-17話 とあるミミックの話Ⅲ-
心配になってこっそり角から見ているミミックの傍に、大剣を携えた重戦士が蓋をかるく撫でに来た。
「悪いな、心配かけちまって。だが、大司祭が本気になると怖えーんだぜ!」
と、苦笑して見せた。が、きっつい視線を返す大司祭の前に皆が絶句。
「そこ、後でお仕置きが必要かしら???」
「い、いえ、な...なんでもありません!」
「じゃ、タンクの子たちよろしくね」
大司祭の合図とともに重装騎士が大盾を構えて、死霊騎士の攻撃を全部受ける隊形を組む。
◆
これを後方で見つめる管理者には、漸く安堵の色が浮かぶ。
時間さえ稼げれば、ダンジョン組合の救援を期待できるし、その為に苦しい窮状の中でも頑張って保険料を支払ってきたのだ。その見返りを求めて悪いはずがない。
まあ、実際に組合がどのような処置をするかは不明だった。
そもそも、ダンジョン運営はグレーゾーンだ。
管理者の名前はオレンジ色に変わっているし、これの理由がMPK(monster player killer)をしているというシステム上の判断だ。ただ、ダンジョン経営ができる時点でグレーだと言われ、これが明確な違反ではないところがまた、怪しさを引き立てている。
管理者のもつ危機感というのが、オレンジ・ネームになった事によるPKK(Player Kill Killer)されるという恐怖感だ。MPKをしておいてPKされることへの恐怖というのは、ちょっと虫が良すぎる話だが。
ネームの色が変わった時点で付いて回るデメリットという事だ。
通常の冒険者がPKされると、被害届が自動的にギルドの最新ニュースとなって掲示板に上がる。この被害状況に合わせてプールされている保険料や、討滅クエストとしてPKを実行した冒険者名が晒される形となる。
PKKとは、名前の色が変わった冒険者を狩る者たちを指す。
では仮に、PKKが成功した場合、オレンジ・ネームはどうなるのか。
当然、罪状に合わせて監獄へ送られる。PKされた冒険者は状況次第で、褌姿で辺りを走り回ることになる。もしも、死んでしまったら最寄りの教会に送られて蘇生される。だが、落としたアイテムを回収する為に結局は、裸で走って現地に戻らなくてはならない。
PK、MPKは裸で監獄に送られ、刑期が終わるか脱獄するまで専用クエストを受ける羽目になる。
嬉々として監獄に送られる冒険者も多くはない。
だが、資産没収というデメリットを受けて喜ぶほど、この管理者はマゾじゃないということだ。
枯渇してたMPが漸く回復の兆しを見せ始めた。
まさかすっからかんにされる相手に出会うとは思わなかったと、彼は額の汗を拭う。
「どこのどいつかは知らないが、俺のダンジョンで好き勝手しやがって」
管理人部屋へ戻る途中、何か不気味な雄叫びを耳にしたような気がした。
振り返ると、死霊騎士が木っ端みじんにはじけ飛ぶ瞬間を目撃する。
「!?」
骸骨重装騎士もはじけ飛び、骸骨鍛冶師らが『分が悪いんで』と軽く挨拶をして、逃げていく。弓兵は降参し、歩兵らも槍や剣の柄に手を置く寸前に武器を棄てた。
「な、なんだ、なんだよこれは!?」
管理者が戦場に戻ると、ピンク色の短髪で2本の癖毛を揺らす少女が立っていた。
「お前は誰だ! 何で俺の...」
「依頼で来たんだけど? あなたが無のな管理者さん」
管理者の目に飛び込んできたのは、カボチャ頭の首なし騎士の意匠。
カラーネームに容赦をしない“ザボンの騎士”のものだった。




