-04話 冒険者ギルド-
《冒険者ギルドとは、冒険者の行動指針となるクエストを自動配信するサポート施設と――》
彼女は、眉間に皺を寄せて細い目になる。
今までいた世界にも『冒険者ギルド』という施設はあったけど、『ナビゲータ』の言うような斡旋方法ではなかったと記憶している。
彼女のいた世界で確認された『冒険者ギルド』には人を介した広大な地域をカバーするネットワークが存在し、これらを利用して、遠方や近郊に物資や情報を送っていたという。その担い手が冒険者という輩だ。より強力でより勇名を得ている連中は、魔王軍と対峙して名を馳せた連中もいた。
「ボクの邪魔をした...緋色の連中みたいな」
《緋色...ですか? 申し訳ありません。アーカイブにはそのような記録はございません》
「いや、別にいいよ。 ボクの独り言だから」
「...そうだ、街にいくなら路銀とか大丈夫なのかな?」
彼女は、身体の周りをまさぐりだした。
《先ほどのように、音声で『アイテム・バッグ』と呼ばれると中身の確認ができます》
「ほう!」
彼女がナビゲータに習って、背嚢内のアイテムをチェックし始める。
自身が『今』装備しているアイテムと、任意で使用するアイテムとに分かれて表示され、所持金が表示されていた。
「懐かしい、ロープ・ダガーだ!」
と、腰の短剣を鞘から抜いて構えた。
抜刀すると、臨戦態勢みたいな状態になるらしい。
《ロープ・ダガーですか、珍しい武器のようですね! アーカイブでは使用条件が厳しすぎるように思えますが...》
「こいつを考案した後、制御するのが苦労でさ。神出鬼没でアクロバティックな攻撃ができる点を差し引いても、面白い武器なんだよ! 特にこのロープがさ」
と、ダガーの柄に括り付けた、ロープの伸縮性を自慢している。
あとは副装備の籠手だろうか。
爪までがひとつの鎧で構成された、特殊なガントレットだ。
《格闘家には見えませんね、種族性とステータスの状態からでは忍者に見えます》
「あれ? ナビゲータさんもボクのステータスを確認できるの?」
《はい、私はあなたの為に生成されたナビゲーション人格なのです》
「なるほど」
彼女は、ぽんっと胸の前で両の掌を合わせると、何かに向かってにこっと微笑んだ。
ナビゲータが見える訳ではないが、ナビゲータ人格に対して微笑のエモーションをごく自然に発生させただけだ。物凄く後に、仕草の“型”という感情表現がシステム的に内蔵してあることを知るのだが、暫くの間、彼女の表現方法は色鮮やかなものだったという。
さて、御一行?の足取りは軽かった。
はじまりの街こと、スカイトバーク王国領・バクー周辺は、システムで定められた安全圏の内にある。
低位の動植物などしか存在していなくて、非常に安全に作られている。
公式アナウンスでも、ストーリーモードでもこの辺りの件について詳しく触れているが、スカイトバークという国が中央大陸の更に東よりにあって、最前線より遠いというのが理由のひとつになっている。
ただし、安全圏より出れば危険度は高い。
他の街は、たとえ街中でも安全とは限らない。
そういう設定が施されたかつてのバトルロワイアルを採用している。これらの設定は、ゲームの根幹であるため、MODクリエイターズが書き加えたものでは無い。また、新たに安全圏を書き加えることもできなかったというのが、彼らのサイトで記されていた。
ま、その話はだいぶ先になりそうだが。
出現した湖から、街までの距離は然程では無かった。
バクーの雰囲気は木杭の柵で守られた、赤煉瓦一色の可愛らしい街並みだ。
街の外には麦畑が広がっていて、長閑だし柵の内側に平屋の民家、街の中央を走る大通りに沿って二階建ての家屋が建っていた。
ナビゲータは、先ず、冒険者ギルドに登録するよう促した。
初心者や駆け出しの冒険者は必ず、ギルドにその名を記す必要がある、が絶対ではない。
ここがフリースタイルの特徴なわけだが、ギルド以外の選択肢を冒険者自身が見つけることに重点を置いているのだ。
では、ギルドとしてのメリットは何か。
ひとつに――新人研修プログラムへの参加が可能になる。
所謂、学校のことだ。運営は有志によって行われ、基本的な行動支援を受けられるし、かわいい制服を着る事が出来る。季節ごとに制服のデザインが違う事でも有名で、界隈では高額取引されることもある。
ふたつ目は――安定した収入源の確保が容易である。
自動発生したレベルキャップのあるクエストは、ギルドに所属している冒険者のみとされている。日に〇回と定められた高額クエストや条件のない、中・低額クエストもギルドの斡旋によって冒険者に紹介されているとするシステムなので、根気さえあれば毎日の金策で困ることは少ない。
みっつ目は――登録したメンバーならば自由に検索可能だという事だ。
やはり、どの世界でも人の繋がりが大事となる。
パーティを組んだり、無二の親友を得たり、生涯のパートナーを得たりと、様々に関われるのに必要なのがギルドに登録するだけで簡単にできる。
あとは、各種のサービス面になる。
ギルドの支部から、ポータル圏に物資を送るのにもギルドの宅配サービスが使える。
これら上記のサービスを敢えて拒否する方法として、フリースタイルでの非ギルドという行動の仕方。
難易度は高い――すべてのクエストには、レベルキャップが設けられていて、彼我のステータスをシステムが管理している。これを撤廃して手探りでクエストを受ける事が出来る。
クエストを無事完遂できれば、報酬も高額なものが殆どなので金策等に困ることは無いだろう。
しかし、リスクも当然高いのが現実だ。
非ギルドでは、冒険者同士で組合をつくっている場合もある。
有名なところでは、盗賊ギルドだ。
いや、結局、ギルドを名乗っているのだが、こちらは入会条件がちょっと厳しい。
もっとあとに仔細を書こう。
他の有名どころでは、暗殺ギルドだろうか。
ま、ここも今は名前だけに留める。
さても、彼女のギルド登録も済み、併設された食堂で遅めのランチをとっている。
メニューは、オムレツの上に小さな旗が刺さっているので、差し詰め『お子様ランチ』であろうか。
「ちょっと、宜しいですか」
目の前のオムライスにスプーンが刺さる寸前に、声を掛けられた。
かなり不機嫌そうに視線を上げると、彼女の前に軽装の冒険者が立っていた。
「初心者支援プログラムの指導官です。このあとお時間がありましたら、是非、プログラムの参加にお付き合いください。仔細は『メッセージ』でお知らせします。では!」
と、冒険者は走り去ってしまった。
彼女は気を取り直して、はじめての『お子様ランチ』に最初のひと匙をつけるのだった。
 




