っていた。

「ま、掃除のし甲斐もありそうだな...」

 若手を呼びつけ、デッキブラシ部隊なんて名を付けて、船底に潜り込ませる。

 まだ、十代くらいの若い見習いばかりである。

「舎弟かね?」


「いや、近くの造船学校がっこうに通っている子供たちなんさ。なんでも、社会科見学っちゅう殊勝な授業なんだと、で、10日間...造船所で面倒を見るっちゅう話だからさ、序に給金を払うから、仕事していけと言った訳よ」

 煙管を吹かす親方は、やかんの茶を湯飲みに注ぐ。

「で、アセンディリティの嬢ちゃんは元気かい?」

 親方は元、船乗りだ。

 リヴァイアサンと言う名のジーベックに乗っていた、専属の船大工だった。

 話によれば、襟に一つ星の少佐まで昇進したというが、彼が軍服を着ていたのは半世紀も前のことだ。魚人族も魔力マナが濃いと、生命力は段違いに強くなり、なかなか死なない。

「人妻ですからね、なんていうか。小言が多くて叶いません」


「ま、それでも昔と変わらんのだろ?」

 御機嫌取りの方法は――と、口元に放り込むジェスチャーをみせる。

 船長は頬を両手で覆いながら、

「そんな前からですか? 寿司好きも困ったもんですね」


「...ジーベックの代わりに、3本マストのシップ・スループを用意しておいた。舷側16門の魔導大砲カロネードを載せておいたが、過信はするなよ? 最近の帝国は、トップスル・スループに18ポンド砲を載せた意欲的なのが警備艦に交じってやがる」


「どう、怖いんですか?」


黒曜石オブシディアスの連中が言うには、先ず、機動性が高い。当然、練度次第だが、連射できると思って行動すれば間違いは防げる。まあ、船体が小さく視認性の問題で過剰にならなくてもいいのだが、鎖弾には気を付けろ!」


「索具破壊?! ですか...」

 マストが倒されれば、脚が止まる。

 帆を貫通したり燃やされたとしても、予備帆スタンセイルでも張って急場を凌げれば、逃げ切れるかもしれない。

 しかし、今までの帝国にしては海賊っぽい戦い方だ。



 メゼディエ城塞から約10キロメートル。

 白い砂浜が続く海岸線から、続々と異形種の魔物たちが上陸していた。

 彼らは、砂浜に集まると、耳や鼻に入った海水を抜くのに手鼻をかんで深呼吸、そしてむせてかえって咳き込んでいた。

 甲冑の入った革袋を肩に担いで最後に上陸したのは、この上陸部隊の指揮官。

 倭刀は背中に背負っている。

 それは褌姿の長身、偉丈夫の魔人。

「どこ行っても海はしょっぺえなあ、オイ!」


「ちげぇーねで、やす」

 副官はオーガだった。

 指揮官は、周囲を見渡す。

 近くに深い森があるようだ。

 ただ、深いといっても、全軍を隠せるような雰囲気でもない。

「馬は現地調達、或いは帝国から奪って使え」

 一堂は唸る。

「飲み水の確保も忘れるな! 食料は帝国から奪うのが妥当だな」

 陸揚げ出来た物資は少ない。

 殆どは、海上に浮かぶ後続のスループが載せている。

 だが、上陸地点には来ないだろう。

「ま、とりあえずだ! 帝国の包囲している連中が気が付く前に、その背後を強襲する。投石器もすべて壊して回れ、ひとつも残すんじゃねえぞ。あと、ひとつ...言い残したことがある。俺の取り分なんざ気にするんじゃねえ、俺らに背ぇ向けてる阿呆どもは全部敵で切り捨てろ!!!」


《行くぞ! てめえらー!!!》

 的な掛け声が挙がる。

 甲冑も身に付けていない裸褌の猛者どもが動き出す。

 包囲している敵の背後を取る戦いは、有史以来からよく用いられたものだ。

 今まで、魔王軍がその麾下の正規軍を派遣してこなかったのは、魔王軍内部の事情による。

 他にも様々な要因が欠落していた為でもある。


 そのピースが整ったので、再遠征してきたわけだ。

 指揮官が走り出す。

 砂に足を取られて豪快に突っ伏す――その上を獣人や悪魔が越えていく情景。

 足跡の中に埋もれた彼、魔王軍十席が筆頭、“傲慢アロガンス”その人だった。

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