-15話 とあるミミックの話Ⅱ-
「干し肉が要らないなら、これあげようか?」
彼女が光の下に差し出したのは宝石だった。
粗悪でない、品質は良質。ただ、形状変換の作業で出た荒さによって偶々、良質になってしまった宝石の数々、計10点。そのまま宝石商に持っていけば、それなりの納品クエストが達成にはなるものの、個人的な拘りというのがある。
曲げてはいけないものというか。
「うん、これは好きみたいだね」
近寄ってきたのがミミックだと分かった彼女は、優しく宝箱の蓋を撫でてきた。
小動物を愛でるような雰囲気がある。
「お悩みはなに?」
言葉じゃなくて、心を読まれた気がする。
見透かされていると感じた瞬間、
「そうか、ダンジョンか」
少女は、ころころと微笑をかえしてミミックは、驚いた表情を浮かべる。
ま、もっとも表情のエモーションは吹き出しのアイコンが浮かぶので実際にミミックが返しているわけではないが、彼女の表情は実に自然でそして豊かだった。周りのスライムは何故か尻尾を振って喜んでいる。
こいつら何者?とミミックは思っている。
「んじゃ、ダンジョンに活気が戻れば出ていくことはないって感じ?」
ミミックにとっては複雑だ。
確かに人気が戻れば、出ていく理由は無くなるけど果たしてそれでいいのか?
自問自答している。
「先ずは無能な管理者を排除しよう!」
彼女は、足元にいるスライムたちに短剣の切っ先を差し出す。
その切っ先に進んで前に出たスライムたちが身体の一部に突き刺させて一列に並んだ。
数は6匹。
灰色の煙と、身体をうねうねと動かして弾け散る。
その後に出現したのが、戦士風、騎士風、魔法使い風の6体になる人影。恐らく眷属召喚の類だろうか。
「じゃ、お仕事よろしくね!」
彼女は、ミミックを先導に6体をダンジョンへ送り出した。
◆
ダンジョンの中では管理者が召喚した、骸骨騎士と上位スライムの間で激しい攻防戦が繰り広げられていた。防御陣地に大盾で城壁を担う骸骨重装騎士の数体が通路幅いっぱいに展開して硬く閉じている。
シールドの耐久が脆くなりかけると、骸骨鍛冶師が仕立て直した真新しい大盾と交換する。こうした連携で最前線の守りを徹底し、都度、骸骨騎兵が捨て身の特攻を仕掛けている。
管理者は死霊使いのダークエルフ。
一応、冒険者だ。
「ったく、MPが足りなくなるっての! 誰か救援にきてくれ」
下位の骸骨騎士を召喚し続けているが、下位とは言え、消費するMPやクールタイムの再詠唱の時間等を考慮すると、回復と消費のバランスは最悪だった。備蓄しているMP回復薬もそろそろ品切れしそうな雰囲気。
ミミックの先導で現れた6体を少々侮っていた為に起きた失態とでもいうか。
かつては、仲の良い仲間と共に作り上げたダンジョンを手塩を掛けて、大きく開拓して今日にいたる。
スカウトしたり、創造したり、罠を配置したりと色々やった。
しかし、その仲間もINしなくなった。
リアルが忙しいという簡単な理由で去っていったのだが。
管理者は、また、戻ってくると思って今日まで此処を守ってきたのだ。
「まだ、失う訳にはいかない」
最後のMP回復薬を飲み干すと、死霊騎士を召喚する。
低位の骸骨騎士と違い耐久力も攻撃力も桁違いに強い。が、制御は難しいという反作用を持つ。
管理者の苦し紛れだろう。
「いっちょ、腕試しといくか」
重戦士が重い腰を上げた。
最前線では妖術師と重装騎士が大盾を攻撃しながら、MPが尽きるのを待っていた。まあ、時々ミミックが差し入れをする食材に舌鼓を打つ戦士に怒声を飛ばしている場面も散見されたものの、スライムたちの無尽蔵な攻撃の前にとうとう盾の再生も追いつかなくなった。
大盾を押し退けてデスナイトが通路一杯に腕を伸ばして挑発する。
対するは、大戦斧を担ぐ獅子の毛皮に身を包んだ重戦士だ。
もう一匹も加勢するか?という合図を彼に送ったが、『俺一人で十分だ』と啖呵をきっている。
『いいとこ魅せたいんだろ』と、妖術師に鼻で笑われた。
デスナイトの持つ獲物を一撃目でひらりと避ける。その上から重ね合わすように大戦斧で叩くと、かの両刃の大剣はあっさり折れてしまった。
切っ先は地面にめり込み、刀身の中央から根本にちかい部分を失った獲物をデスナイトはまじまじと見つめる。
首を傾げ、動きが止まってしまった。
重戦士は『戦いの最中だ! 余所見してんじゃねー』と叫びながら大戦斧を振り上げて一刀両断を決め込む――ピタリと、重戦士の動きが止まった。振り下ろされた斧の刃をデスナイトが大剣を握っていた腕で受け、彼が宙ぶらりんで浮いてしまったからだ。
「ありゃ?」
死霊と視線が交わされる。
重戦士のお茶目な微笑――迫る盾の角。
豪快に吹き飛ぶ重戦士、腕に刺さった戦斧を引き抜くとデスナイトはそれを新たな獲物として使うことにした。
「言わんこっちゃない」
妖術師よりも大司祭がよたよた歩いて、吹き飛ばされた重戦士に肩を貸している。
「そんじゃ、次は俺が!」
とか、重装騎士らが準備運動を始めているが、大司祭は深く溜息を吐く。
「はいはい、お遊びはこれで終い! ご主人様を外で待たせてるのを忘れない」
ミミックも心配になって路地の角からこっそり顔を出している。




