-13話 とあるミミックの話-
ダンジョン経営には、お金がかかる。
管理者は、スカウトのスキルを駆使して魔獣や魔物を外から勧誘して働かせているのだが、ダンジョンには勧誘以外に外からこっそり住み着くモンスターも少なくはない。その一つが、ミミックという蒐集癖のある宝箱の外見に擬態している魔物だ。
彼らは、ダンジョンの隅々を移動しながらゴミや遺物などを回収している。
目敏いミミックともなると、鑑定スキルを駆使して高価な遺物を選り分ける能力さえある。
だが、彼らには特筆すべき戦闘能力はない。
しかし、ミミックの徘徊パターンは常に強そうなモンスターの近くにいるという事だ。
すぐ、そこまで辿り着いた冒険者が力尽き、無念の言葉を残して脱出していくのを見届けたら、遺物の鑑定をして選り分けて、要らないものをダンジョンの入り口付近に捨てておく――という賢さをもつ。
結局冒険者らは、自分たちの装具を探して、また潜り、そして退散するという循環を見事に生んでくれるのだ。
◆
ここにミミックがいる。
ダンジョンにこっそり入って生活する事、半年にはなろうかという頃。
うっかり管理者とばったり出会ってしまった。これは最悪だ。
管理者の不審な視線がひどく痛い。刺さるようなというのはこういう事だろうと体感していると、懇意にしているゴーレムが、その視線を遮ってくれた。ミミックは来た道を一目散に逃げていく。だが、存在がバレてしまったからには長くは居られない。
そろそろ出ていこうかと考えていた、ある月の晩に――管理者がミミックを訪ねて来た。
「いや、危害を加えるつもりはない」
と、彼が細やかながらと酒を勧めてきた。
見ると、街で有名な“幻想郷”という銘のものだ。
「そのままでいいから聞いてくれ」
管理者はとくとくと、愚痴をこぼし始めた。
それは来場者の足が引いていることの嘆きだ。
ミミックの目からみても、このダンジョンは最盛期からみてだいぶ落ちぶれたようにも見える。
レベリングに関して特に有用だった、リビングアーマーたちが個体数で少なくなったのが痛い。また、最深部にいるミノタウロスが引き抜きにあって離脱し、魅力は更に下がってしまった。
ダンジョンなんてのは、遊園地みたいなものだ。
アトラクションにスリルとか、斬新さを求める傾向にあって各地にちょっと名のある魔物がいるだけで、人はたくさん集まってくるのだ。かつてのこのダンジョンも有名なスポットだった。
副業に温泉宿とか始めなければ、身包みを剥がされた冒険者が今一度、挑戦いたす!みたいなことを叫びながら突貫してきたものだが、手軽さとスリルが相反してしまって没落。結果、武勇を誇る人気者たちも去っていってしまった。
今、残るモンスターで強いといったら、ゴーレム君しかいない。
「俺は、どこで道を間違ったんだろうか」
そんな事は知らん――ミミックは潮時かなとも思ってしまった。
「そこでだな」
嫌な予感がしてきた。
ミミックが宝箱の蓋を閉じている。
聞く気はない。
「ミミックの宝をエサに冒険者を呼ぼうと思う!」
彼の姿は、そこにはない。
ダンジョンの壁に穴が開いている。宝箱がひとつ通れる小さな穴だ。
これを抜けると、外の草地に出る。
まあ、潮時だが半年も掛けて仲良くなった友を棄てるのも忍びない。
そんな風に感じていたら、水辺でスライムに囲まれている少女と出会った。
「!」
スライムの種が異常すぎた。
ミミックの知識でもこんな魔力に満ちた種は知らない。
「そんなとこでぼーっとしてないで、一緒に干し肉でも食べる?」
彼女は、桃色の短髪に2本の癖毛を揺らす、くのいち風の娘だった。




