-03話 ナビゲーション-
「ぐあぁ、痛っ」
前のめりに突き刺さった人影。
丸くて大きなお尻が天に向かって聳えてた。
「ぷっふぁあー」
これ以上ない大きな声で上半身を起き上がらせると、満天の星空が瞳に飛び込んできた。
見たことも無いほどの多くの星々と、煌めき。かなりの速度で動く月、三つ子らしい中央に大きな赤い月で、左右に小さな星が見える。徐々に明るくなっていく、夜明けが近いらしい。
僅か5分足らずに感じる。
まだ、身体の感覚に成れない。
膝をひらいて、先ほどの丸い尻でぬかるんだ地に腰を下ろして空を仰ぐ。
そう、腰が水につかって冷たいのだ。
「おわっ! 濡れてる」
ぴょんっと飛び跳ねると、腰の周りを掌で確認する。
先ほどまで座ってたところに大きなお尻の跡が残っていて、それを不思議そうにまじまじと見つめる。
「あれ? ボクの、これ?」
《性別は、Feminia を選択され、外見をスキン種族として、Fuman が選択されました》
聞き覚えの無い声が響く。
当然、人影はあたりを見回すけども、周囲がちょっと焼け焦げている状態で、影以外を知覚できるものは存在しない。
「これは?」
《半径500m以内に知覚可能な動物反応はありません》
《また、同系・他系種族もありませんので、自動索敵プログラムは停止します》
全く意味不明な言葉を並べられたと思った。
自身が女性であることには聊かも不安はない。ただ、人間というのはどうだろう?
まあ、現に目の前の痕跡は肉付きのいい尻のようだが。
「頭の中を整理しよう。確か、北の大国が上位魔族を生贄に善からぬ実験をすると称して、最前線より深く進攻し、緋色の連中と一戦を交えたところまでは覚えてる。よし、これは問題ない...」
彼女は、シャギーの桃色の髪を荒々しくボリボリと掻きながら、額を何度もなでる。
だいたい何でこうなった?
何で、何で、何で...
「どこだよ、ここ!」
《中央大陸の北欧地域、スカイトバーク王国領・バクー『はじまりの街』と呼ばれています》
「は?」
聞いたことがない。
いや、似たような響きの街や国名はどこかで聞いた覚えがあるけど、でも分からない。
《地図で確認しますか?》
「え? あるの? ボク、持ってる」
《ショートカットも御座いますが、音声も認識します。『メニュー・マップ表示』で常識的な範囲内の世界地図が表示されます。仔細な情報は自ら訪問して埋めていくのが宜しいでしょう》
声に従って世界地図が手元で開いた。
どうやら小さなポーチに押し込まれた魔法のアイテムらしい。
見れば、地図の一部が小さく光っているように思える。
《その光がプレイヤーの所在地です》
プレ? いや、なるほど確かに池の近くにいるらしい。
水辺、水辺と、忘れかけてた自身の状態を今一度、確認し始める。
彼女は、湖面に自身を投影させながら外見スキンという姿を初めて知る。
年齢は十代後半っぽく、懸念の胸が見当たらない。
普段の擬態してた容姿と、ほぼ同系統だ。確かに違和感がない方が動き易いけど、少しは魅力的という言葉を言われてみたかった。髪はシャギーの桃色、2本の触覚は何かの嫌がらせか、瞳は紅玉に光っていた。
「ちょっと老けてるけど、これ普段のボクじゃん!!」
老けてるというのは、普段は十代中ごろにあったからだ。
いや十代後半なら、乳房の成長を人並みに欲しかったと悔やまれる。
なぜ、尻だけが成長したのだと。
《種族のランダム成長ボーナスです》
「はい?」
《臀部が成長したことにより、敏捷性に若干の補正アップがなされ...》
「...今一、理解に苦しむけど、ボクの状態まで...分かったりする?」
《はい! プレイヤーのステータス確認は、音声認識『マイキャラクター』で表示されます》
「ほー。数字が並んでる...ちょっと怖くなってきた」
《ステータスは、基本的な能力であるとは別にスキルやアイテムによって補正されアップします》
「補正アップするって事は、ダウンもあるって事だよね?」
《エネミーからのデバフ効果がそれに当たります》
「...」
頷きながら、湖面を眺めてた。
「この水、飲めるの?」
《オブジェクトは壊すこともできますし、アイテムを食べる・飲むという常識的範囲のことは可能です。但し、材木やレンガを食べても食事にはなりませんよね? 最悪、お腹を壊して病気になりますから、デバフ同様にステータス被害は、身近にも起こり得ると考えて差し支えありません》
「飲めるのか、で。ボクは次に何を」
《はじまりの街に行くことがもっとも合理的な手段だと思われます》
「街には何があるの?」
《街には、冒険者宿と、各職業ギルド、闘技場にその他の新米や熟練の冒険者が存在します》
「で、あなたは?」
《申し遅れましたが、私、初心者応援プログラム・音声ガイド・ナビゲーションでございます》




