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ハイファンタジー・オンライン  作者: さんぜん円ねこ
ある場所、ある世界の原風景、さあ開演です
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- ルーキーたち -

「良き冒険者ねえ、そうだなあ。人それぞれに答えが違うような気もするが、俺から言えることは“命を粗末に扱うな”と、そして“自分の身の丈を弁えていろ”って処かなあ」

 年配のというには少しくたびれた様子だが、彼もこのあたりでは有名な冒険者のひとりだ。

 大陸には各地方ごとに、エリアボスと言われるような魔獣や魔物たちがある。

 そんな途方もない連中の討伐に参加したことがある中で、唯一生還できた数少ない生き残りである。

 それからは、飛ぶ鳥を落とすような忙しさだと言って自慢していた。

 だから、ギルドは新米たちに“彼の武勇伝を聞いてこい”とクエストのフラグを立てたのだ。

 聞き取りを終えたのちは、当然、試験が待っている――「彼はどんな話をした?」って。


「今年の合格者はまた一段と多いね。そんなに物騒な話は無いと思うんだけどね?」

 ギルドがある町の市長が訪ねてきた。

 今年の義援金について相談があるとのことだ。

「いくらかはパフォーマンスですよ。合格のラインを下げて商家や貴族の子弟でも入れるように調整してあるんです。見た目は多く見えますが、本当に冒険者として残れるのは、例年通りにこの数の1割も満たないでしょう」


「手厳しいなあ、もっと...いや、これは愚問だな」

 言葉を飲み込んだのは、市長も冒険者の致死率を知っているからだ。

 ギルドの誘致には多くの労力と、金がかかっている。

 そして多くの人の命だ。


 それまでのこの町は、辺境故に地方領主の衛兵が偶に来る巡回に一縷の望みを託していた頃がある。

 ギルドが出来てからは、冒険者が衛兵の代わりに街道の治安と、定期的な魔獣討伐をしてくれるようになって交易路として繁栄していた。冒険者にはそれぞれに大きなメリットがあり、同時にデメリットは()()だけである。

 メリットの一つは、納税の義務が生じない。

 どの国にあっても、土地を得たとしても本人が冒険者である以上は免除される。

 理由としては、先のとおり生命を代価として()()()()()()()()()するからだ。


 では兵隊とは何が違うのか。

 彼らは()()という徴税の代替品で政務に参加しているに過ぎない。

 納税の義務を兵役という形で相殺しているに過ぎないのだ。

 兵役中に何もなければ、生家に帰ることができた。

「北方の方では、魔物たちの親玉みたいな連中と帝国が戦っているのだろう?」

 市長は風の噂を話題に挟み込んできた。

 義援金に触れたがらないから集まりが悪いように勘繰られる。

「そのせいで、彼の地域の魔物たちがいきり立っているとか。帝国は早々に“鋼鉄スチール・腕鎧ガントレット”を最前線に送ったという話が()()たちの囀りに上がってきたようです。中欧のウォルフ・スノー王国からは“緋色スカーレット・コクーン”が、スカイトバーク王国の“疾風の蒼き狼”、南欧の“水晶クリスタル足鎧・クリーブ”とまあ、名だたる英雄たちをかき集めているという話です」

 頭を抱えながら、

「町の外に出たことのない私には、鋼鉄のガントレット以外は良く知らんよ。で、これらは何の前触れだというのだね...まさか? かの大魔法使いが召喚せしめた魔神の襲来というものの予兆なのかね?」

 ギルド長は周りに目を向け、市長の耳元で――「魔王がこの世界に来るという話ですよ」――なんて耳打ちした。

 ()()なんて魔界では、地方領主の爵位に過ぎず世襲で次代へと受け継がれていくものでしかない。

 が、それは魔界側の事情であるから、あずかり知らない人間サイドでは、魔物を統べる者という代名詞であった。


 だから、少し煽った言い方にすれば集まり難かった義援金も、例年通りの額面でギルドの金庫に納められるわけだ。

「で、大丈夫かね?」


「なんでしょう...」

 ギルド長は小首を傾げる。

 本気で市長の考えを察することができない。

「この周辺は、だよ」

 内陸部で、黒海方面だ。

 北海にあるなら、高度な政治的条件によってさまざまな要因で、見捨てられるかもしれないが。

 こんな場所で戦争が起こることは当分ない。

 ギルドだけでなく、世界評議会でさえそういう考えだ。

「まあ、当分は問題ないでしょう。ここの魔物は今年のルーキーたちで十分です」

 という打算的な考えは、通用しないのがこの業界だ。

 巣立った117名のルーキーたちは、E+冒険者として力強く一歩踏み出した。



「深いな?」

 横穴の入り口を背に、張り付くよう4人が囀り合っている。

「何の穴?」

 見た目で分かったら一流と、講師は言うだろう。

 入口の高さは、大柄の男でも身を屈まなくて済むほどだ。

 横幅は2人半。

 やや大きく作られているように思う。

《作った?!》

 斥候が不意に何か、感づいたようなそぶりを見せた。

 ただし確信が持てなかったから、仲間に伝え損なった。

「いずれにせよ、遺留品がここにある」

 これ見よがしに捨ててあるよりかは慎重というか、不審という――入口脇の枯草の山にあった。

「罠っぽい」

 直感では脳みそから、嫌悪すべき脳汁がドバドバ出ている雰囲気だ。

 経験が浅いというのはここでも確信が持てない。

 上級冒険者がこのPTの中にあれば、間違いなく首根っこを捕まえて帰宅させていた。

「どうだろう??」

 ルーキーはゴブリンの巣を襲撃しに来た。

 だが、この穴はその巣ではない。

「よし、行こう!!」

 こうしてリーダーの青年を先頭にして進んでいく。

 通路はどんどん広く高くなる。

 が、何かに見張られているような雰囲気があった。


「なに、この視線」

 ゴブリンとの戦いでは野戦を熟し、それなりに自信はもてている。

 が、巣穴戦ともなるとやはり勝手が違うなと、悟り、松明を掲げてみた。

 耳障りなギギ、キチキチ、キリリ...なんて音の主が松明の灯で曝け出される。

 目の前に大きな蜘蛛がいた。

 元はゴブリンの巣穴だったようだが、彼らは見事に簀巻きになっている。

「げげっ!!」

 一同が戻ろうと踵を返すと、後方の神官は何かに躓き網にかかってしまう。


《あ~ら、残念》

 思念を媒介に4人の頭の中へ言葉を投げかけた。

《ごめんなさい...あなた方エサは、ここへ来る数キロメートルも手前から、大方の様子が分かっていたから、それなりに工作させてもらったわ》

 わりと饒舌だと感心したが。

 リーダーはベテランの忠告ことばを忘れていた。


――命は、粗末にするなよ!!


 斥候の声は聞こえていないし、魔法使いもローブの裾を自ら踏みつけて豪快に突っ伏している。

 彼らの周りにはゴブリンたちの骨が、散乱している状態だ。

「いったあ!!!」

 身動き取れない神官は、魔法使いへ額が切れて、血が出ているというアピールで忙しい。

《これね、後ろはもう閉じてあるから...前門の虎、後門の狼って言うのよ?》

 人語を介する魔物は、戦士リーダーの剣を足で払い除けた後。

 斥候の下へ、まあ一歩か二歩くらいだろう。

《あら、イケメン》

 4人は帰ってこなかった。

 魔物たちは各地で興奮状態になっている。

 周期的な問題ではなく、そう、外界から極めてとてつもない力を持つ化け物たちが来たからだ。

 その気に当てられたように、興奮して自棄を起こしている。


 例えば、世紀の預言者が「ミレニアムを前に世界は終焉する」というのに似ている。

 その時を迎える前日、前年よりもあと何百年、何十年などと言われてた方が狂気に走り易い。

 よくよく冷静に考えれば、大したことのない話だと気が付くものだが。

 そうも言ってはいられない。


 これが、魔物たちにも発症したのだ。


 蜘蛛の魔物は生贄として魔界に通じる奈落あなに彼らを放り込んだ。

 あちらは湖面の真上に出るらしいが――。

《世界が終わっても、私たちには繁栄を》

 よくわからない願いだが、共感はできる。

 ただし、第13魔王領の人々からすると、生活圏に不法投棄はしないで欲しいという、細やかなお願いも落ちてきた次元の穴に祈っている。

 ここ最近、ゴミばかりが堕ちてくるので水質が著しく悪くなっていた。


 不法投棄は絶対ダメ!!!

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