-369話 北アフリカーナ多島海のハイエナたち ⑤-
「アレクドロスの連中が随分と、余計な事をしでかしたと言うじゃないか?」
騎士王の声が会議の冒頭で響き渡る。
ハイエナ会議と言うのは、現地での揶揄だ。
多島海国家定例会議というのが、正式な呼び名である。
「政変を3回も乗り越えたのだ。大目に見てやれんのか? 麗しきは騎士王閣下...」
かつてモロッコだった地に面影を残す、港町フェスをもつ“ウェザーン王国”。
ホビットの住む島である。
その代表もホビット族をして長老という立場の賢人が、国王の代理として召集されていた。
もっとも、本人の強い希望で適っているという噂もある。
《若い国王には、騎士王の四肢、毒にしかならんし...儂のような色も艶も知ったものでないと、アレの良さなど分からんものよ》
といった、戯言を口にしているという。
影では、アマゾネスとゴリラの間に生れ落ちた騎士王という揶揄いがあり。
表では、麗しき騎士王と揶揄った――本人曰く『下半身で物事を考える奴らの虚栄だ。そんな下らない事で、私の手を煩わせるな』恫喝したという話がある。
まあ、そういう賢人の故郷であるウェザーン王国は、多島海の中では随分と大きな島だ。
恐らくは、最大級と言って差し支えはないだろう。
また、アトラスシダーの産地でもある。
「ふん。お前のとこの少女と一緒にするなよ」
騎士王は、アマゾネス族の女王に見間違われるほど、筋骨隆々としたマーメイド族の女王である。
種は、人魚族であるから海に入ると、腰から下は魚になる――鍛え上げた筋肉が人魚本来の姿だと鎧以上の機能を得ることから、マーメイドと呼ばれた彼女たちは、流行り病のようにいや、狂ったように筋肉を求めていった。
その結果、海に住まう見目麗しき妖魔というイメージから大分、かけ離れたアマゾネスの誕生である。
例えば、後ろ姿――肩幅は広く背中は大きい、逆三角形の上半身に細い腰が支える。臀部は肉より筋肉が発達し、ぎゅっと締まった筋肉繊維のひとつ、ひとつが浮き出るように見えた。
尻の繊維で、枝を折れそうな雰囲気がある。
彼女らの目の前に回ってみる――胸筋の発達、腹のシックスパッドに愕然とするなか、唯一の女性視できる点はふたつの乳房である。まあ、腰布を剥ぎ取れる勇気、いや死ぬ気があれば性別を確認できるだろうが、会議の出席者はおろかこのマルタ島でも、死を恐れない連中は居ない。
だから乳房が丸く果実のように乗っかっているのを拝めるだけでも眼福という。
その騎士王の立ち姿も、筋肉を極限まで締め上げた彫像のようにみえる。
締まった尻の肉、腰から腹側筋なども喉が鳴る。
いや、一番きれいなのは、胸筋の上にのる丸い乳房だ。
アマゾネス曰く――単なる肉である――脂肪の塊で、駄肉ともいわれる乳房が丸く整えられて載っている。
「...騎士王は美しい」
わざわざ筋肉と身体のラインを見せびらかす為だけに、陰影のはっきりする窓の傍に立って見せている。騎士王本人も、“他人に見られている”というソレに興奮する変態さんだった。
わざとらしく見て欲しいから、会議の席では必ず恫喝めいた台詞を吐いて、窓の際にまで歩いていくのだ。これはどの会場でも同じことをしているので、一種のパフォーマンスであることを皆が承知していることだ。
しかも、皆に見せる為に、身体を鍛えてエイジングケアに余念がない。
もしも、彼女に自由というギフトが贈られれば、大好きな“ソフト泡クリーム”を生涯食べ続けたいという願望がある。適当に“卵”を産んで、ひとりかふたり、子の傍にいて駄肉を揉みしだかれながら生涯を終える。
そんな、何処にでもいそうな婦人のささやかな望みだ。
「じゃ、今回の会議だが――南洋王国を通じて、魔王軍から正式に交易の橋渡し要請があった。各国にも通達しておいたことだが、内容のお浚いをする。魔王軍の拠点は現在、大きく分けて3つ...西欧諸国と、南アフリカーナ多島海、南洋王国となる」
窓際にあった騎士王のアピール時間をスルーされた。
いや、もっと声を掛けてくれてもいいものだと、本人は思う。
ちょっと肌寒いのに、臍まで出した露出の多い軽装鎧もこの季節では、滅多に着ない貴重な姿である。夏場は水着で登場してからは、皆の反応が幾分かソフトになった気がする。いや、あの興奮をもう一度とさえ思う――彼女の引っ込むに引っ込めない状況を他所に、会議は淡々と進行していった。
「どれも補給線が繋がっているようには思えないが?」
「ああ、繋がってない...繋がっていないが、彼らには転移門魔法を行使できる連中がある。もはや点と線で結ばなくても、点と点で結ばれているようなモノらしい。物資や人は、この方法で送り合えるらしいが、彼らは繋がりという事象を求めているという話だ。これは、南洋王国の女王から伝えられた言葉だ」
皆の目が騎士王に注がれる。
南洋王国の女王もまた、人魚であるから――
「私の親戚ではない」
皆の落胆した溜息が漏れる。と、同時に『ああ』といった安堵みたいな声も漏れた。
「な、なんだ、今の声は?」
騎士王に向けられた視線に反応して、変なポーズをとってしまった己の浅はかさに猛省する騎士王があった。何となく、窓際から入る風が冷たいなどを理由に席に戻り、借りてきた猫のようにおとなしくなる。
「い、いや...なんでも」
南洋王国の女王はさぞ、女性らしい柔らかな方なんだろうなあ――という理想を出席者すべてが創造した。そう、柔らかなというフレーズは、“ふくよかな”に置換されていた。
「なんか、今、よからぬ事を」
南洋王国の女王いや、南洋王国のマーメイド族とは、その間にふたつの一族が割って入るほどの距離感にあった。
厳密に言うと、殆ど他人である。
交流が無いのだから、同じ種だけでは――。
「いえいえ...何にも」




