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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
本編 異世界の章 大魔法大戦
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-374話 皇女殿下、救出作戦 ①-

「――使者殿が来られました」

 宰相の前に歩み出た兵士が片膝を突き、こうべを下げている。

 振り返れば、灰色のローブを纏い、ひと際大きめの宝珠を嵌め込んだ杖が特徴的な魔法使いがあった。

「どちら様かな?」


「これは異なことを...ボクをお忘れですかバティ卿」

 フードを取り、特徴的なくせ毛が露になった。

 宰相の目がくるっと大きく見開かれると。

「これは我が知己、灰色の賢者殿ではないか!!」

 と、大袈裟に驚いてくれた。

 ここまでは、彼ら二人による即興の芝居である。

 既に文通を通して連絡を取り合って、知己以上の仲にまで発展はした。

 “灰色の賢者”の名は、第三次魔王討滅戦の参加国の中で知らない者はいない救済者だ。


 召集した帝国は、魔王軍を陸上で迎え撃つという方針に転換すると、決戦こそは西欧地域と定めたのである。これに参加した国々で造反が興り、敵味方相容れる壮絶な内紛に発展し、人のみならず多くの種族が傷つき倒れた。

 “灰色の賢者”は、この悲惨な状況下でふらりと現れた救済者だ。

 高度な回復魔法を用いて人々の傷を癒す。

 賢者の献身的な医療行為は、ビスケー湾とケルト海の制海権攻防戦まで記録されている。

 その後、イベリア海に浮かぶ“ログローニョ島”に渡ったという処までは把握されていた。

 賢者と文通していた、宰相バティはケファロニア島の王国に仕える。

 騎士であり、魔法使いでもある。

 消息不明だった賢者から文が届き彼女が、南洋王国にて厚遇されていると知る。


 そもそも、第三次召集で造反国を多数出したきっかけは、魔王軍側の外交が発端だと言われている。

 表向き、世界評議会という形式で各国が召集され、“世界”の命運を賭けて戦う筈の仕組みを帝国は、支配欲を満たすために利用した。

 単純な話、チューリップが見たい――と、言えば球根を手に入れればいい――だが、帝国はその栽培国をそのまま手似れようとする。

 結果、戦禍で焼失しても関係ないのだ。


 “夏、海で海水浴をしてみたい”と、いう理由でジェノバ王国は、帝国によって滅ぼされた一つだ。


 こうした国はいくつもある。

 ハイエルフの血筋の皇帝は、国内の森を守っているという。

 だから、造船に必要な木材は、余所から調達する必要があるのだという事情。これに呼応する形で、多くの緑豊かな国々が占領されていった経緯から、“世界”にとってどちらが脅威的か窺い知れる。

 魔王の外交官は、こうして巧みに取り入り友人を増やしていった。


 灰色の賢者も、その外交官のひとりである。



 マルタ修道院系列の診療所から、先刻前に退去したチェーザレは御伴とものベスとともに、牛蒡みたいな顔筋のノービスを引き取る為に、街の衛兵詰め所を訪れた。

 街は区画ブロックごとに詰め所が置かれ、それぞれの区画エリア内の事件しか担当しない仕組ルールみで成立していた。

 マルタ島の寄港は初めてではないが、街の中にまで入った経験はない。

 かつて、軍属だった頃に一度だけ、地中海を訪れた――あれは、魔王軍と対立するより以前の事である。


「ノービス、いない...」

 ベスの目に涙が光っている。

 いつも揶揄ってくる相棒が、傍らに居ないのは寂しいのだろう。

 袖で目を擦る。

「この詰め所も違ったか...」

 チェーザレの溜息も多くなる。

 ノービスとは、軍歴つきあいが長いとも言えないが短くはない。

 チェーザレの勅任艦長時代が短いのだ。

「お前らの探してる奴婢おとこなら、奴婢裁判所マーケットじゃないかな?」


「は?」

 チェーザレの落胆を気遣った衛士のひとりが声を掛ける。

 他の同僚たちは、目も合わせていない。

 いや、合わせる顔がないという雰囲気だ。

「今、なんと?」


奴婢裁判所マーケットだ。罪を犯した奴婢おとこは、所有者の有無を確認し、免責の剥奪手続きを取る。罪の重さで競売がスタートする...これが一般的な我が国の法律ルールだ。だが、他国の奴婢おとこは、国籍調査の後、対象国との関係と素性を考慮される故、少しばかり時間が――」

 講釈していた衛士の前から、ふたりの姿は消えていた。

 周りの同僚を見渡す彼女に、声を掛ける者はいない。


「ノービス、売られちゃうの?!」

 ベスが鼻をすする。

 もう、泣きそうである。

「大丈夫だ、軍籍が剥奪されているが...女王、いや、俺たちを見放すとは思えん...」

 マーケットへ急ぐ。



 ジェノバ自治領・総督府にデュプレの姿があった。

 総督府は、城ではなく単に館である。

 三階建ての横に長い家屋というイメージ。

「長らく、“陛下”の気を揉ませてくれた訳だが、それで...試作艦艇は、出来たのかね?」

 総督は、小太りのおっさんに交代していた。

 これが、帝王の逆鱗という事なのだろう。

 デュプレの目には、あと何人がその席を温めるのだろうという影が見える。

 今、眼前にいる小太りの総督が、薄らぼんやりとしか映っていなかった。

「問うているのだが?」


「完成報告ですから、進水式も済ませております」

 総督の目が萎んだ気がする。

 その点になった目の瞬きの早いこと、滑稽である。

「ま、まて...今、なんと?」


「完成報告です」


「違うわ! その後の...し、進水..式、だ!」

 総督が席から腰を浮かせている。

 デュプレが小首を傾げて、『堕ちますよ?』と声を掛けなかったら、前のめりに床を舐めていたかもしれなかった。

「ええ、進水式は内々に済ませました」


「な、なにをしれっと申しておるか!!」


「総督閣下、どうされたので?」

 彼と総督の温度差は相当にかけ離れている。

 デュプレにとっては、進水式なんてものは書類的にさっさと済ませ、本題である“量産化”に踏み込む必要があった。今回建造された船は、未だ、実用的な軍艦であるか未知である。過去、国威の為に建造したガレオンが処女航海を目の前にして、沈没したというエピソードもある。

 レジャーボートなら、浮いてこそ喜ばしい事だが、軍艦にはそれでは困る。

 まあ、浮かないのも根本的に困るのだが。

「もう、いい!! で、“陛下”に報告できるのだよな?」


「はい。その為に再度、予算の追加をお願いしに来ました」


「まだ、脛をかじるのか???!」


「はい」

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