-14話 ザオ、世界を釣る-
強烈な視線、吹き出す脂汗、頭に浮かぶタゲ感知マーク。
ほぼ全員が敵視の方へ身体ごと捻っている。
見習いは硬直。
水夫たちは腰が抜けている。
強烈な殺意の前に堪えているのは、クラン長と副長ら。
マルは、ベック・パパに『ちびったかも?』と泣きかけていた。
当のザオ氏は狂ってた。
彼は、大笑いでキラー・シー・バスの挑戦を受けて立つとか叫んでいる。
外部から録画アプリを起動させ、ビデオカメラの浮遊物が2個、ザオの周りを引きやアップ、俯瞰などの角度から撮影を始める。既に開戦となっているこの状況で、彼はインカム越しに、カメラを通してセリフを呟きながら竿の用意をしていた。
用意された釣り具は誰もが唸る一級品。
伝説の釣り具師が、高品質の材料のみで鍛え上げた大業物。
皮革職人が革鎧などを作るその腕で、竿の為だけに仕立てた革袋。
上甲板にあるすべての人々の目には、その一品の数々が極めて高いアイテムレベルの域にあることが分かった。“海の殺人鬼”を釣るだけでここまでの準備が必要なのかとか、感心していたら船に痛恨の一撃を貰い転覆しかけている。
「ちゃんと操船してくれ!!」
ザオ氏に怒られた。
◆
キラー・シー・バスの釣り場は案外広かった。
船を操作して、円軌道で逃げ回っている。そもそも、この手の魔物は戦い難いので他のクランと申し合わせで倒すようにしている。それを釣るという発想が無かった。
いや、そもそも釣れるのか?という疑問さえある。
だが、先刻よりザオ氏とキラー・シー・バスとの間で激しいバトルが繰り広げられていた。
海の中に引きずり込まれるような力が働くと、電気ショックみたいな魔法をテグスを通して奴にお見舞いして弱らせる。引かれれば緩め、時折強く巻く――といった形の駆け引きが行われ、ザオを支える水夫も体力の消耗が激しい。
「やはり海の、いやこいつも魚だ!」
ザオの力の入った独り言。
引きの強さは、主としての格の違いを見せつけられている感じだ。
海の上だから足場の安定が悪い。
「握り飯を持ってきたぞ!」
と炊事場からホビットっぽい娘が差し入れを持ってきた。
上甲板にある全員が『これは有難い』と、賞賛する。にっかり笑って『当然だ!私が握ったのだからな』と、娘が応じているアットホームな雰囲気。
調理師見習いもご相伴に預かってと、腕を伸ばし握り飯を口の中へ。
「旨い! こ、これに一体どんな魔法を?!」
目を輝かせている。
「魔法? 単に塩と白米を握っただけだ。あるとすれば、愛情をひとつまみといった感じかな?」
ってネタを織り交ぜて、水夫たちが『姐さん、あざーす』と応じた。
「塩と白米... 愛情という魔法か!?」
ちょっと違う方を見ている調理師見習い。
「愛情という魔法は、ユニークスキルか何かで?」
「おいおい、真に受けんな。愛情なんて魔法はねえよ」
ベックが心配そうに見習いを諭している。
ホビットの娘も『調理はスキル、魔法が介入する余地なんて無いよ?』とも付け加え、彼は膝から崩れ落ちている。何が彼にあったのだろうかと、皆が酷く心配になっていた。
◆
「うぉぉぉぉらー!!」
最後に雷衝撃が放たれると、キラー・シー・バスの白い腹を上にしてぷっかりと水面に上がってきた。
長いながーい1日の戦い。
しかし、ザオの戦いよりも、泣き崩れている見習いの方が皆の関心を惹きつけていた。
カメラの前では、体長4m半程度のキラー・シー・バスを横にて記念写真を撮っている。
が、誰も彼を賞賛している気配はない。
「おい!」
ザオが疲れた体に鞭打って、見習いとその輪に向かって怒気交じりで近寄った。
「釣りあげたぞ、この野郎!!」
「うるせぇな!」
ベックに恫喝されて、ザオが口ごもっている。
見れば、調理器具は揃っている。ただ、武器として防具としての使われ方の方が目立つといった感じで、調理された経過がないのが現状だった。いや、彼はそもそもどうやって調理してたのか。オブジェクトを黒焦げにさせたりと。
「...魔法です」
衝撃的だった。




